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恋編

5話 本当に…あいつは

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なんで──クソムシはいつも。

敵が減ったというのに心は落ち着かなかった。

クソムシは──昔からそうだ。

おれはクソムシのことを高校で会う以前から知っていた。

クソムシと中学のときに会っていた。

なのに───あいつは覚えてなんていなかった。

──────だからあいつはクソムシだ。

はぁっと息を吐く。

そして、家への帰り道を1人で歩いていた。今日は…カレーでいいか、と晩ご飯のメニューを考えながら歩く。

ボーッと夕日を見ているとすぐに家に着いた。

カバンのポーチから家の鍵を取り出す。
鍵を使ってがちゃっと家のドアを開けた。

ドアを開けると───いつもの玄関が見える。

そして───高そうないや、高い革靴がきれいに揃えて置いてある。

─────その革靴をみてイラッとする。

あいつ────またっ…!!

おれはいてもたっても居られずダッシュで自分の部屋へ向かう。

バンっ!!と大きな音をたてドアを開けると────


「ちょっ…もう、びっくりしたじゃないかぁ!」


─────案の定、おれのストーカー(自称)海翔がいた。


「てめぇ…出てけっ…、そして死ね。」

「えー、出てかないよぉ。

だって今日の夕ご飯、カレーでしょ?」

海翔は今日の夕ご飯をまぐれなのかはわからないが当ててきた。

(なんか…クソムカつくっ!!)

おれは晩ご飯を当てられたことにとてもいらついた。


「今日はカレーじゃねぇ。」

「えー!?だって勇太のもってるスーパーの袋に玉ねぎ、人参、じゃがいも、カレーのルーが入ってるんだよ!?

それでもカレーじゃないっていうの?」

こいつ…袋の中身まで当ててきやがった!!


「…うるせぇ。」

「勇太は偉いよねぇ。

料理なんて苦手なくせに毎晩毎晩亮君のためにつくってあげるなんて…!

しかも真面目だから少しでも量とか具の切り方が気に入らないと

作り直して時間かけちゃうんだもんねぇ!

愛だねぇ!」

あはあはっと海翔が笑っている姿を見るとイライラする。

そして、全て当てられたことにキレそうになる。


「あぁ。そうだ兄貴のために作るカレーだ。

てめぇにはやらねぇ。

一口もだ。」

「はいはい。

てか、毎日つくるの大変じゃない?

亮君と交代でやればいいのに。」


「…兄貴に…刃物を持たせるのは…」

兄貴に刃物はとても危険であることは過去の記憶からわかっている。


「あははっ。そっか。だよねぇ。

亮君は間違えていろんなもの
切っちゃいそうだしね…!

昔…みたいに?」

おれはバンっと壁を叩いた。


「─────出てけ。

────もう、二度と顔を見せるな。」

おれはそういって海翔を睨む。

「────それは無理ぃっ」

海翔はにこにこしながらそう答えた。

無駄にキラキラするその美形な外見に更にイライラは増していく。

「僕は、勇太の思いを聞きにきたんだもんっ。」

「は?」

「─────黎君のこと。」

海翔はにこにこ微笑みながらおれにそう問いかける。

「…それがなんだ?」

「黎君は恋のライバルでしょ?

いいの?そのままにして。」
 
おれは海翔の言葉を無視した。

教える義理なんてない。

こいつの話は全て無視するに限る。

「…まぁ。

勇太には無理だよね。勇太は…黎君に大きな借りがあるもんね。」

海翔はうんうんっと頷いて話し始める。

おれはびっくりして海翔の姿を見てしまう。

…こいつは、なんでそんなこと知っているんだ?


「あ、なんで知ってるの?って顔してる?

知ってるよっ!

僕は───勇太のストーカーだもんっ。」

海翔はにこにこしながらそう答える。

なにが…ストーカーだよっ。

「勇太が黎君のことを捨てられない理由は2つ。

一つ目は、過去、勇太は黎君に助けられたから。

二つ目は、黎君が亮君を助けたからだ。

勇太を助けるために黎君はすべてを勇太にあげた。

そのため、黎君はいじめられ、すべてを失った。

君は黎君に恩返しをしたかった。

でも弱い君は何も出来なかった。」

「…黙れよ。」

昔のことを話されるとムカムカする。

弱い自分を思いだす。

何も守れなかった自分を。

「勇太は黎君に憧れた。

黎君のようになろうとした。

けど───その黎君を君は潰してしまった。

君は後悔した。

そして、君は黎君のことを助けようとした。

けど、君は、助けられなかった。

──────監禁を止められなかったね。」

「───────っ!!」

気持ちが悪くなる。

やめろ、話すなっ…!!

「勇太は黎君が監禁されていることを知っていた。

けど────君はなにもしなかったんだ。

─────怖かったんだよね?

せっかく良くなった学校生活が壊れるのが。

だから君は────亮君に

任せた。」


「…っ、やめろっ…!」


「亮君は君のお願いだからね。

断れなかったのかな?

亮君は────勇太の約束を守り、

黎君を助けた。

──────勇太は、何もしてなかったよね。」

ふふっと海翔は笑っていた。

その笑みが…とても嫌いだ。

「あぁ。だから…何だって言うんだ?


おれは────なにもしなかった。」

おれがそう答えるとぷぷっと海翔は笑った。


「もう、勇太は誇るべきでしょ?

─────君は、黎君を助けたんだからっ…!!」

───────っ!

「…助けた…?」


「うん、だって黎君は

あそこで─────死んでたんだから!」

勇太はあはっと笑っておれを見ていた。

──────どうして海翔は平然とそのようなことが言える?


「勇太は黎君の命の恩人なんだよっ。

もっと自信持ちなよっ。」

海翔はそういって笑う。

──────何が自信だっ。



「─────おれはっ…」

おれは、


「きみは────正のお母さんが

黎君を殺そうとしたのを───

止めたんだからっ!

あそこで勇太が止めてなければ

黎君は確実に死んでた。

君はね、黎君を救ったんだ!

だから、過去の罪悪感を持つ必要なんてないんだよっ。

君は──誇っていいんだから。」


おれは──黎の母が黎を殺そうとしていることを知った。

だから───助けた。


「勇太は亮君が出来なかったことをしたんだよっ

勇太は凄いよっ。

流石、ぼくの──惚れた相手だ。」

にやにやと笑いながら海翔はそう言い放った。

おれにとって───嫌みに聞こえた。

おれは、黎を助けたのかもしれない。

けど、それは───おれが助けたのはただの罪滅ぼしだった。

決して善意ではなかった。

「…ねぇ。勇太ぁっ。」

海翔がいきなりそう甘い声を出してきた。

「君は───もう、罪から救われたのに…なんでまだ黎君を亮君のそばに置いてるの?

早く離せば────いいのにね?」

さっきから海翔の言っていることが耳に触る。


「…てめぇはなんで、そんなに…」


「黎君を…敵対視するかって?

それは黎君が邪魔だからね。」

海翔はにこにこ笑いながら答えた。

そして、言葉を続けた。

「…勇太が黎君を亮君のそばにいさせる理由…。

僕はこう、考える。

それは僕のせいでもあるし、亮君のためでもあるよね。」

っ…。
 
海翔はおれの思考、というより人の思考を当てるのが上手い。

特に───おれの思考は

確実に当ててくる。

まるでおれの心の中を知られているようだった。

「僕は前に言った。

『亮君と君はずっと一緒に居られない』って。

それを勇太はとても気にしていた。

だから…その時に勇太は備えているんだよね?

もし、自分が…離れなければならなくなったとき───

亮君のそばに黎君がいたほうが

楽だって、心配がなくなるって。」

っ…!!

「それって───黎君に

亮君を──譲るってこと?」

その海翔の言葉におれは即座に強く反応する。


「──────違うっ!!」

声が大きくなり叫んでいた。

「…あははっ。」

海翔はそういって笑って答える。

「そうだよね。

ごめん。冗談だよ。

君は亮君のことを離さないし

亮君も君を離さないはずだよ。

──────きっとね。」

海翔はふぅっとため息をつくとおれの椅子に座っていたが降りる。

よいしょっと声を出しそのまま歩き出す。

「おいっ…。」

「僕───帰るね。」

海翔はにこっと笑っておれの部屋から出る。

「おいっ…!」

おれがそう声をかけると海翔は言った。

「僕は黎君が邪魔なんだ。

そして、亮君も。

君だけが欲しい。

だから、僕はどんな手をつかっても

2人から君を離してみせるよ。

それが…僕の役目だからね。

僕は…君のストーカーで監視役

なんだから。」

海翔はそういって笑った。

おれは海翔の意味不明な思考にイライラが隠せなかった。

海翔は玄関のドアを開け、帰ろうとする。


そして、一言残す。


「あ、僕、一週間後、

君の学校に転校することになったんだ!


───────よろしくねっ。」

海翔はにこっと笑ってそう言葉を残して去っていった。


「…はっ!?」

おれがすっとんきょな声を出したときには

もう、海翔はいない。

(本当に────あいつはっ…󾭗)


「この───クソがぁっっ!!」


おれは興奮し、今日のカレーを激辛にして

兄貴の涙目を見ることで

ストレスを解消させたのだった。


つづく

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