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第五章 お泊りに行きたい

#67 夜宵と一緒にお風呂

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 この日も夕食を終えると、夜宵の母は仕事に出掛けていった。

 家にはヒナと夜宵の二人っきり、何をするにも自由だ。
 二人で一緒にお風呂に入ろうが、両親に見咎められることはない。
 ヒナも夜宵も、まるで親がいない間に悪いことでもしようとしている気分だった。

――でも、一緒にお風呂って言っても水着を着てるんだから健全だよね? 悪いことじゃないよね?

 夜宵は自分にそう言い聞かせる。

――そう、悪いことじゃない。夜宵も合意してくれたんだから、別にいけないことをしてるわけじゃないんだ。

 ヒナもそう念じて、己の内なる罪悪感を抑え込む。
 夕食後、二人はリビングでテレビゲームに興じるも、この後のことを意識するとどうしてもぎこちなくなってしまう。

「よし、ゴール。これで俺の勝ちだな」
「あっ、うん。ヒナおめでと」

 二人でバブバブカートで対戦するも、会話が弾むことはない。
 やがて湯沸し器の電子音が二人の耳に届いた。

「あっ、お風呂沸いたね」
「おう、そうみたいだな」

 ぎこちなくそんなやりとりをする二人。

「じゃ、じゃあ一緒に入ろっか」
「夜宵」

 ソファーから立ち上がる夜宵をヒナが呼び止める。
 彼はずっと迷ってて言えなかったことを意を決して吐き出す。

「やっぱりさ、嫌だったらやめてもいいんだぞ」

 試着室では勢いで約束を取り付けたが、やはり冷静になると気の弱い夜宵につけこんでこんなことさせるのはよくないんじゃないかと思えてきた。
 しかし夜宵の返事はヒナの予想とは違った。
 彼女は赤面しながらたどたどしく答える。
 
「べ、別に嫌じゃないよ。水着だから恥ずかしくないし」

 いやいや、恥ずかしくて人前に出れないって自分で言ったくらいのセクシーな水着だよ、とヒナは内心で突っ込む。

「それに折角ヒナがお金出して買ってくれたんだから、着ないと申し訳ないし」

 間違ってる間違ってる。義理と羞恥心の優先順位間違ってるから、とヒナは思う。
 年頃の乙女としては全然断っていい案件だ。
 本当に無防備過ぎて心配になるぞ、とヒナは何度目になるかわからない感想を抱いた。

「それに、ヒナが私とお風呂入りたいって思ってくれるのは嬉しいし」

 頬を赤らめながらそんな言葉を吐き出す彼女にヒナは困惑した。

――えっ、えっ、どういう意味? 今のどういう意味?

 年頃の男子なら夜宵のように可愛い女の子と一緒にお風呂なんて是非とも入りたいに決まってる。
 しかし自己評価の低すぎる夜宵にとっては、ヒナからそんな風に思われること自体がとても貴重に感じていた。

「じゃ、じゃあ、着替えてくるから先に入ってて」

 逃げるようにそう言い残すと、夜宵はリビングから出ていった。
 一人残されたヒナは悶々とするのだった。

――どういう意味だあああああああ!

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 昼間、一緒にお風呂に入る約束を取り付けた後、ヒナは自分の水着も購入した。
 海パン姿に着替え、彼は風呂場に足を踏み入れる。
 そしてシャワーを体に浴びながら気持ちを落ち着けていると、脱衣所から物音が聞こえてきた。
 そちらに視線を向ければ、磨りガラスの向こうに肌色面積の多い少女のシルエットが見える。
 どうやら夜宵も着替えを終えて到着したらしい。

「ヒ、ヒナ。入るね」
「お、おう。いいぞ」

 緊張で乾いた喉からなんとか返事を絞り出す。
 ガラス戸がスライドし、夜宵が姿を現す。
 普段はワンサイドアップにしている髪を下ろしたストレートロングの黒髪からは、いつもとは違う大人びた色気を感じる。
 首元で布地を交差させたクロスホルタービキニは、彼女の形の良いバストを支え、谷間をより美しく見せていた。
 そしてくびれたウェストに目を向ければ、ローレグのパンツは細い紐で結ばれているのみで肌の大部分を惜しげなく晒している。

――何度見ても、エロイ!

 それがヒナの感想だった。
 夜宵はヒナの視線に晒され、自分の手で体を隠そうか迷う。
 しかし本来は自分にもセクシーな水着を着れるということのアピールだったことを思い出すと、隠すのも情けなく思えた。
 考えた末、彼女は腕を体の後ろに回し、腰のあたりで手を組む。
 そのポーズが一層美しいバストを強調する形になり、ヒナは息を呑んだ。

「ど、どうでしょう……か?」

 蚊の鳴くようにな声で水着姿をアピールする夜宵。
 彼女の美しい肢体に、ヒナは見惚みほれてしまっていた。

「最高です」

 照れのせいか、つい敬語になってしまったが、それがヒナの率直な気持ちだった。
 天使のように清楚で、可愛くて守ってあげたくなる大好きな女の子。
 そんな彼女がセクシー系の水着を身に纏うことによる普段とのギャップ、強調された胸と腰の芸術的な曲線美。
 成熟した体つきとは対照的に肌を晒すことを恥じらうその表情は、まだまだ彼女の心がこの水着に追いついていないことを示すが、だからこそ自分の為に無理して着てくれたという今の状況シチュエーションに感動を禁じ得ない。
 興奮と感謝でヒナの胸はいっぱいになっていた。

――最高だって、最高って言われちゃった。

 一方の夜宵も、ヒナが我を忘れて自分に見蕩みとれている状況に達成感を味わっていた。

――は、恥ずかしいけど、頑張った甲斐あったな。

 とはいえ、いつまでも二人で呆けているわけにはいかない。
 夜宵は意を決して次の行動を切り出す。

「あ、あのさヒナ、お願いがあるんだけど」
「お、おう。なんだ言ってみろ」

 ヒナと一緒にお風呂に入ると決まってから、夜宵には一つだけ考えていたことがあった。
 とある少女漫画で恋人同士でお風呂に入った時にやっていたある行為。
 それを試してみたい、と。

――こんな事頼んで大丈夫かな? 引かれないかな?
――平気、だよね? 別にエッチなことお願いするわけじゃないんだし。

 しばし逡巡した後、夜宵は思い切ってそれをお願いする。

「髪の毛、洗って欲しいな」
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