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私はお母さんじゃありませんよ?

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「おい! お茶」

 昼食を食べ終えた私の婚約者が言った。

「はい、どうぞ」

 そっと淹れたての紅茶を出した。本日のお茶はアールグレイ。香りがいいから食後にピッタリですわね。

「あっつ! もう少し冷ましてから出せ!」

 温い紅茶を出すなんて私には無理ですわ! 適温というものがありますから。

 気がつかれないようにため息を吐いた。お茶も味わって飲めないなんて……嗜みも何もあったもんではない。


「おい、黙ってないで菓子はどうした」

 本日のランチはサンドイッチ。

 ローストビーフやエビとアボガドを挟んだもの。シンプルにチーズと厚切りのハムにブラックペッパーを効かせたのもの。


 お子ちゃま王子様は野菜が苦手。だから玉ねぎを刻んでソースにしたりローストビーフと共にグリーンリーフやトマトを挟んだりしている。


 マヨネーズというソースが流通し始めてから、ピクルスを刻んで入れたり玉ねぎを入れたり……って私はお母さんか……

 いえ、この人のお母さん、いえお母様はそう言ったことはなさらないでしょうね。だってお母様は王妃様ですもの!

「おいっ!」


「はいはい、本日のお菓子はシフォンケーキですよ。クリームを添えてどうぞ」


 私の朝は早い! このお子ちゃま王子様の昼食と食後のお菓子を作るために五時から起きているのだ! 明日はほうれん草やにんじんを使ったクッキーを作ろう。カラフルだから騙されるだろう。


 私の名前はフランチェスカ・ディ・ロレンツィ(十七歳)王立学園に通う二学年ですわ!


 そして冒頭から我儘でお子ちゃま発言の方は私の婚約者!


 クラウディオ・デ・ガスティーニ(十六歳)王立学園に通う一学年!


 私よりも一つ年下のクラウディオ殿下は婚約者と言うよりもうーんと年下の我儘な弟と言った感じかもしれませんわね。


「はい、は一回でいい! もういい。用はない!」


 用はないでしょうね。もう昼食を食べ終わったのですもの。

 私も午後の授業に向けて用意がありますからとっとと失礼致しましょう。


「それでは失礼致しますわね」

「あぁ、そうだ。今日は一人で城に行ってくれ」

「承知いたしました」



 今日は王宮に行く日だった。王妃様とお茶をするのだけれど、単なるお茶会ではない。マナーの講師である侯爵夫人も居たりする。粗相をするとマナーの授業が倍に増やされたりする、魔のお茶会!


 ってお子ちゃま王子様はまさか、ドタキャンするつもりではないか! そんなことをしようものなら連帯責任! 授業が倍に増やされる=登城する日が増える=睡眠時間が減る!

 これだけは避けたい……その前にクラウディオがドタキャンした時のことを考えて言い訳を考えておかなくてはいけない。

 あぁ……忙しいわね。



******


「はぁー。フランチェスカは本当に役に立たない女だとは思わないか?」


 クラウディオが同学年の側近に愚痴るように言った。

「フランチェスカ様がですか? えっと、どこがでしょうか?」


 側近は言われている意味が分からない。と言った顔でクラウディオを見た。この側近はクラウディオの幼馴染の伯爵令息で名前はレナートと言う。

 少しばかり我儘なクラウディオだがなんだか放っておけないと思い、幼い頃からクラウディオの側近(世話役)をかっている。


「茶を出せば熱いし、今日の昼食には野菜が入っていた! また私を騙して食べさせようとしていた!」


 はぁ。っとレナートはため息を隠れて一つ吐いた。またクラウディオがくだらない事を言っていると。

「フランチェスカ様はクラウディオ殿下の体のことを思い朝から早く起きて作ってきてくださるのですよ。しかも私の分まで。それに本日のソースは絶品でしたよ!」


 あっ! しまった……フランチェスカを褒めるとクラウディオが機嫌を悪くするのはいつものことなのに。と思ったが、遅かったようだ。


「ふん。今日は茶会があると言っていたが、私は気分が乗らない! フランチェスカが行けば良い。私は忙しいからキャンセルだ!」

 

 あぁ……やってしまった。フランチェスカに申し訳なく思う。


「本日のお茶会は侯爵夫人もいらっしゃいますので、それはいかがなものかと思います」

 連帯責任となり、自分の首を絞めることになるのに!


「放っておけ!」


 そしてフランチェスカは一人でお茶会に出ることとなった。






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