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死体の冬、戦争の雪
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1939年11月。世界が、奇跡の薬の確保に狂奔している頃、ソヴィエト連邦は動き出した。
世に言う、「冬戦争」の始まりである。
「大日本帝国に、屈辱的な敗北を喫したと言うのに、まだやるのか?」世界は思うが、ソ連にも理由と言う物がある。
舐めていた相手に大敗北、領土失陥の上に、民族の悲願である不凍港の失陥は、筆髭の求心力を大いに落としていた。特に軍部に。
「ノモンハン事件」。この世界では「極東紛争」と呼ばれる大敗北は、不死者との激闘を何とか生き残った将兵からモスクワに伝えられた。
将兵は、粛清覚悟で語る。「「この敗北は中央の怠慢が引き起こした!責任はどうした!責任は!」」
余りに批判が強すぎた者は、蠢く死体と領土を接する事となったシベリアに送られる事になったが、意外な事に問答無用の銃殺に処された者は居ない。流石に筆髭一派も反省したのだ。
だがこの温情極まる措置を受けても、赤軍内部では、不満を滾らせる者が多いのは事実である。筆髭ら共産党幹部が、日本を非難しておきながら、奇跡の薬を買いあさり、ピチピチのお肌になっているのも気に食わない。
ソ連には勝利が必要なのだ。失った自信を取り戻す、出来るなら真面な軍隊への勝利が。殺しても殺しても、立ち上がって襲い来る亡者の群れと戦うのは、もう勘弁してもらいたい。
そこでフィンランドなのだ。取られた領土を補填するスナック菓子、お手軽に食える小国として、サンタの国は選ばれた。
誤算があるとすれば、北方の戦士たちは、既に覚悟を決めており、ブラックなサンタにジョブをチェンジしていると言う事である。ソ連はそれを戦場で嫌と言うほど味わう事になる。
北方の凍える夜に、叫び声が木霊している。深い森の一角、砲撃によりグズグズになった人と馬の死骸と、焼け爛れた戦車が冷たい手で固まる場所でそれは行われていた。
うず高く積まれるコッコは燃えている。天を焦がし揺らめく炎の中に、恐怖の表情を浮かべてトゥオネラに送られる侵略者の影が確かに映っていた。
一人の捕虜が引きずりだされる。先ほどの戦闘で、訳も分からず殲滅された部隊の数少ない生き残りだ。
年若い捕虜。赤軍の兵士は必死に抵抗するがそれは空しい物だった。コッコの前まで引きずられた彼は、万力の様な力で顔を上げられ、その首筋にプーッコが閃く。
悲鳴と迸る血。コッコの炎は赤く赤く輝きを増し、禍々しい煌めきは凍れる死体に降り注ぐ。
そして死は帰ってきた。一人また一人と立ち上がった死者は声を揃えて叫ぶのだ。
「「ペルケレ!ペルケレ!ペルケレ!」」
声は哄笑となり、死者たちは震えあがる捕虜の群れを見た。燃え上がる青い目は喜悦し、喜びを持って、己たちに捧げられた供物を受け取る為にヨロヨロと歩き出す。
悲鳴が大きく森に響き、やがて小さくなり消えていった。
翌朝。先行部隊壊滅の報を受け、駆け付けたソ連軍本隊の見た者は、多数の焼け焦げた生贄と、唯砲撃の跡が残るだけの、異臭漂う戦場跡だけであった。
さて、随分とホラーな展開であるが、フィンランドだって別に喜んでやっている訳ではない。やむにやまれずと言う奴だ。
今回の戦争勃発前、ソ連が「お前ん所の、大砲の射程が伸びたから、お前の領土寄越せよ」と無体な要求を突き付けて来た少し後から、大日本スプラッタ帝国よりフィンランドは大規模な支援を受けている。
ヘルシンキに到着したボロボロの輸送船から運び出されたのは、世界各国が先を争って奪い合う奇跡の薬の詰め合わせ、そして大量の棺桶だった。
(薬の方は嬉しいが、棺桶は嫌味か?)
積み荷の書類を受け取ったフィンランド政府関係者はそう思ったが、棺桶の蓋を跳ね除けて中身が出て来る所で腰を抜かした。
中身。「「俺たちは荷物じゃねぇ!」」とプリプリ怒る不死者たちは、腰を抜かしている政府関係者に近寄ると敬礼して言う。
「「義勇兵として参戦しに参りました!ソ連軍食い放題の会場は此方で宜しいですか?」」
そして汚染は始まったのである。半信半疑であるフィンランド人の前で、不死者は下僕を召喚し、突貫で始まっていたマンネルヘイム線の強化に投入し、嫌がるマンネルハイム元帥の口に、無理やり薬を突っ込み三十は若返らせる。
他にも、サーミ人出身者と、怪しげな儀式を各地の遺跡で敢行し、数千の骨を引き連れてタンペレを混乱に叩きこみ、民族主義者と接触し古の信仰を取り戻せと吹聴して回る。
フィンランド政府が気づいた頃には、国内に無数にある湖沼地帯では、「ナッキを見た!」街中でさえ「サウナにトムテが!」森林地帯で「トロール!」
「「出てけ!妖怪変化!」」と自称義勇兵に言いたいフィンランド政府であるが、日本より、継続的な支援を約束すると言われれば黙る他はない。
大量に流入した奇跡の薬は既に国民の健康状態を大幅に改善し、現在大車輪で活動している軍にも大好評なのだ。
「「これが無ければ戦えない!」」そんな声も聞かれる程だ。
しかも日本は、ソ連との戦争がある間は、限定的な現地生産も行っても良いとまで、言ってきている。
頷く他はない。嫌だけど。
以上の理由で、フィンランドは妖怪と死者の支援受けつつ激戦を続けている。そのせいで汚染は広がる一方だ。
将兵の中には密かに不死の腐敗は蔓延し、前線では不死の軍隊の早期投入が叫ばれ始め、現地生産の腐乱兵シュタインが闊歩しだす。
ここに至って、フィンランド政府も諦めた。彼らは大日本ゴア帝国より、技術支援を受ける事を正式に決め、迫りくる熊にウッコの怒りをぶつける事に決めたのだ。
雪深い森の中に踏み入れたソ連軍は一つまた一つと消えていく。吹雪が森が凍てつく沼が彼らを誘い込もうと口を開けている。降り積もる雪は、もう全てを隠せない。死者は立ち上がり、ロウヒの名の元、永遠に行進するのだ。
世に言う、「冬戦争」の始まりである。
「大日本帝国に、屈辱的な敗北を喫したと言うのに、まだやるのか?」世界は思うが、ソ連にも理由と言う物がある。
舐めていた相手に大敗北、領土失陥の上に、民族の悲願である不凍港の失陥は、筆髭の求心力を大いに落としていた。特に軍部に。
「ノモンハン事件」。この世界では「極東紛争」と呼ばれる大敗北は、不死者との激闘を何とか生き残った将兵からモスクワに伝えられた。
将兵は、粛清覚悟で語る。「「この敗北は中央の怠慢が引き起こした!責任はどうした!責任は!」」
余りに批判が強すぎた者は、蠢く死体と領土を接する事となったシベリアに送られる事になったが、意外な事に問答無用の銃殺に処された者は居ない。流石に筆髭一派も反省したのだ。
だがこの温情極まる措置を受けても、赤軍内部では、不満を滾らせる者が多いのは事実である。筆髭ら共産党幹部が、日本を非難しておきながら、奇跡の薬を買いあさり、ピチピチのお肌になっているのも気に食わない。
ソ連には勝利が必要なのだ。失った自信を取り戻す、出来るなら真面な軍隊への勝利が。殺しても殺しても、立ち上がって襲い来る亡者の群れと戦うのは、もう勘弁してもらいたい。
そこでフィンランドなのだ。取られた領土を補填するスナック菓子、お手軽に食える小国として、サンタの国は選ばれた。
誤算があるとすれば、北方の戦士たちは、既に覚悟を決めており、ブラックなサンタにジョブをチェンジしていると言う事である。ソ連はそれを戦場で嫌と言うほど味わう事になる。
北方の凍える夜に、叫び声が木霊している。深い森の一角、砲撃によりグズグズになった人と馬の死骸と、焼け爛れた戦車が冷たい手で固まる場所でそれは行われていた。
うず高く積まれるコッコは燃えている。天を焦がし揺らめく炎の中に、恐怖の表情を浮かべてトゥオネラに送られる侵略者の影が確かに映っていた。
一人の捕虜が引きずりだされる。先ほどの戦闘で、訳も分からず殲滅された部隊の数少ない生き残りだ。
年若い捕虜。赤軍の兵士は必死に抵抗するがそれは空しい物だった。コッコの前まで引きずられた彼は、万力の様な力で顔を上げられ、その首筋にプーッコが閃く。
悲鳴と迸る血。コッコの炎は赤く赤く輝きを増し、禍々しい煌めきは凍れる死体に降り注ぐ。
そして死は帰ってきた。一人また一人と立ち上がった死者は声を揃えて叫ぶのだ。
「「ペルケレ!ペルケレ!ペルケレ!」」
声は哄笑となり、死者たちは震えあがる捕虜の群れを見た。燃え上がる青い目は喜悦し、喜びを持って、己たちに捧げられた供物を受け取る為にヨロヨロと歩き出す。
悲鳴が大きく森に響き、やがて小さくなり消えていった。
翌朝。先行部隊壊滅の報を受け、駆け付けたソ連軍本隊の見た者は、多数の焼け焦げた生贄と、唯砲撃の跡が残るだけの、異臭漂う戦場跡だけであった。
さて、随分とホラーな展開であるが、フィンランドだって別に喜んでやっている訳ではない。やむにやまれずと言う奴だ。
今回の戦争勃発前、ソ連が「お前ん所の、大砲の射程が伸びたから、お前の領土寄越せよ」と無体な要求を突き付けて来た少し後から、大日本スプラッタ帝国よりフィンランドは大規模な支援を受けている。
ヘルシンキに到着したボロボロの輸送船から運び出されたのは、世界各国が先を争って奪い合う奇跡の薬の詰め合わせ、そして大量の棺桶だった。
(薬の方は嬉しいが、棺桶は嫌味か?)
積み荷の書類を受け取ったフィンランド政府関係者はそう思ったが、棺桶の蓋を跳ね除けて中身が出て来る所で腰を抜かした。
中身。「「俺たちは荷物じゃねぇ!」」とプリプリ怒る不死者たちは、腰を抜かしている政府関係者に近寄ると敬礼して言う。
「「義勇兵として参戦しに参りました!ソ連軍食い放題の会場は此方で宜しいですか?」」
そして汚染は始まったのである。半信半疑であるフィンランド人の前で、不死者は下僕を召喚し、突貫で始まっていたマンネルヘイム線の強化に投入し、嫌がるマンネルハイム元帥の口に、無理やり薬を突っ込み三十は若返らせる。
他にも、サーミ人出身者と、怪しげな儀式を各地の遺跡で敢行し、数千の骨を引き連れてタンペレを混乱に叩きこみ、民族主義者と接触し古の信仰を取り戻せと吹聴して回る。
フィンランド政府が気づいた頃には、国内に無数にある湖沼地帯では、「ナッキを見た!」街中でさえ「サウナにトムテが!」森林地帯で「トロール!」
「「出てけ!妖怪変化!」」と自称義勇兵に言いたいフィンランド政府であるが、日本より、継続的な支援を約束すると言われれば黙る他はない。
大量に流入した奇跡の薬は既に国民の健康状態を大幅に改善し、現在大車輪で活動している軍にも大好評なのだ。
「「これが無ければ戦えない!」」そんな声も聞かれる程だ。
しかも日本は、ソ連との戦争がある間は、限定的な現地生産も行っても良いとまで、言ってきている。
頷く他はない。嫌だけど。
以上の理由で、フィンランドは妖怪と死者の支援受けつつ激戦を続けている。そのせいで汚染は広がる一方だ。
将兵の中には密かに不死の腐敗は蔓延し、前線では不死の軍隊の早期投入が叫ばれ始め、現地生産の腐乱兵シュタインが闊歩しだす。
ここに至って、フィンランド政府も諦めた。彼らは大日本ゴア帝国より、技術支援を受ける事を正式に決め、迫りくる熊にウッコの怒りをぶつける事に決めたのだ。
雪深い森の中に踏み入れたソ連軍は一つまた一つと消えていく。吹雪が森が凍てつく沼が彼らを誘い込もうと口を開けている。降り積もる雪は、もう全てを隠せない。死者は立ち上がり、ロウヒの名の元、永遠に行進するのだ。
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