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24.これからの向き合い方①
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大満足で食事を終えると、慶弥さんと一緒に食べ終わった食器の片付けを申し出た。
お母様は困惑してらしたけれど、美味しい食事をいただいたお礼だと押し切って、その間にリビングでくつろいでいただくことにした。
「どれもこれも、凄く美味しかったね。お母様はお料理がお上手なのね」
「そう? 俺は食べ慣れてるからイマイチ分かんないけど、瑞穂の口に合ったならよかった」
「めちゃくちゃ美味しかった。牡蠣も大粒で、ワインが進んでしまった」
「確かに。正直、俺もワイン飲みたかった」
「ごめんってば」
洗ったお皿を拭き上げながら、レシピを聞いてみてもいいかなと雑談をしていると、それまでうんともすんとも言わなかった私のスマホが着信で震える。
「ちょっとごめん、電話かかってきてるみたい」
「いいよ。早く出なよ」
「うん。ありが……」
ありがとうと言いかけて言葉を失ったのは、それが母からの着信だったからだ。
「瑞穂?」
「ああ、ごめん。出なくて大丈夫なやつだった」
気まずさを隠すためにスマホをジャケットのポケットに入れて片付けの続きをするものの、諦め悪くスマホのバイブ音が響き続けてゲンナリする。
「もしかして、親御さん?」
「……うん。お母さんから」
「とりあえず出て、かけ直すって伝えたらどうなの」
「そうだね。やむ気配ないし。ちょっと出るね」
慶弥さんに断りを入れてスマホを手に取ると、画面をタップして電話に出る。
「もしもし?」
『やっと出た。なに、もしかして仕事中なの』
「ごめんお母さん。違うけど今外だから、また改めて掛け直してもいい?」
『そうだったの。分かった、後で掛け直してきて』
「もしかして、急ぐ用事だった?」
『いいえ。お兄ちゃんからちょっと話を聞いたから、その話よ』
「ああね。後でちゃんと話すから、悪いけど切るね」
電話を切ると、ドッと疲れが押し寄せてくる。
母とはこの前ケンカしたきり、きちんと話が出来てないので少々気まずい。
「お母さん、なんだって?」
「ああ、お兄ちゃんから連絡があったみたいで、慶弥さんのことだと思う」
「なるほど」
拭き途中だったお皿を手に取ると、クロスで水気を拭き取りながら、私の家にも挨拶に行かないといけないねと言ってくれる慶弥さんに、困惑して言葉が出てこない。
「こちらばかり挨拶が済んでるっていうのも、失礼だからさ」
「でも、うちの両親は慶弥さんのご両親とは違って小うるさいから」
「それは大事な娘さんのことだから、仕方ないんじゃないのかな」
「どうだろう。ネチネチしてるだけだよ」
「お兄さんのこともそんな風に言ってたけど、いい人だったからな。瑞穂の言葉は説得力に欠ける」
「いやいや、本当に外面だけはいい人たちだから」
うちの両親は人を見る目が厳しく、友だちには人当たりがいいと評判だけど、その裏であの子はやめた方がいいだとか、お小言を聞かされてきた私の身にもなって欲しい。
小さな頃からそういう言動が当たり前で、私もそれが普通だと思っていたけれど、成長して外と関わることが増えていくと、うちの親が過干渉なことに気付いてかなり困惑した。
私を思って、良かれという思いで言っているのだろうけど、もう三十二にもなった娘の交友関係にまで口出ししないで欲しいのは正直なところだ。
「瑞穂の仕事が落ち着いたら、ちゃんとご挨拶に伺うよ」
「無理しなくていいんだよ。別に付き合ってるけど、先のことが決まってる訳でもないし」
「無理はしてないけど、瑞穂の言う先のことって結婚のこと?」
慶弥さんに聞き返されて、余計なことを言ったと返答に詰まる。
そもそも両親とケンカしたのは、結婚する気がない相手なら早めに縁を切れなんて言われたからだし、あちらの都合で勝手にお見合いだとか縁談を持ちかけてくるからだ。
(嫌なこと思い出しちゃった)
そう思ったのが顔に出てしまっていたのか、慶弥さんは苦笑して俺は考えてるよと私の頭に手を置いた。
お母様は困惑してらしたけれど、美味しい食事をいただいたお礼だと押し切って、その間にリビングでくつろいでいただくことにした。
「どれもこれも、凄く美味しかったね。お母様はお料理がお上手なのね」
「そう? 俺は食べ慣れてるからイマイチ分かんないけど、瑞穂の口に合ったならよかった」
「めちゃくちゃ美味しかった。牡蠣も大粒で、ワインが進んでしまった」
「確かに。正直、俺もワイン飲みたかった」
「ごめんってば」
洗ったお皿を拭き上げながら、レシピを聞いてみてもいいかなと雑談をしていると、それまでうんともすんとも言わなかった私のスマホが着信で震える。
「ちょっとごめん、電話かかってきてるみたい」
「いいよ。早く出なよ」
「うん。ありが……」
ありがとうと言いかけて言葉を失ったのは、それが母からの着信だったからだ。
「瑞穂?」
「ああ、ごめん。出なくて大丈夫なやつだった」
気まずさを隠すためにスマホをジャケットのポケットに入れて片付けの続きをするものの、諦め悪くスマホのバイブ音が響き続けてゲンナリする。
「もしかして、親御さん?」
「……うん。お母さんから」
「とりあえず出て、かけ直すって伝えたらどうなの」
「そうだね。やむ気配ないし。ちょっと出るね」
慶弥さんに断りを入れてスマホを手に取ると、画面をタップして電話に出る。
「もしもし?」
『やっと出た。なに、もしかして仕事中なの』
「ごめんお母さん。違うけど今外だから、また改めて掛け直してもいい?」
『そうだったの。分かった、後で掛け直してきて』
「もしかして、急ぐ用事だった?」
『いいえ。お兄ちゃんからちょっと話を聞いたから、その話よ』
「ああね。後でちゃんと話すから、悪いけど切るね」
電話を切ると、ドッと疲れが押し寄せてくる。
母とはこの前ケンカしたきり、きちんと話が出来てないので少々気まずい。
「お母さん、なんだって?」
「ああ、お兄ちゃんから連絡があったみたいで、慶弥さんのことだと思う」
「なるほど」
拭き途中だったお皿を手に取ると、クロスで水気を拭き取りながら、私の家にも挨拶に行かないといけないねと言ってくれる慶弥さんに、困惑して言葉が出てこない。
「こちらばかり挨拶が済んでるっていうのも、失礼だからさ」
「でも、うちの両親は慶弥さんのご両親とは違って小うるさいから」
「それは大事な娘さんのことだから、仕方ないんじゃないのかな」
「どうだろう。ネチネチしてるだけだよ」
「お兄さんのこともそんな風に言ってたけど、いい人だったからな。瑞穂の言葉は説得力に欠ける」
「いやいや、本当に外面だけはいい人たちだから」
うちの両親は人を見る目が厳しく、友だちには人当たりがいいと評判だけど、その裏であの子はやめた方がいいだとか、お小言を聞かされてきた私の身にもなって欲しい。
小さな頃からそういう言動が当たり前で、私もそれが普通だと思っていたけれど、成長して外と関わることが増えていくと、うちの親が過干渉なことに気付いてかなり困惑した。
私を思って、良かれという思いで言っているのだろうけど、もう三十二にもなった娘の交友関係にまで口出ししないで欲しいのは正直なところだ。
「瑞穂の仕事が落ち着いたら、ちゃんとご挨拶に伺うよ」
「無理しなくていいんだよ。別に付き合ってるけど、先のことが決まってる訳でもないし」
「無理はしてないけど、瑞穂の言う先のことって結婚のこと?」
慶弥さんに聞き返されて、余計なことを言ったと返答に詰まる。
そもそも両親とケンカしたのは、結婚する気がない相手なら早めに縁を切れなんて言われたからだし、あちらの都合で勝手にお見合いだとか縁談を持ちかけてくるからだ。
(嫌なこと思い出しちゃった)
そう思ったのが顔に出てしまっていたのか、慶弥さんは苦笑して俺は考えてるよと私の頭に手を置いた。
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