水と言霊と

みぃうめ

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第323話    side亜門 シモーネとの対話

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 翌朝、ニルスから次期当主の予定が報告される。
「おはようございます。
 昨晩早い面会をと申し出をしましたら、朝食後お会いするとのことでした。
 シモーネ様からラルフを伴って来てほしいとのご希望があったのですが、川端様のご意向は如何でしょうか?」
「ラルフを?
 理由は聞いてるか?」
「はい。何か確認事項があるとのことでした。」
「次期当主なら忙しいだろうな…
 分かった。ラルフと行こう。
 ニルスはどうする?」
「シモーネ様がラルフに確認をと仰った件がどれほどかかるのか不明です。
 長引くようでしたらラルフとは一旦別行動となるかと。
 屋敷内とはいえ川端様をお一人で行動させるわけにはまいりません。
 お邪魔でなければ同行させていただきたいと思っております。」
「そうだな。家族なら積もる話もあるかもしれない。ニルスも同行を頼む。」
「畏まりました。」


 素早く朝食を終え、ラルフに面会場所へと案内される。

 コンコン
「ラルフです。川端様をお連れしました。」
「入ってちょうだい。」
「失礼します。」
 ラルフによって扉が開かれ、入室するやシモーネは俺へと一定距離まで近づき微笑みながら挨拶をした。
「川端様、おはようございます。
 昨日ぶりですわね。
 昨日の会食は如何でしたか?
 お楽しみいただけましたか?」
「おはようございます。
 昨日のもてなしを感謝します。
 昨日の今日で時間をとらせてしまい申し訳ない。」
「お気になさらず。
 さぁ、座って話しましょう。」
「はい。」

 机を挟み対面で座り、ラルフは後ろに立ち、ニルスは部屋の外で護衛につく。
「あら?ニルスは?」
「ニルスは外で護衛についております。」
「ここは誰も近寄ってはこないわ。
 ニルスにも入ってもらって?」
「はい。」

 この場所はかなり奥まった場所に位置しているため、ギトー家にとってはプライベート空間ではあるだろうが、何故ニルスの同席を望むんだ?

「それで、今日はどうなさったんでしょう?
 昨日お話しをし忘れたことでもございましたか?」
「いや、そうではなく…聞きたいことがあって時間を作ってもらったんだ。」
「あら、私に?何かしら?
 私でお力になれるなら何でも仰ってください。」

 昨日のシモーネは自己紹介の時以外は口を開かなかったから気がつかなかったが、棘もなく、柔らかい雰囲気を纏いつつ適度な距離を保つ姿勢に驚く。

「では遠慮なく。
 何故塀の外側で暮らすことを許可しているんですか?
 いつから暮らすようになったんです?
 魔物の脅威はどれほど昔から始まったんです?」
 俺の言葉に一瞬、ほんの僅かに肩を揺らしたが、その表情は変わらない。
 何だ?
「許可するしないではなく、外で暮らす平民は皆志願して住んでおります。
 魔物がいつから出始めたのかは不明ですが、ここ辺境では常に魔物の脅威に晒され続けており、昔から被害が絶えませんでした。
 魔物を直接目にした川端様であればお分かりでしょう?平民では魔物に太刀打ちなどとても不可能だということを。
 魔物に対抗し得るのは魔法のみ。
 ですがそれは貴族という立場でなければ得られる力ではありません。
 そこで平民達は、魔法が使えない自分達でも何か出来ることはないのかと考えたのです。
 自身を犠牲にしてでも辺境を、家族を守りたい、守る方法はないのか、と。
 そうして志願した平民達によって外の暮らしが始まり、現在に至るまでに様々な手段や議論が交わされ、常に改善策を模索しながら成り立っております。
 志願に報いたく、私共は被害を最小限に抑える努力と支援をし続けております。
 会食で当主も申しておりましたが、外の者達が中で暮らしたいと願えばそれは直様叶えられます。
 そこに強制力は一切ございません。」

 そうか……そもそも体制が整っていないだけで、外の平民達は自衛隊のようなものなのか。
 俺だって自ら望んで入隊した。
 その意志を否定することなんて誰にも出来やしない。
 ましてやそれが誰かを、何かを守りたいという願いからくるものであれば尚のこと。
 しーちゃんが言ったようにそれを享受するだけでなく正当な働きとして評価を受けているからこそ誇り高く生きられる。
 魔物の脅威に晒されながら、成るくして成った結果が今なんだ。辺境の人間に怒りをぶつけたって仕方がないし意味もない。


 俺の“中で暮らせ”と言う生き様を否定する言葉は一番言ってはいけないことだったんだ…


「川端様?」
「ああ、すまない。少し考え込んでしまった。
 ………では、紫愛が言っていた中にあるスラムというのはどういった現状だろうか。」
「スラムは主に劣等者と呼ばれる者とその家族、怪我を負い働けなくなった者が行き着く先です。
 手に職をつけられない者の集まりですわ。
 辺境としてはどんな者でも見捨てることはできません。
 ですが、完璧な世話をすることは叶わず、一処ひとところに集めての支援しかできていないのが現状です。
 私共も長年打開策を模索しておりますが、良い案はなかなか…」
「国は何をしている?」
「国、でございますか?」
「そういった政策は国が主導するものだろう?
 違うのか?」
「例え国が政策を打ち出したとして、それを実際に行うのは私共でございます。
 端的に申しますと、スラムを改善しようにも世話をする人手が集まらないのが1番の問題点なのです。
 ですからどんな打開策も実現には至らないのでございます。」
「それこそ国が人材を派遣してくるべきだろう?」
「川端様、その人材が中央にいるとお思いになりますか?」
「………思わないな。」
「そうでございましょう?
 これは金銭を積めば良いという問題ではございません。
 ですから問題があると分かってはいても現状の維持に留まってしまうのです。」

 確かに、いくら上からああしろこうしろ言われたところで人手がなければ足踏みしてしまう。
 好き勝手に指示されないだけマシか?

「だが、国としての怠慢であることに変わりはないな。」
「まあ!
 川端様は勇猛果敢でいらっしゃるのね。
 そのような物言いはなかなかできることではございませんわ。」
「都合の悪い事は辺境へ丸投げなんて許されることではない。
 俺も紫愛と共に手がないかこれから考えよう。
 辺境の騎士団についても聞きたい。
 少数精鋭とのことだが、本当に足りているのか?」
「はい。前回のように大挙で押し寄せるようなことがない限りは対処は可能ですわ。」
「それにしては魔法の発動が遅いように感じた。」
「ふふっ、お2人と比べられてしまえばどうしようもありませんわ。」

 誰と比べて遅いではないだろう。
 発動が早ければ早いほどその騎士の生命を守ることに繋がるのだから。

「最後にもう一つ。
 俺の見た目は怖いと思うか聞きたい。」
「辺境の貴族には好ましく映ると思いますわ。
 その立派な体躯に負けず劣らずの魔力圧。
 それに違わない魔法の実力。
 そして何より、伝説と化した3因子の持ち主。
 総合して憧憬の的かと。
 ですが平民相手には魔力圧は隠されていらっしゃいますね?
 となると、体躯のみでの判断となります。
 川端様程の体躯の者を私は見たことがございません。
 2人はどうかしら?
 他の辺境で見たことがある?」
「いえ、ありません。」
「筋肉もそうですが、何より川端様程の上背がある者は各辺境の何処においても見たことも聞いたこともございません。」
「やっぱりそうなのね…
 川端様は、失礼ながら大柄の一言では済まない程の体躯をお持ちですから、平民からは畏怖の対象かと思いますわ。」
「やはりそうか。」
「何かお気に触るようなことが?」
「いや、酔っ払いですら俺の姿を見ると逃げ出すんでな…平民街の調査は俺では厳しそうだと思っただけだ。」
「そう、ですわね…体躯は隠しようがございませんもの。」
「とても参考になった。感謝する。」
「とんでもございません。
 何かあればいつでも申してくださいませ。」
「ああ。ではこれで失礼する。」
「その前に、ラルフを少しお借りしてもよろしいかしら?
 久しぶりに会えましたし、しなければならない話もありますの。」
「そうだったな。俺にはニルスが付くからラルフはこの場に置いて行く。
 それで構わないか?」
「はい。ありがとうございます。」
「では。」
 そう言ってニルスと退室した。


 俺がやれることに目星がついた。
 まずはしーちゃんと話したい。
「しーちゃんが今どこにいるか知ってるか?」
「午前はいつも子達と遊んでいらっしゃいます。特別な予定がない限りは外においでだと思います。」
「そうか。じゃあ外に行く。」
「畏まりました。」














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