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第52話 魔力④
しおりを挟むあっくんの上半身は、肩から腕にかけてタトゥーだらけだった。
それでも余白もあり
これだけ腕が太けりゃそりゃスペース埋まらんわ。下手すりゃ私のウエストくらいありそう。
と、考えられるくらい余裕があった。
つまり、これだけの質量を見ても怯まなかった。何でだろう?わからないけど、前見た時と同じ。神々しさすら感じる。神なんて信じちゃいないが、それ以外の言葉が浮かばなかった。
「前に見た時は左側しか見なかったと思うけど、どう?怖い?」
「綺麗」
あれだけの筋肉が、タトゥーの為に存在するようにすら感じる。
“タトゥーに覆われているから”ヤツとは違うと認識出来たからか、私に向かってくる筋肉ではないと思えたからか、そこら辺は分からない。でも恐怖感は今のところない。
「ありがとう。日本人にはあまりウケは良くなくてね。本当にタトゥーが好きじゃないとなかなか受け入れてもらえないんだけど、そう言ってもらえて嬉しいよ。」
「私タトゥーに全く接点がなくて知識がないんだけど、胸やお腹に入れてない事に意味があったりするの?」
「今はあんまり関係ないって言われてるんだけど、昔は内臓の上に彫るのは良くないとされててね、まぁその名残りかな。お腹に入れるとどれだけ鍛えたかわかりにくくなるしね。あとは単純に一番目につく右胸に入れたいモチーフが見つからないからかな。左胸はとってあるんだ。」
「とってある?」
「そう。左胸って心臓がある場所だから。命をかけたい何かを見つけた時に彫りたいと思ってとってある。」
「あっくんてロマンチストなんだね。」
「そうかな?俺にとっては覚悟の証って感じだよ。
それで、俺の裸を見て何か確かめられた?俺はちゃんと協力出来てる?」
「あともう一つお願いしたい。」
「なにかな?」
「その状態で太極拳やってみて。」
「分かった。」
さっきの位置まで下がる。
あっくんが呼吸を整えて、構えた。
今まで何だったのかと思うくらい怖くなくなった。
タトゥー見えてればいいのか私は!
デカい筋肉ダルマが怖いわけじゃなかったんかい!
ヤツを連想させるような状態だと駄目ってことかな?じゃああっくんが服着たら元通りな気がする。
「あっくん、もう一回服着てやってみてくれる?」
「服着て太極拳をやればいいの?」
「そう。」
「OK」
服着たら駄目だった!!!
もう!どんだけ見た目大事よ私!
タトゥー見えてなきゃ駄目って失礼過ぎる。
あ!見えてりゃいいんなら、腕まくったら?
「あっくん、もう一回だけお願いしてもいい?多分これ最後。」
「なぁに?」
「腕捲りして太極拳の構えしてほしいの。」
「わかったよ。」
モタモタするあっくん。わかるよ。自分で自分の腕捲るの結構難しい。
「私がやってもいい?」
「やってくれるの?ありがとう。」
あっくんの腕捲りをしながら思う。
自分から触れるくらいなんだから、もうこれやらなくてもイケるでしょ。と。
腕捲りからの太極拳。
成功です!全然怖くない!問題無し!
脱がせなくても良かったのに脱がせちゃったよ。
「あっくん、協力ありがとう。タトゥー見えてれば全然怖くないことがわかったよ。」
「いえいえ、しーちゃんの反応見ててもしかしてと思ってたけど、やっぱりそうなんだね。嬉しいよ!」
「うん!今まで私が怯える度に悲しい思いさせてたでしょ?それなのにあっくんずっと私を怖がらせないようにしてくれてたし、見守ってくれてて、親方みたいで嬉しかったの!ありがとう!」
「しーちゃん?あの、親方って?」
「あれ?言ってなかったっけ?中学卒業してから働いてた土木業の親方のこと。私の父親代わりだったの。」
「父親!!??」
「うん。初めて私の為に怒ってくれた人なの。とっても大切で大好きなの!」
「そ、そうなんだね。本当に大切で好きなんだね。」
「うん。大好き!」
???コバルトブルーから一気にピンクになったぞ。相変わらずだね、あっくん。
あっくんは人と色の変わり方が違うからもう気にしないことにしたよ。色の意味考えてる間に次々色が変わってくんだもん。ついていけないよ。
「それはそうと、シーケンは教えてくれるのかな?」
そうだった!
「もちろん!今からやる?」
「お願いします。じゃあ服脱ぐね。」
「今の腕捲りのままで大丈夫だよ?」
「俺も思ったんだけどね、シャツだと動きづらくてさ。腕捲りも一人じゃ出来ないし。
いっそ腕の部分、肩から引きちぎる?」
「なにその世紀末スタイル!絶対やめて!似合い過ぎるから!見る度笑っちゃう!目合わせられなくなる!」
「そんなに!?やめやめ。」
「アハハッ駄目、想像だけでも笑い止まんないぃぃー。」
「しーちゃん?そんなに笑ってるとシーケンまた改名するよ?」
「アハッごめ、ごめんなさい!ウヒヒッ」
暫く笑いが止まらない私とあっくんの攻防は続いた
応援ありがとうございます!
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