水と言霊と

みぃうめ

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第210話    幽霊と魔法

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 私達が急いで戻ると、箱の外に待機していたのはラルフのみ。話しかけられたが無視してロビーの中へ入ると、妖精は絢音の部屋の方へスッと消えて行った。
 絢音は見慣れぬソファに寝かされていた。
 まだ目は覚めていない様子。
 でも胸は動いているから息はしている。
 絢音の手首にそっと触れ、脈も確かめ漸く少しだけホッとした。
「しーちゃん、絢音が目覚めるまではここを離れないんだから少し座って落ち着こう。
 みんなも喉が渇いたでしょう?
 水を持ってこさせますから一息つきましょう。」
「そうね。少し疲れたわ。」
「もうクタクタ。こんな巻きになるなんて思ってなかった。」
 そんなやり取りをしていたら
 
 コンコン

 ノック音が聞こえてきた。
「ラルフでしょ?」
 私が呟く。
「失礼いたします。ラルフです。
 確認したいことがございます。
 少々よろしいでしょうか?」
「あっくん、私、今は話したくない。」
「俺も話したくない。
 みんなは?」
「私もよ。ラルフさんと話す時間があるならみんなと話したいわ。」
「私も。」
「俺も。」
「わかった。」

 あっくんは扉に近付き
「ラルフ、今みんな帰ってきたばかりで疲れている。
 後にしてくれ。」
「少しで構いません。確認してお「後にしろ!」
「………失礼いたしました。
 扉の前で待機しております。」
「ああ。」

 あっくんは戻ってくると
「ごめん、できるだけ声を抑えたんだけどうるさかった?」
 と聞いてきた。
 絢音が目覚めるまで静かにしていたい気持ちは同じだろう。
「ううん。大丈夫。
 多分あれくらい強く言わなきゃラルフは引かなかったでしょ?
 それに確認ってどうせ幽霊のことじゃないの?
 神か、とか幽霊に聞いてたし。
 絢音がこんな状態なのに付き合ってらんない。

 あっくん、絢音を部屋に運んでくれない?
 いつ目が覚めるかわからないし、ちゃんとベッドに寝かせてあげたい。」
「わかった。」
 そう言ってあっくんは絢音を抱きかかえ、絢音の部屋へ運んでくれた。

 あっくんが戻ってきたところでカオリンが意見を述べる。
「あれは絶対に神ではないわ。
 私達が想像する神は、所謂いわゆる天上の存在でしょう?
 どんな生命だって一つの個としての認識しかしない。
 あんな風に個に執着など見せないと思うのよ。
 あんな人間くさい神がいてたまるものですか。
 だからね、私はやっぱり幽霊なんじゃないかと思うのよ。」
「俺は神だの幽霊だのは全く理解できないです。
 あまりに非現実的だ。」
「幽霊か何か知らないけど!そもそもあれってみんなにも見えてたの!?
 私と同じように?
 透けてた!?
 光ってた!?
 宙に浮いてた!?
 顔はどうなの!?
 私には目も口も鼻もわかんなかった!!
 光りながら透けてて浮いてた!!!
 表面が溶けた光るマネキンにしか見えない!
 なのにどこから声聞こえてきたの!?」
「ちょっと!麗落ち着いて!
 私も同じように見えてたから!」
「じゃあ私だけじゃなくみんなもあの光るマネキン見えてたのね!?」
「見えてた見えてたっ!!」
「じゃあやっぱり幽霊なの!?」
「俺も川端さんと同じ。
 信じられない。
 何で実体がないと思うの?
 誰もアレに触れようとしてない。
 光学迷彩って言われた方が理解できる。
 便利な魔法具もある。
 なら投影の魔法具はないの?」

 それは考えてなかった!
 誰かが魔法具使ってる可能性もあるのか!

「光学迷彩かどうかはわからないけれど、投影の可能性はないと思うわ。
 どう見ても絢音君に直接あのバリアみたいなものを張っていたもの。投影でそれは不可能だわ。
 幽霊説を押すわけではないけれど、この世界に馴染むように白い箱に入れられた時に、病気だったりが改善したりしているわよね?魔法という不思議なモノが使えるようにもされた。
 では、普通では見えないモノが見えるようにされた可能性は?

 暫定的に幽霊と言うわね。
 あの幽霊が二度目に現れた時、あの幽霊や絢音君の周りに光る球のようなモノが無数にあったわ。
 あれはどう説明するのかしら?」
「俺はアレが何でも良い。
 説明できそうな事案を言っただけ。
 正体を明らかにしようと思ってない。」
「そう、ね。そうよね。
 正体が何でも良いわ。
 あの幽霊が私達に何をしてくるのか、してくるつもりがあるのか、それが大切だわ。」
「それはあの幽霊に直接聞くしか確認のしようがないですよね?
 あの幽霊がまた姿を現すのか、現したとしても、俺達と会話をするつもりがなければ梨のつぶてでしょうし。」
「そうなのよね……
 ではこの話はお終いにしましょうか?
 もう一つ話したいことがあるのだけれど、良いかしら?」
「不毛ですからね。やめましょう。
 話したいこととは何ですか?」
「あの幽霊が使った魔法に関してよ。
 あれはそもそも魔法なの?
 魔法だとして、私達もあのバリアのような身を守る魔法が何か使えないかしら?
 今の私達の魔法って、攻撃しかないでしょう?」
「魔法かどうかはわかりません。
 魔力を感じませんでした。
 ですが、瞬時に出したことを考えると魔法のような気がします。
 俺の殴打も魔法も効かなかった。
 あれがもし俺達にも可能なら鉄壁ですが、使えるビジョンがまるで湧きません。」
「私もバリア的なモノは一番に考えたの。
 でも魔法として考えた時に、水で物理攻撃の何が防げるのかって疑問に思った。
 防ぐなら、毒ガスとか音くらいじゃないのかなって。」
「金谷君はどうかしら?」
「シェルターみたいな物はできると思う。
 でも視界の確保は無理。
 空間の大きさにもよるけど密室になれば窒息する。」
「カオリン!逆はどう!?」
「逆?」
「バリアを張るんじゃなく、相手の魔法を相殺して消すんだよ!
 アニメや小説でよくあるパターン!」
「しーちゃん、それ無理がない?」
「……やっぱり無理?」
「魔法として発現する前は魔力でも、因子によって四つの種類があるんだよ?
 もしできたとしても同じ因子にしか相殺はできないんじゃない?
 同じ因子の奴が襲ってくるとは限らないでしょう?」
「私も無理だと思う。
 大体私達が使う魔法って、物理に当て嵌めて理解したように自分を納得させて使ってるでしょ?
 この世界だけの特殊ルールみたいな?
 紫愛が言ってるのはどの物理に当て嵌めて考えるの?」
「やっぱ無理かぁー!」
「あの幽霊が使ったのは本当に魔法?
 物理も魔法も無効なんて有り得ない。」
「金谷さん、本当に無効だったかはわからない。
 中に絢音がいたから、殴るのは手加減しなかったけど魔法はかなり手加減してたんだ。」
「全部の因子使った?」
「使った。
 水は持ってないからやってないけど、水だけ無効じゃないなんてこと考えられなかったから戻るのを許可したんだ。」
「練習場の壁?
 …魔法陣?」
「そうか!!!
 魔法陣だ!!!
 練習場の壁は何の魔法でも霧散する!
 火風水土どの魔法が当たっても霧散だ!
 一体どうやって???」
「そもそも魔法陣が何か不明。」
「……やっぱり文献漁るしかないのね。
 というより、魔法陣が何かわかれば私達は地球に帰れるのよ?
 魔法の霧散云々が途端にどうでも良くなったわ。
 同じ穴のむじなじゃないの。」

 そりゃそうだ。
 そこまでわかったら私達は地球に帰ってるはず。
 わからないから苦労しているんだから…
「川端君が明日皇帝を呼び出したのは日程の確認のため?」
「そうです。
 地球人全員の魔力制御が終わったんです。
 それは見ればわかることですから、皇帝にも報告もされているでしょう。
 最初から一ヶ月と決められていたのか、それとも魔法が使える認識ならばさっさと行けと言われるのか、確認しなければどうにもなりません。」
「あっくん!ここの構造どうなってるの?
 聞いたら教えてもらえるの?」
「……機密事項なんじゃないかな?
 何が知りたいの?建物内?建物外?」
「両方!」
「どうして?」
「もし護衛がやられてみんなが危険な状態になった時、金谷さんがいれば壁破壊して逃げたりもできるけど逃げる方向がわからないのは困る!」
「っ!そうか!
 壁の破壊は建物の崩壊に繋がるから一番最悪な場合だけ。
 逃げるだけで済むならその方が良い。」
「カオリンは保護の魔法陣がかかった図書室に行きたいでしょ?ここにずっとはいられないから必要な情報。」
「そうね。
 魔法だけを過信するわけにはいかない。
 紫愛ちゃん、考えてくれてありがとう。」
「まだ情報は手に入ってないよ!
 あっくんと私で二手に別れて内部と外部の探索をしよう!」
「二手に別れるの!?駄目だよっ!」
「すぐ行けって言われたら時間がないよ。
 それに護衛は連れて行くし、どの道二手に別れないと倍の時間がかかる。
 私にもあっくんにも魔法で勝てる奴はいない。
 無駄な時間の浪費は駄目。」
「…………じゃあしーちゃんは外。俺は中。
 外なら遠慮なく魔法使えるでしょ?
 これは譲れないよ!」
「それでいいよ。
 カオリン達は申し訳ないけど、絢音が目覚めるまでここで缶詰状態になっちゃう。」
「それは気にしないで。
 いつもと大して変わらないわ。
 操作はどこでも練習できるもの。
 それに折角本があるんだもの。
 川端君と紫愛ちゃんが辺境に行くまでに少しでも役立つ情報が得られるように解読を進めるわ!」
「香織さん!私も手伝うから!」
「俺も手伝いながらみんなを守る。」
「皇帝との話し合いが終わればそれぞれ別行動だ!
 みんな頑張ろう!」

 そして暫くしたら優汰が戻ってきて夕食を一緒にとった。
 優汰は畑の話でヒートアップしそうだったので、絢音が倒れたことを伝え声のボリュームを抑えてもらった。
 幽霊のことは、見ていない優汰に説明してもわからないためにしなかった。

 説明が面倒だったとは言うまい。













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