夢見るディナータイム

あろまりん

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43皿目

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それは突然閃いた。



「オムライス食べたい」



なんで?と言われても。
だって、食べたいものって、いきなり頭に湧いて出るじゃない?



「オムライス?」
「今パスタ食べてんのにか?」

「え、それとこれとは関係ないっていうか」

「いやいやいや」
「でも美味しいですよね、オムライス」



ないだろ、と言う晴明達に比べ、万理ちゃんは私の意見に同意した。



「そうよね、何かたまに食べたくならない?」

「わかります~~~!でも自分で作ると結構難しいですよね、卵とか」

「そうなのよね~~~ついつい固く焼いちゃうの。
とろとろの半熟にしたいんだけど、うまくいかないのよね」

「そうなんですよね・・・・・包むときに失敗しちゃうんですよね」



そんな会話で盛り上がっていると。
恐る恐る、とばかりに私達に声がかかる。



「すみません、今日の賄いはお口に合いませんでしたか」

「へ?」
「え?」



きょとん、と私達が声のした方を見れば。
申し訳なさそうな山崎君がいた。

・・・・・もしかして、今日の賄いは山崎君が作ったのかしら?

ぶんぶん、と首を振ってそうではない事を伝える。



「違うわよ?美味しいわよ、今日も」
「はい!すごく美味しいですよ!」

「でも、オムライスとか・・・・・」

「そうじゃないのよ、単にちょっと食べたくなったの」
「そうですよ、ちょっとした話題です!」

「なら、いいんですが・・・・・」

「ちっと柔らかすぎだな」
「もうちょっと塩気がある方が僕は好み」



おいいいい!!!そこの2人!!!
山崎君がガッカリしたじゃないの!!!

誰がそのタイミングで味の批評をしろと言ったの!!!

心の中で浩一朗と総悟君に突っ込みを入れる私。
そんな私にお構いなく、総悟君はにっこりと笑いかけてきた。



「それじゃ、明日の賄いは僕がオムライス作ってあげる」

「え?」

「上手だよ?」

「え、いいの?ていうか、パティシエなのに?」

「やだなあ、響子さんてば。そりゃ僕はパティシエだけど。
家じゃ普通にご飯くらい作ったりするってば。ここは巽さんがいるからでしゃばらないけど」



当然でしょ?とばかりに言う総悟君。
まあ、それはそうかもしれない。彼のお菓子作りは天才的だけど。料理できない訳じゃない。
通常のご飯メニューだって、それなりには作れるはずだ。

それを聞くと、浩一朗はふん、と鼻を鳴らした。



「随分大きく出たな、総悟」

「あれ。なんなら勝負します?」

「言うじゃねぇか。俺に敵うと思うなよ?」

「それは僕の台詞ですよ、巽さん」



あれ、なんだか火花散ってる?

まあまあ、と晴明が間に入り。
その間になんなく東堂さんが『では明日は2人のオムライスという事で』とまとめたところでお開き。

そんな訳で、明日のお昼の賄いは、2人のオムライス対決となった。



「・・・・・俺のパスタは、今ひとつでしたか・・・・・」

「しょげるなよ晋君!すげえ美味しかったって!!!」
「そうだぞ、山崎!!!もっとくれ!!!」
「大亮・・・・・慰めになってねえぞ・・・・・」



◼︎ ◻︎ ◼︎



そして次の日。
浩一朗と総悟君はそれぞれ人数分のオムライスを作ってくれた。

特に飾りがあるわけでもなく、シンプルなもの。
デミグラスソースとかあると美味しいけど、普通のも美味しいしね?



「わあ、美味しそう!」

「まあ、材料は同じだからな。どっちが旨いか聞かせろよ」

「「「「「いただきまーす!!!」」」」」 



東堂さんは微笑ましく私達を見ている。
総悟君も浩一朗も、『俺が旨くて当たり前』って顔してる。

そんな2人を見ながら、私は一口。



「おいしーい!!!」

「うめー!!!」
「たまんねー!!!」
「旨いな。どっちがどっちの、って言われねえと俺には区別つかねえぞ?」
「ど、どっちがどっちなんでしょう?」
「美味しいですね・・・・・」



確かに、使ってる材料は同じなんだろう。
それでも、炒め具合とか、卵の焼き加減が違うんだろうけど。

勿論私はプロじゃないからわかる訳もない。

多分、東堂さんあたりは食べてわかってるんだろうなあ。



そうして全員が食べ終わる。
・・・・・ええ、私と万理ちゃんが一番遅いけどね・・・・・。



珈琲を飲みつつ、一息。
思い思いに喋り始める。



「はー!旨かった!!!」
「だな!どっちもな!!!」

「手前等に食わせてもわかる訳ねぇな」

「まあまあ巽さん。・・・・・でも確かに、旨かった。
どっちが巽さんので、どっちが総悟のなんだ?」

「さあね?当ててみてよ、ハルさん」

「俺か?・・・・・わかんねえよそんなの」

「お前は酒以外はダメなのか」

「いやいやいや。そりゃ単なる素人とあんたらってなりゃ俺でもわかるだろうよ。
でもな、種は違っても、どっちも一流の腕の持ち主だぜ?無茶言うなよ」

「東堂さんはどうだ?」

「それはもうわかりますとも。・・・・・ですがその前に、響子さんの意見を聞きたいですね」

「え?私?」



東堂さんの発言で、皆が一斉に私に視線を向けた。

・・・・・え、困る。



「わ、わかる訳ないですよ!!!」

「いいえ。貴女ならお分かりですよ。2つの味の違いを」

「えええええ!?」



そう言われると、困る。
どっちがどうだったかなんて・・・・・。

確かに、ちょっとした違いがあった。
でもそれがどっちがどっちで、なんて当てられない。
そんな私に気付いたのだろう。東堂さんはくすっと笑って促した。



「いいんですよ。当てられなくても。でも、違いはあったんじゃないですか?」

「あ・・・・・」

「あったのか?響子」
「聞きたいです!」
「俺も、聞きたいです」



晴明が面白そうに見つめてくる。
万理ちゃんは興味津々に。
山崎君はどこか真剣な顔。勉強不足ですみません、とでも言う顔だ。



「・・・・・どっちがどっち、ってわからないけど。
右のお皿の方が、ご飯美味しかった。左の皿の方が、卵の焼き具合が最高だった」

「・・・・・」
「・・・・・」
「なるほど。私も同じ意見です。
おそらく右が巽君で、左が泉君の作でしょう。違いますか?」

「そうだ」
「当たり」



どうやら、当たりらしい。
東堂さんの読み、恐るべし。

東堂さんの言い分に寄れば、やはり総悟君はパティシエ。
卵の扱い方は、上手いらしい。
普通のシェフよりも、ふっくら柔らかく、とろとろに火を通す加減がわかっているのだと。

対する浩一朗はやはりシェフ。
ご飯の仕上げ具合は天下一品。そこは総悟君も及ばないと。



「すげー、東堂さん」
「すげーよ・・・・・」
「つうか、味の違い分かった響子もすげえな?」

「いや卵がふわとろでね・・・・・」

「わかります!なんか、とろける感じですよね?」

「あ、そういう感じ!」



舌触りがそんな感じ。ふんわりふっくら。でも火が通ってないわけでなく、美味しいのだ。
とろとろ感も絶妙。浩一朗の作ったものもとろとろだが、ちょっと違う。
・・・・・そのあたりは人によって好き好きだろうけど。



「さて。私から1つ提案なのですが」



ぽん、と手を叩いて東堂さんが言った。



「オムライス、ランチメニューに加えてみませんか」

「「「「「えええええ?」」」」」
「あ、それいいかも」

「ちょ、響子さん!?」
「・・・・・まあ俺はいいけどよ」

「思ってたのよ。たまには、違うメニューを出してもいいかなって。
勿論、パスタがダメって言うんじゃないの。でも、月に1度、別メニュー日があってもいいかなって」

「成程な」
「いい考えだと思いますよ、私は」



晴明が頷き。
東堂さんも私の意見に賛同してくれた。

フロアは提供するだけだからあれだけど。
キッチンの意見はどうだろう?彼等がいやならこの意見はボツにするしかない。

浩一朗を見ると・・・・・



「俺はいいぜ?たまには違うものを提供するのも変化があっていいだろ」

「本当?」

「オーナーがそうしたいってんだ。俺達に否はねぇよ」

「総悟君も、山崎君も、いい?」

「響子さんがそうしたいなら、いいよ」
「俺もバリエーションが増えることには賛成です」



こうして、特別ランチの日を作ることになった。
勿論、今回のメニューはオムライス。
・・・・・まあ、別のものでもいいんだけど。



「・・・・・おい、総悟」

「なんですか」

「卵はお前が焼け」

「は!?」
「巽さん!?」

「山崎に任せるには荷が重い。かといって俺が全部やるには時間がかかる。
だから、お前に任せる」

「・・・・・」

「不満か」

「いえ?意外ですね、自分でやると言いそうなのに」

「まあ、時間があればそうするが。
ランチの混み具合を考えれば、そうするのが一番ベストだろう。それに・・・・・」

「それに、なんです?」

「お前の焼き具合は大したもんだ。俺にはできねぇからな」

「・・・・・」

「・・・・・なんだよ」

「え、・・・・・いえ。褒められると思ってませんでしたし」

「俺だってな、旨いと思ったものは賞賛もするさ。
・・・・・いいな!1日くらいこっちを手伝え!!!」



くるり、と照れたように背を向けてキッチンに入る浩一朗。
総悟君も、山崎君も。
そこにいる全員が驚きと、笑いを噛み殺す。

・・・・・全く、素直じゃないんだから。ウチのシェフさんは。



「・・・・・頼むわね、総悟君?」

「任せて。毎日はしんどいけど、1日くらいならね?」

「うん、お願いします。きっとお客様も喜ぶわ」

「はいはい、そろそろランチの支度をしないと開店時間も迫っていますよ。
皆さん、それぞれの仕事に就いてください」

「「「「「はい!」」」」」



◼︎ ◻︎ ◼︎



勿論、オムライスデーは好評。
事前にレジ前に書いて、告知しておいたお陰で、お客様にも期待してもらえたようだ。

いつもと同じ、ううん、それよりたくさんの人が来てくれた。

卵を焼いてた総悟君が終わった後、少しグッタリしていたけど。
頑張ってくれた彼にはすごく感謝だ。



また今度は何を特別メニューにしようかな?
みんなに意見を聞かなくっちゃね?



「よっしゃあぁぁぁ!!!俺は、牛丼!!!」
「オレ、ハンバーグがいい!」
「えっとえっと、私はリゾットが食べたいです!!!」
「んじゃ、俺はエビフライなんていいかもな?」

「お前等の意見を聞いてるとキリがねぇな・・・・・」

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