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アータイン魔術研究所

19 僕は「儀式」で父さんが生き返ることを願う

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 険しい顔をしているエイシア様の元に向かうと、僕の身体が温かくなり、少し視界が高くなった。
 そして、自分の身体がふわりふわりと揺れているような……って、浮いてる!? これが魔法??

 「これより、儀式を始める」

 あれ? ここでするんだ?
 ただの応接室みたいな、この部屋で?
 儀式と言うぐらいだから、魔法陣を描いたり、禍々しい祭壇を用意したりとか、そういうのを想像していたんだけど。

 そんなことを考えていると、一瞬のうちに辺りが真っ暗になった。


 照明が消えたとかではない。
 自分の周りが完全に真っ黒になって、目を凝らしても何も見えない状態だ。

 両手を彷徨わせるけれど、何かに触れることもなく。
 踏ん張ろうと両足に力を入れても、虚しく空を切る。

 何の音も聞こえない。
 余計なことを喋るとエイシア様に怒られそうだから軽く咳をしてみるけれど、その音すら聞こえず、喉にその感触も無い。

 感じられるのは、ただ自分がそこにあるということだけ。
 こんなのは生まれて初めてのことだ。


 僕はこれからどうなるんだろう?
 さっきまでいた部屋に、ちゃんと戻れるのだろうか?

 不安で居ても立ってもいられず、この場から逃げ出したくなったけれど、自分ではどうすることもできない。


 あの、誰かいませんか! エイシア様! これはどういうことなんですか?
 全力で叫んでみるけれど、その声は自分にすら届かない。




 <ドーヌ……エーイル……シー……ティーユー……>


 エイシア様の声が辺りに響きだした。
 それはゆっくりと低く抑揚の無いもので、聞いたことが無い言語ということもあって、何とも言いようのない気味悪さがある。

 
 <ミー……エースペラス……ケー……シー……ティーユー……>


 そういえば、娯楽小説に登場する魔法使いは、魔法を発動させる為に呪文を唱えることが多い。
 これが死者蘇生魔法の呪文なのか?


 母さんは、血縁者の強い願いが必要だと言っていた。
 ……そうだ、願わないと。

 父さんが生き返りますように……
 また父さんと一緒に楽しい日々を送りたい……
 お願いします……!!
 

 その瞬間、辺り一面が光に包まれ、真っ白になった。
 僕はあまりの眩しさに目を開けていられず、両手で顔を覆った。



 しばらくして光が収まったような気がして、恐る恐る目を開けると、僕は柔らかいものに包まれていて……ベッドに横たわっているようだ。

 起き上がろうとしても、身体が全く動かない。
 何とか頭を動かして辺りの様子を伺う。

 真っ白な壁に、シンプルで白い家具……全く見覚えのない場所だ。
 ここは一体……?


 「あっ、目覚められたのですね!」

 声がする方に視線を向けると、少し離れたところに、女性が立っていた。
 その人は、肩ぐらいの長さの金髪に、青色の瞳で、白い服を着ている。


 「あの、ここは、どこですか……?」
 「セルテ様、ここは魔術研究所の医務室ですよ。儀式は無事完了しましたので、ご安心くださいね」


 ん??? セルテ様???
 何でこの人は、ただの一般人である僕のことを、様付けで呼んでいるんだろう?

 いや、そんなことはどうでもいい。
 儀式が無事終わったということは……父さんが生き返ったんだ!!
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