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第二章 リ,スタート
15 長月 始めてのヒート③
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――欲しいさ。勿論。
この言葉が紫苑の頭の中でリフレインする。神無月さんの『俺のフェロモンに充てられた』って一言は、状況を切り取ってみればその通りであったし、実際抑制剤を飲み忘れたのが神無月であることは事実ではあったものの、紫苑にはどうしても『そうですね』と納得できない理由があった。
「ここ、ゆっくり解してあげる」
神無月の指が紫苑のアヌスの入り口をやわやわと触ってきた。
慌てて神無月が抑制剤を飲んだ事で、溢れ出てくる特殊体質のアルファのフェロモンは収まり、それに誘発されるようにヒートを起こした紫苑は何度も精を吐き出した末、神無月のフェロモンの沈下と共にアヌスの疼きは徐々に収まってきた。
「大丈夫です。もう我慢できますから」
切れ切れに出された言葉はまだ痛みを伴っていた。
「紫苑君」
「……」
「紫苑君」
「……噓ついて……ごめんなさい」
紫苑は神無月を見上げ、体を沈ませているベッドの中から言わなければと決めていた言葉を体の中から押し出すように吐き出した。そのまま枕に顔を沈めていたが沈黙が怖かったのか、ゆっくりと体を起こし着てきたシャツに手を伸ばした。
「何をしているんだ」
感情の読み取れない抑揚のない声にビクッと肩を縮ませながら、顎を引きぎゅっと目をつむった。
――怯えている。そう直感で感じた神無月は、努めてポーカーフェイスに徹していたものを崩し、いつものように言葉に感情を乗せた。ただしなるべく優しく、明るく響くことを忘れずに。
「怯えないでいいんだよ」
うっすらと目が開き、視線だけは何とか神無月に向けられていた。動物をかわいがるようにゆっくりと髪の毛を撫で頬にキスをし抱きしめる。――放してください。涙声でそういう紫苑の言葉に反して、それでも神無月の腕の中で大人しくされたままになっている彼は本心では、バレてよかったと思っているようでもあった。
「バレたくなかったの」
神無月は自身の感じた事と逆の言葉を紫苑に問うた。怒っていないという事をわからせるように抱きしめた腕を緩めるような事はしなかった。
「わかりません」
紫苑は首を振った。
「オメガは嫌いなの?」
核心を突く質問に神無月は一瞬躊躇したものの、今しか聞けないと心の奥底から何かが訴えてきていた。
――聞け。――チャンスは今だけだ。
「オメガは嫌い、オメガに産まれた自分はもっと嫌いです」
「なぜ、そんなに蔑むんだ」
紫苑の目が異様なものを見るように神無月を見た。
「なら神無月さんはオメガに産まれたかったですか」
神無月は何も言えず言葉に詰まってしまった。
「ほらね」
「君……」
「誰だってオメガになんか産まれたくなかったですよ」
紫苑の指が神無月の腕を無自覚に掴み、そこから悲しみと絶望の感情が流れ込んできた。
「俺はそうは思わない」
力強く言う神無月に、なぜ理解してくれないのだと、紫苑の目は寂しそうに訴えていた。
この言葉が紫苑の頭の中でリフレインする。神無月さんの『俺のフェロモンに充てられた』って一言は、状況を切り取ってみればその通りであったし、実際抑制剤を飲み忘れたのが神無月であることは事実ではあったものの、紫苑にはどうしても『そうですね』と納得できない理由があった。
「ここ、ゆっくり解してあげる」
神無月の指が紫苑のアヌスの入り口をやわやわと触ってきた。
慌てて神無月が抑制剤を飲んだ事で、溢れ出てくる特殊体質のアルファのフェロモンは収まり、それに誘発されるようにヒートを起こした紫苑は何度も精を吐き出した末、神無月のフェロモンの沈下と共にアヌスの疼きは徐々に収まってきた。
「大丈夫です。もう我慢できますから」
切れ切れに出された言葉はまだ痛みを伴っていた。
「紫苑君」
「……」
「紫苑君」
「……噓ついて……ごめんなさい」
紫苑は神無月を見上げ、体を沈ませているベッドの中から言わなければと決めていた言葉を体の中から押し出すように吐き出した。そのまま枕に顔を沈めていたが沈黙が怖かったのか、ゆっくりと体を起こし着てきたシャツに手を伸ばした。
「何をしているんだ」
感情の読み取れない抑揚のない声にビクッと肩を縮ませながら、顎を引きぎゅっと目をつむった。
――怯えている。そう直感で感じた神無月は、努めてポーカーフェイスに徹していたものを崩し、いつものように言葉に感情を乗せた。ただしなるべく優しく、明るく響くことを忘れずに。
「怯えないでいいんだよ」
うっすらと目が開き、視線だけは何とか神無月に向けられていた。動物をかわいがるようにゆっくりと髪の毛を撫で頬にキスをし抱きしめる。――放してください。涙声でそういう紫苑の言葉に反して、それでも神無月の腕の中で大人しくされたままになっている彼は本心では、バレてよかったと思っているようでもあった。
「バレたくなかったの」
神無月は自身の感じた事と逆の言葉を紫苑に問うた。怒っていないという事をわからせるように抱きしめた腕を緩めるような事はしなかった。
「わかりません」
紫苑は首を振った。
「オメガは嫌いなの?」
核心を突く質問に神無月は一瞬躊躇したものの、今しか聞けないと心の奥底から何かが訴えてきていた。
――聞け。――チャンスは今だけだ。
「オメガは嫌い、オメガに産まれた自分はもっと嫌いです」
「なぜ、そんなに蔑むんだ」
紫苑の目が異様なものを見るように神無月を見た。
「なら神無月さんはオメガに産まれたかったですか」
神無月は何も言えず言葉に詰まってしまった。
「ほらね」
「君……」
「誰だってオメガになんか産まれたくなかったですよ」
紫苑の指が神無月の腕を無自覚に掴み、そこから悲しみと絶望の感情が流れ込んできた。
「俺はそうは思わない」
力強く言う神無月に、なぜ理解してくれないのだと、紫苑の目は寂しそうに訴えていた。
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