136 / 197
森の人編 ~魔渦乱舞~
135
しおりを挟む「おい、さすがに酷くねえかよ、これはよ」
「凄いですねハハハハハハハハハハ」
「郷にも行ってんじゃねえのか」
「あの、私たちが来る前は、なんともありませんでした」
「はい、何も・・・」
「ここに来るまでに球状の蛇は見ましたか?」
「・・・気付いた?」
「ないと思いますわ。でもいつもなら郷の反対側に出たはずですもの」
「あったかもしれねえって事だな」
渦で発生した獣種の魔物を討伐していると、中央にどデカい球状の蛇がある事がわかった。
どうやら今回の渦はこのパイソンスネークの交配期に重なり発生したものと思われた。
未だ俺たちの前には、デカい球状の蛇がある。恐らくあの中に今回の統率者がいる。早いところ討伐したいのはやまやまなのだが、その前に陣取る獣種…猪やら狼が邪魔をしている。
「ったく、面倒だな」
「前回よりまだマシですよ、空からの刺突を気にしなくて済む」
「・・・そりゃ間違いねえ」
『郷の周りにもパイソンスネークの群れがいる』と聞いて、先程エンジュ宛に通信魔法を放った。まだ返事は来てねえが。
…と、ひらりと魔法の鳥が戻ってきた。俺の上げた腕に止まると、女の声。
『もうみたくないですヘビ』
「・・・参ってんな」
「外界にこんなに大型の蛇はいませんしね。大群で群がる事もないでしょうし。郷にいるエルフ達にとっては慣れたものでしょうが、レディにはすまないことをしましたね」
「いや、俺もゲンナリしてるが」
「そうは言っても夜の蛇はお元気では?」
「これだけ戦ってりゃな、発散したくもなんだよ。なあカーバイド」
「えっ!?僕ですか!?」
「ノルマ終わったか?」
「・・・いえまだ3人です」
郷から代わる代わる『食料運搬』と銘打って女達が来ている。一陣にゃ俺とカーバイド、それに音楽家。二陣には青の均衡の奴がもう2人いる。討伐の間、昂ったナニを沈めるためとは言うが、エルフにとってもプラスになるのだからこの場を逃す手はないという事だろう。
場所がない、と主張して逃げ腰だったカーバイドは、イヴァルが作った『防音テント』を見せられて沈黙していた。これはな、諦めが肝心なんだよカーバイド。
俺の腕に止まる魔法の鳥は、まだエンジュの声を放つ。
『いっその事、夜中に全部燃やしてやろうかとも思ったんだけど、周り一面焼け野原になりそうで辛うじて止めたわ』
「よかったなイヴァル、あの郷、灰燼と化す所だったぞ」
「レディが思いとどまってくれてよかったです」
『代わりに凍らせたらいいかしらと思ったんだけど、原型留めるのよね。見たくないから破砕すればいいんだけど、後片付けがねえ』
「・・・早いところ終わらせねえと郷は消えるな」
「できてしまう所が怖いですよね」
『皆焼肉パーチーに飽きてきたみたいで、煮込み料理を作り始めてるわ。燻製を教えたら凝り出してて、なかなか美味しいかも。新しい特産になるかしら?
後、蛇革でお財布作ってもらったわ。金運上がるかしら』
「なんか特産品増えてるぞ」
「いいですね、燻製肉。こちらにも持ってきてもらえませんかね」
「その前に郷周りのパイソンスネークを片付けないとな」
「郷に残ったエルフ達でなんとかなるといいのですが」
『ああ、あと生きてる杖使ってみたら、なんか伸びて観葉植物みたいになったの。お花も咲いたから、そこらに刺しておいたら、皆が拝み始めたんだけどこれ放っておいていいのかイヴァルさんに聞いてくれない?
ディードさんは二陣に行ったまま、まだ戻ってこなくて。頼むわね』
「・・・おい、生きてる杖って」
「・・・世界樹の枝、ですね。まさか花まで咲かせるとは」
「んなもん見た事ねえぞ」
「私は2度目ですね。・・・以前は世界樹の世代交代の時でした」
「んじゃあ、それだってのか」
「いえ、今の世界樹はまだ世代交代の時期ではないはずです。ですから、おかしいのですよ」
「息をするようにやらかすな、あいつ」
********************
生きてる杖さんのおかげで、ぐっすり眠れました。いやー、耳鳴りだと思ってたけど違ったんだね!
起きて広場へ降りると、何故か生きてる杖さんは完全に『御神体』みたいになってました。
エルフさん達が次から次へと拝んでます。
郷に残っている全員がご挨拶したのでは?
「あ、あの?あれどうしたんですか?」
「おはよう、レディ。いやね、せっかく世界樹様の分身がいらっしゃるんだから、朝のご挨拶がしたいって皆がね」
「世界樹?の?分身?」
「ああ、生きてる杖の事だよ。族長から聞いていないかい?」
ああ、そういえば『世界樹の枝です』って言ってたっけ。そしたら挿し木みたいな感じになってる?もしかして。花咲いちゃってるし。
昨日見た時は一輪だったが、二輪になってる。
おばちゃんエルフによると、エルフも大森林の奥まで入って世界樹を見に行く事は稀らしい。
そこまで辿り着くにはそれ相応の腕と、運が必要だとか。
なんでも霧が出たり、方向感覚を狂わせたりと、森の主の許可がなければ辿り着く事ができない。だからこそ、世界樹のある場所は『神域』と呼ばれるそうだ。
「あれっ、そしたらこんな簡単に挿し木しといたらまずい?」
「いいのさ、他でもないレディがそうしたんだから。
『花』を咲かす事ができたんだ、森の主もそれを許している証拠さ。渦を越えられるようにと世界樹様が見守ってくれるんだろうよ、ありがたいね」
そ、そうですか?なんかやっちゃった感があるんですけど。それより『森の主』ってなんですか?私あんまり神様とか信じてないっていうか、信じてるっていうか、どっちだろ?
すると、咲いている花を取ろうとしているお姉さんが。
よく見ると、リーファラウラさん。隣には初めて見るお姉さんも。
「リフ、リーサ、あんたたち何をしてるんだい?」
「あ、あら、おはようございます」
「おはようですの、アーリィ」
このおばちゃんエルフ、アーリィさんと言うのか。
…知らんかった。ていうか他の人全然名乗らないからなあ。
リーサ、と呼ばれたお姉さんは私の前に来ると、にこりと微笑んだ。あらやだのほほんとした感じの美人。
「クルエリーサと申しますの、よろしくですの」
「え、あ、はい。おはようございます?」
「お目にかかれて光栄ですの、レディ」
喋り方ものほほん、としたおっとりさん。
この人が前回パリピ状態になったエルフさんか。しかしこんなにのんびりおっとりした人がパリピ…?想像つかない。
そんな中、リーファラウラさんは花に手を伸ばした。取ろうとしているのかな?しかし手がぷるぷるしている。何してんだろ。
「リフ、まだ場違いだって事がわからないのかい?」
「そ、そんな、はずは」
「咲かせた本人じゃないと花は採れないよ。知らないはずもないだろう?あんたも森の人なんだから」
なんだなんだ?花が欲しいの?髪にでも飾りたいのかしら。
…これ、ホントにあの某RPGみたいにヤバいものじゃないわよね?普通の花、よね?
私は背伸びしてひょい、と花を摘む。
あっさりと採れたそれを、はい、と渡した。
「そんなに欲しいなら、どうぞ?」
「あ、あなたっ!これがどんなものかお分かりになっていらっしゃるの!?」
「花でしょ?飾りたいの?」
「~~~、っ!結構ですわ!行きますわよクルエリーサ!」
「あら、もう行きますの?ではレディ、お土産は蛇さんの卵にしますの、オムレツにしますの」
「お気づかいなく・・・」
何が気に入らなかったのか、ぷりぷり怒って行ってしまった。アーリィさん、によると『自分の手で採る』事で、世界樹に認められようとしたのだとか。
やっぱりこんな挿し木みたいなのでも、特別なのね。
ていうかこの花どうしよう。
616
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる