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第53話 魔力⑤
しおりを挟むようやく太極拳を見せてもらうことに。
思い出すとまたさっきのことで笑えてきちゃうから、もう雑念は捨て!
あっくんの太極拳は、もうそれはそれは綺麗だった。
さっきまでは構えて少し動いては次の検証してたから殆ど構えしか見ていなかった。ビビるかビビらないかに神経集中させてたから。
どこが少しヤレるよ!ここまでやれるならほぼ完璧なんじゃないの?まぁ、本物の太極拳を見たことない私の台詞じゃないかもしれないけど。
シーケン教えるの恥ずかしくなってきたよ。
「どう?しーちゃん。シーケン教えられそう?」
「教えられるどころか、シーケンじゃなく亜門拳作ればいいんじゃない?」
「じゃあシーケン問題無さそうだね!良かった。」
亜門拳はスルーですかそうですか。
「シーケンはね、太極拳をもっと突き詰めた感じなの。あっくんは何を考えてさっきの太極拳をやってた?」
「自然との調和。呼吸のリズムを整えて精神を安定させる。気を巡らす。」
「うん。太極拳の意義だよね。それの効果の主は何か分かる?」
「リラックスじゃない?」
「そう。全てを自然に整えて、リラックス。ストレスは自然のモノじゃない。だから整えて排除する。
あっくんも言ってたけど、シーケンはそこからの派生だね。
リラックスまでは同じ。リラックスした状態から自分を引き上げるの。高めるって言ったらわかる?」
「ごめん、よくわからない。」
「さっきあっくんが言ってた気を巡らす。これがとても大切。ここからは精神的な話になっちゃうんだけど、要するに気持ちの問題なの。何を思いながら行うか。
そして、リラックスした状態だからこそ没入が可能なの。集中するってこと。とても深く。周りの音なんて聞こえないくらい。」
「ちょっと待って。そんなこと出来るの?」
「あっくんは経験したことない?周りの音が聞こえなくなったり、スローに見えたりしたこと。」
「…ある。」
「でしょ?可能なのか聞くってことは、自発ではなく、必要に迫られて、または追い詰められた状態だったんじゃない?」
「そうです。」
「それを自発的に行うってだけ。」
「だけって言ったって…簡単に言うけどそれ実際出来る人なんてほとんどいないよ!」
「そんなことないよ。皆んなやり方知らないだけ。自分を信じることを知らないだけ。」
あっくん凄い疑いの目で見てきてる。
「実際、音が聞こえなくなったりスローに見えたりしたことあるんだよね?なら、比較的簡単に出来るよ。キッカケはどうあれ経験してるから。でも、そこに執着はしちゃ駄目だよ。出来なくなるからね。
あっくんて他にも拳法って呼ばれてるモノ会得してるんじゃない?」
「してるけど、どうして「それがわかるかって?まぁ、経験と感だね。大体見てればわかるよ。」
「そういう話も聞かないわけじゃない。一流のプロ選手がプレイ中に急に周りがスローに見えていつもよりプレイが簡単に出来たりとか「あーそんな感じよ。」
「いや、俺が言いたいのはそこじゃなくて、一流って言われるような人でも人生で何回も入れるようなもんじゃないってことなの。」
「だからね、やり方知らないだけよって言ってるの。
そのプロ選手?動いてる状態でそこに突入したんなら、負けそうだったり打つ手がなかったりで追い詰められてた時じゃないの?
つまり、必要に迫られて。
数回入れるかどうかって言ってる時点で追い詰められてたから入れただけ。
私が思う本当の一流は動きながら自力で集中力を高めてそこに持って行ける人。」
あっくん絶句してる。あっくんなら絶対出来るのに。
「10年以上やってなかったから中途半端感はどうしたって残るよね。だから余計に今の私じゃ教えたって意味ないって思ったんだよ。精々、自分の能力の底上げをして多少の痛みにも動じないように意識を上げるくらい。」
「しーちゃんて何者?」
「しーちゃんはしーちゃんですよ?」
「じゃあ自分より弱い俺に不意打ちなんてしないっていうのは……」
「あぁ、うん。あれはなんていうか、ごめんの一言です。あっくんの筋肉って見せかけじゃないでしょ?ちゃんと闘うための筋肉してるもん。それなのにチビアホに弱いって言われたら立場ないでしょ?男の人ってプライド高い人多いのに、それを忘れて卑怯だ不意打ちだって言われた程度で言い返しちゃったから。」
「それについては俺がごめん。変な気を使わせちゃった。俺には強さに拘るプライドなんてないよ。ズタズタにされて戦場から逃げ戻ったようなもんだ。卑怯は俺だ。
話が逸れちゃったけど、拘ってるわけじゃなくて、現状確認。
今の俺ってしーちゃんの目から見てそんなにハッキリと弱い?」
「オブラートに包んで言ってほしい?
ハッキリと引導渡されたい?」
「いや、もうその言い方でわかったよ。
しーちゃん、俺、しーちゃんくらい強くなれると思う?」
「なれるよ。あっくんなら。
一つ聞いてもいい?」
「何でもどうぞ」
「そんなに強くなりたい理由って何?」
「最初は憧れ、かな。じぃちゃんが自衛隊の偉いさんでさ、昔はかなり強かったらしくて、今でも当時の二つ名が知られてるくらいで。
俺は両親から毛嫌いされて育ってたんだけど、じぃちゃんはそこから助けてくれたんだ。じぃちゃんに認めてもらいたいって気持ちがあったのかも。それに昔は自分のこと“最強だ”って慢心してたんだよ。皆んなが努力を重ねて苦労してること全部簡単に出来ちゃっててね。今だから言えるけど、単純にイタイヤツだったの。あとは、俺自身を見てもらう一つの手段っつーか、俺自身を見て評価を貰うことで存在意義を感じるとか、まぁそんなとこ。」
「じゃあ今は?」
「今はもう退役してるし、本当は必要ないのかもね。ただ、弱くなるのは怖い。戦場で怖い思いしてきたからね。今度は強迫観念みたいなモノに囚われてる。でも、今強くなりたい理由が出来たよ。」
「なに?」
「しーちゃんを守れるくらい強くなること。」
「キザ」
「そうかな?」
「そうだよ!
私も、色々協力してもらったのに話さないのは違うと思うから言うね。
あっくんのことが怖かった。
ヤツと同じ人種に見えたから。」
「ヤツ?」
「私の父親。あっくんみたいな体格してたの。あっくんに比べたら随分と貧相だけどね。あっくんが立ちあがった瞬間、ヤツより大きい!が私の感想だった。
ヤツは最強を目指してて私にも同じことを強要するクズだった。私にもそれを継がせようと躍起になってた。出来るようになるまで殴り続けられた。私が女だったからそれも不満だったみたいだね。母親のことも女なんか産みやがってって暴言暴行当たり前だった。だから、男子が欲しくて金もないから何人もパトロンがいて浮気しまくってた。外面が良くて本性隠してたみたい。相当なイイ男だったみたいでね、あ、顔と身体だけね。
家の事は両親共に何もやってくれないから、弟子達がやってくれててね。弟子達居なかったら虐待死じゃなくて餓死してたかも。
まぁそんな環境で過ごしてたわけですよ。家を出て働いてお金貯めて大学行って、もう克服っていうか、そもそもヤツのことは本当に気にしてなかったの。
気にしてなかったは違うかな?
諦めてた。かな?
諦めてたら何も期待しないし何も望まないでしょ?
私に関わらないでいてくれたらそれで良いって思ってたの。
でもここに来て、全く知らない人から色々突っ込まれて気にするようになっちゃったっていうかね。だから筋肉の塊見て怖かったの。その鍛え抜かれた見た目で勝手に強さに拘ってそうって思ったのも、喋ったら軽くて遊んでそうなのも、ヤツと同じかもって…まぁヤツと話したことなんて一度もないんだけどね。アハハッ
私も散々チビだなんだって言われてうんざりしてたのに、見た目で差別するような事しちゃってごめんね。」
「謝らないで。そもそも圧が強いのは誰が見てもそうだし。しーちゃんは頑張ってきたんだね。本当に尊敬するよ。」
頭をポンポンして微笑みながら話す。
私も微笑む。
和解だね!
「じゃあこれからスパルタでいきますか!」
「うっ、よろしくお願いします。」
そう言ってまた微笑みあった
応援ありがとうございます!
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