バージン・クイーン -強面のイケメンのところに、性欲解消目的で呼ばれるデリヘル嬢の話-

福守りん

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15.スイート・キング7

1-4

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「教えて。なにがあったの?」
「知らない男の人に、つれていかれそうになったの。礼慈さんと、ほんの少しだけ、離れた時に」
「はああー?! それ、警察呼んだ?」
「呼んでない……。逃げちゃったの。その人が」
「信じらんない! せっかくの旅行なのに。だいなしじゃん!」
 すごく怒ってる。言わなきゃよかった……。
「おこらないで。礼慈さんが、助けてくれたの」
「それ、五月の話だよね? あたしには、なにもできないし、その場にいても、役に立たなかっただろうけど。言ってほしかった」
「ごめんね……」
「やっぱり、祐奈はあぶないよ。あたしは、そんな経験したことないもん。
 祐奈には、人を狂わせる力があるのかもしれない」
「……社長のことも、わたしが悪かったってこと?」
「いいとか、悪いとかじゃなくて。
 人を正気でいさせないくらいに、かわいいってこと。きれいだってこと」
「そんなこと、ない」
「本人が、わかってないんだから。西東さんも、心配するよ。それじゃ」
「そ、そう?」
「あー。いやな気分になった。こわかったよね?」
「うん。目の前が、まっくらになったの。車に乗れって、言われて」
「さいあく……」
 歌穂が、人を殺しそうな目つきになった。こわかったけど、きれいだと思ってしまった。
 歌穂の方こそ、わかってない。わたしよりも、歌穂の方が、ずっと美人なのに……。


「ただいま」
「ただいまー」
 礼慈さんと沢野さんが帰ってきた。
「おかえりなさい。
 すぐ、食べますか? ケーキ」
「うん」
 礼慈さんが言って、ケーキを食べることに決まった。

 歌穂に先に選んでもらおうとしたら、「西東さんか、祐奈が先だって」と抵抗された。
「いいのに。ふつうのショートケーキと、苺のクリームのショートケーキだったら、どっち?」
「……レアチーズのが、いい」
「こっち? うん。いいよ。
 沢野さんは?」
「チョコのがいいな」
「いいですよ。礼慈さんは?」
「祐奈が先でいいよ」
「ほんと。じゃあ、苺のにします」
「うん」

 紅茶を入れて、出した。
 ケーキは、おいしかった。おしゃべりしながら、ゆっくり食べていた。
 友也くんのことが、ふと頭をよぎった。
 カフェで、二人でケーキを食べることもある。いつも、思い悩んでるような顔をしてる子……。歌穂よりも年下なのに、わたしよりも、大人びて見えることがある。
 大学の勉強とか、してるのかな。それとも、おうちのことで、ひとりで苦しんでるんだろうか……。
 スマートフォン、どこに置いたかな。さっきまで着ていたパーカーの、ポケットの中だ。あとで、LINEをチェックしなきゃ……。友也くんから、メッセージが来てるかもしれない。

 ケーキを食べてからは、わたしと歌穂、礼慈さんと沢野さんの二人ずつに分かれた。
 わたしと歌穂は、リビングで少し話してから、寝室に行った。
 礼慈さんたちは、趣味の部屋に行ってるみたいだった。
「上がっていいよ」
「服のままでいい?」
「うん」
 わたしのベッドの上で、歌穂と寝ころんだ。
「せまくない?」
「ない。祐奈は、西東さんの方でいいんじゃないの?」
「歌穂と、くっついていたいの」
 笑いかけた。歌穂が、ふーっと息を吐いた。
「どうしたの?」
「あたしが男だったら、祐奈と結婚したと思う」
「……えっ?」
「それくらいには、好きだよ。祐奈のこと」
「そ、そお?」
「女なんて、弱々しくて、かんたんに好きなようにされる。つまんない。
 だからって、祐奈に、筋肉だらけの男の人になってほしいわけじゃ、ないけど」
「わたしも、そういう人にはなりたくない……」
「伊豆の、どこ?」
「伊豆じゃなくて、御殿場。アウトレットモール。
 すごく大きくて、たのしかった」
「でも、いやな思いで、上書きされたんだよね」
「そうでも……。こわかったけど。
 たのしいと思った気持ちが、なくなったりはしない。
 礼慈さんが来る前に、助けてくれようとしてた人がいたの。知らないおじさん。
 それは、うれしかった……」
「会社の人は、助けてくれなかったもんね」
「……うん」
「よかった。無事で」
 歌穂は、泣きそうな顔をしていた。
 思わず手をのばして、長くなった髪を指にからめた。黒い髪は、さらっとしていた。どこにもくせがなくて、とらえどころがない。
「長くなったね」
「さっきも、聞いた」
「かわいいね」
「かわいくないよ。祐奈。ぎゅうって、して」
「いいよー」
 歌穂が、わたしの胸に顔をくっつけてきた。
「甘えたいの?」
「うん。ごめんね」
「謝らなくていいよ」
 背中を、ぽんぽんとやさしく叩いてあげた。同じ手で、頭を撫でる。
 鼻の奥が、つんとした。わたしと出会うまでに、歌穂は、どれだけ傷ついてきたんだろう。
 初めて会った時から、かわいいと思っていた。やさしくしてあげたかった。
 わたしが、先に施設を出てからは、どんなふうに過ごしていたんだろうか。
 高校を卒業して、施設を出てからは、どんな気持ちで、ひとり暮らしをしてたの?
 先月に、この部屋で会ってから、今日までは?
 知らないことだらけだった。
「なにか、あった? いやなこと……」
「ない。なにも」
 くぐもった声が答える。
 うそでしょう。そう思ったけれど、言えなかった。
「ねむい? ねていいよ……」
「うん」

 しばらく、じっとしていた。
 歌穂の呼吸が、やわらかくなって、寝息になるまで。
「ねちゃった、ね」
 眠くはなかったけれど、目を閉じた。
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