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一章

〈彼女と家族〉(1)

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 いつぞやの薬の匂いがして、やたらと見慣れた天井が目に付く。

 涙を拭いて、私に最初に襲って来た感情……それは危機感だった。

(私の脳が、早く何処かに逃げよと警鐘を鳴らしている……怒られるどころの話では済まないぞこれ!!)

 そう思った私は、さっと魔力を使おうとするが……

「お目覚めですかセス王女」

 それより先に、クロード大臣が私の横に現れる。

(危機的状況!! 逃げるか!!)

 実際もう私に、心残りなんて微塵も残っていない。
 ところが、やはり……

(魔法発動しないっっ!!)

 私の居る部屋にゾロゾロと、王の側近や、何名かの兵士、エドガー、カミーユ、アシュリーが入ってくる。

(不味い、苦笑いしか出来ない……)

 クロード大臣が、巻かれた一枚の紙を取り出し、罪状を読み上げていく。

「えー、セス・レナ・クリステル王女殿下、この度の貴方の罪状は、城の破損、城の魔法陣の無断使用、カミーユ殿下の誘拐、国王陛下の誘拐及び……」

 ……と、読み上げているところで、私の体がひょいっと宙に浮く。

「罪状の読み上げ終わった?」
「レオン?!」

 レオンが、いつの間にか私を横抱きにして立って居た。
 側近や、兵士が構える。
 そしてクロード大臣は、その中で悠々と答える。

「いえ、まだでございます」
「どうせ、何かしら罰則があるんでしょ? 面倒臭い……セス、私と、世界一周旅行にでも行かない?」

(面倒臭いって……。)

 レオンって案外フリーダムなんだなぁ、などと思いながら私はレオンの顔を見る。

「それは困りますなぁ」

 クロード大臣が、若干身構える。

「それは困る」

 窓の外に、一瞬で膨大な魔力反応が現れる。
 凄い音を立てて城の一部が崩壊し、巨大な影が正体を現す。
 側近や城の者達クロード大臣までもが硬直し、目を見開く。
 そこに居たのは……

「デュクス!!」
「久し振りだな、セス! お主の世界制服、とくと見させて貰った!」

(いつから居たんだ!!)

 鱗が完全に焦茶色になり、真っ黒なツノを三本生やしたデュクスが、城のすぐ外に待機していた。

「セス王女、いつからこんな高位のドラゴンとお知り合いに?」

 クロード大臣が、若干顔を引きつらせて話す。

「セス、私も付いて行っていい?」

 レオンが何かトチ狂った事を言い始める。

「サイクロプスとやらはどうしたんですか?」
「もう、我の相手ではなかった。ほぼ一撃であったぞ」

 なんということでしょう。サイクロプスがなんなのか分からないからイマイチ状況が掴めないが、おそらく、伝説級の生物が一撃だった様だ。

「サイクロプスが、一撃……」

 どうやら、クロード大臣には分かった様だ。

「まさか我との約束を忘れた訳ではあるまい……さぁ、我と世界制服の旅に出るぞ!!」

(あぁ、話がややこしくなってきた! けど……)

 いいかも、などと私までもがトチ狂ったことを考え始めたところで、包帯だらけの父が、スキンヘッドの大男イマニュエル大臣と入ってくる。

「国王陛下!! まだ起き上がっては!」
「良い、それより……」

 父が、クロード大臣が持っていた紙を奪い取る。

「陛下何を?」

 クロード大臣が話し掛けるのも無視して、父は私の罪状が書いてあった紙をビリビリに破り捨てた。

「陛下!!」
「……」

 私は唖然として、包帯だらけの父を見る。

「陛下! それでは、家臣達に示しが尽きませぬ!」
「良い!! セスは、私の目を覚まし、カミーユの癒えない病を癒した。それで充分ではないか……」
「陛下、しかし……」
「この国の国王は私だ!!」

 父が言う。
 クロード大臣が、驚いて黙る。

「セス、来年からこの国が運営する学園に入りなさい。それとレオン……」
「……なんでしょう?」
「娘を連れていかれては困る」

 レオンと父が睨み合う。

「…………はぁ、わかったよ」

 レオンが、そっと私をベットの上に下ろす。

「ドラゴン殿、すまないが……」
「我はセスに聞いている。我と今ここで対等に話しが出来るのは、セスだけ……と言いたいところだが……」

 デュクスが溜息をつく。

「仕方が無い……これで他の人間がセスを傷付けようものなら強引にでも引っ張っていくつもりだったが……まぁいいだろう」

 デュクスが、ふわりと飛び立つ。

「セス!! 必要ならばいつでも魔力を込めて我が名を呼べ!! さすれば我は、どこへでも飛んで行こうぞ!!」
「ありがとう、デュクス!!」

 デュクスは、ふっと笑うと、風を巻き上げ、一瞬で空の高みへと消えて行ってしまった。

(嵐の様に来て、嵐の様に去っていった……。でも助かった……。)

 大臣や、側近達がぞろぞろと部屋を出て行く。
 クロード大臣が、一瞬だけ父と一緒に入って来た大男を睨み付けた様な気がするが、気のせいだったということにしよう。

 エドガーが何やら物々しい顔をして、こっちへ歩いてくる。
 私が縮こまっていると……

『ポンッ』

 エドガーが私の頭に手を置く。

「良くやったな、セス」

 エドガーが、私の頭を撫でる。
 私は、唖然としてエドガーを見つめた。

(……エドガーは、将来大物になりそうだなぁ。)

 横から母が、私の頭をコンッと叩く。

「どれだけ心配したと思ってるの!! セスちゃんの馬鹿!!」

 そう言って私をギュっと抱きしめる。
 私はまたもや唖然とする。
 少しして……

「ごめんなさい、母さん」

 そう言って、母を抱きしめた。

「母様を心配させる様な事は、もうしてはなりませんよ!」

 カミーユが、後ろから私に向けていう。

「はい、すみません兄様……」

 私は、申し訳なさそうに謝った。
 こうして、母と兄達とも仲直りをし、一件落着の様に思えたが……

(そういえば、レオンが居ない……。)
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