水と言霊と

みぃうめ

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第329話    亜門の謝罪

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「げっ!!父さん!」
 やっぱりお父さんで間違いなかった。
 丁度良い。
 子供達の意思を聞いた後で大人にも許可取るつもりだったんだから!
「すみません、私が余計なことを言ってしまったかもしれません。」
「子達と遊んでくれるのは感謝してるが変なこと言ったりしないでくれよ!」
「父さん!お姉ちゃんはわるくないよ!
 おれがかってにしゃべったんだ!
 それにへんなことも言ってない!
 あのおっきいお兄ちゃんがあやまりたいって言ってるからいいかどうかきかれただけだよ!」
「何!?駄目だ!!!
 聞く必要なんてない!!」
「じゃー父さんはなんで母さんにいつもあやまってんだよ!ゆるしてほしいからだろ?
 母さんがゆるしてくれないといつも心がせまいって言ってるじゃないか!」
「だから余計なこと言うなって!!」
「あやまることもできなかったらずっと母さんとけんかつづけるのかよ!
 母さんだっていつもごめんなさいはきいてくれるだろ?
 お姉ちゃんはゆるしてほしいって言ってない!きいてほしいって言ってるだけじゃないか!」
「それ以上余計な「あなた?ニッキーを怒鳴りつけるなんてどういうつもりかしら?」
 今度はにっこり笑顔なのに凄まじい圧を放つ女性がこちらに近付いてきた。
「母さん!!」
 やっぱりお母様ですよね…
「紫愛さん、大体話は聞こえていたけど、あの大きな方が私達に謝りたいってことで合ってます?」
「はい!合ってます!」
「そうなのね…ニッキーはどうしたいの?」
「きいてあげるべきだとおもう。」
「他の子は?」
「ぼくもきくだけなら!」
「ぼくも!」
「わたしは…お姉ちゃんがいっしょなら…」
「もっちろん私も一緒にいるよ!」
「じゃあみんなで聞いてあげましょうか?」
「ヴェラ!!そんな必要ないだろ!」
「あなたは黙ってなさいな。
 子達の方が余程心が広いわよ。
 誰かさんと違ってね?」

 うーーーわっ!笑顔でやり返してるよ!
 お母様怖っ!!!
 お父さんは青ざめそれきり口を開かず。

「紫愛さん、私はあの方の謝罪を聞きたい大人を連れてきますから。」
「はい!」

 話が大事になってきた…
 どうしてこうなってしまったのか…
 とりあえず子供達に断りを入れ広場の端で待っているあっくんの元へダッシュ。
「大人の人も謝罪聞いてくれるって!
 これ以上関係の悪化は絶対駄目!
 だからあっくんが怒りを少しも出さずに謝れないなら断ってくる。」
 本当はすぐにでも断りたかったけど、当事者であるあっくんに一応の確認は必要だ。
「今、シモーネさんと話してきたんだ。
 しーちゃんが言ってたこと、ちゃんと理解した。
 だから誠心誠意の謝罪をさせてほしい。」

 あれだけ外で暮らすのを否定してたのにシモーネさんと少し話しただけで考えが変わったっていうの?

「………本当に理解したの?」
 思わず声が低くなってしまう。
「外の人達は大切な誰かや何かのために自らの命をかけて辺境を守ってる。
 俺がしたのは生き方の否定だった。」

 自分で間違いを認められたんだ…
 あんなに意固地だったのに。
 それでも確認せずにはいられない。
 また怒らせてしまったら二度と関係修復は叶わない。
 今回の謝罪は最初で最後の大切なチャンスなんだから。

 ずっと避けていた視線をあっくんと交わす。

「………絶対怒らせるようなこと言わない?」
「言わない。」
「自分の意見を押し付けたり外の人達を否定したりしない?」
「しないよ。」
「子供達には目線の高さを合わせて声を低くせずわかりやすい言葉で優しく謝れる?」
「できる限りするよ。」
「もし今回も怒らせたらあっくんと辺境へ行くことは二度とないよ?」
「わかってる。それだけのことをした自覚もある。」
 あっくんの目から感じるのは揺るぎない思いと覚悟。
 ………信じてみよう。
「うん。じゃあ一緒に謝りに行こう!」

 あっくんの手を引き子供達の元へ。
 子供達の周りには既にかなりの大人も集まっていた。
 その視線からは僅かだが敵意を感じる。
 みんなの前へと到着したら繋いだ手を離し、あっくんの隣に並び立つ。
 あっくんは背が大きいのを考慮してか、左膝をつき左手を左太腿の上、右手を右膝の上に置き、なんだか忍者みたいなポーズをとった。
 あっくんに倣い私も同じポーズをとる。
 大人達はそれを見て騒つきだす。

「謝罪の機会をいただき感謝します。
 学びが足りず、恥ずかしながら無知なまま辺境へと訪れ、魔物が出現する外で暮らすことを危険と感じ、身勝手な正義感で貴方達の生き方を否定してしまいました。
 許してほしいとは思っていません。
 俺のこれからの行動で少しでも返していけたらと、そう思っています。

 子供達も、いきなり大きな男が近付いてきて怖かっただろう?
 ごめんな。」
「私も川端と共に無知なままここに来て、辺境での暮らしの在り方を知るまでは困惑していました。
 ですが皆さんが誇り高く生きていらっしゃるのを知り、応援したいと思いました。
 私も川端と共に、辺境のために何をしていけるのか考えていきたいと思っています。」
「もういいよ!
 おれ、ほんとうは知ってるんだ!
 2人がまものたおしてくれたんだって!
 2人がいなかったらおれたちみんなしんでたって!
 だけど!知ってたけど!
 お姉ちゃんがしんじゃったかもっておもって、それで…おこっちゃったんだ……
 ごめんなさい………」
 ニッキー君の声はどんどん尻窄みになっていき、最後は蚊の鳴くような声でごめんなさいと言った。

 私は立ち上がり
「あっくんも立って。
 このままじゃ気にしてくれって言ってるようなもんだよ。」
 あっくんが立ち上がる気配を感じながら私が向かうのはニッキー君の目の前。
 今度は膝をつかずに両膝を抱き込むように蹲み、ニッキー君の顔を覗き込みながら
「でもそれって、私を心配してくれたってことだよね?
 お姉ちゃんは嬉しかったよ。
 だから、ありがとう!」
 そう満面の笑みで言った。
 子供達の中では年長さんで口が回り、リーダーシップを発揮する優しい男の子。
「紫愛さんや川端さんが魔物を倒してくれたことは私達外で暮らす者は全員が知っていて、とても感謝しています。
 実を言うと、大人達はスベンに叱られたんですよ。
 仲違いがあってもそれに関係なく自分達を救おうと魔物を倒してくれた恩人に、感謝もしないでいつまで責めるつもりなのか、知らないことを責める前に教えるのが先じゃないのか、お前達がいつまで経ってもそんなだから恥ずかしくてお礼にも行けないって。
 私も個人的にお礼が言いたかったんです。
 ニッキーや夫が無事でいられたのもお2人のおかげだわ。あんな人ですけど私にとっては大事な夫です。
 本当にありがとうございます。
 川端さんも、気にさせてしまってごめんなさいね。謝るのは私達の方だわ。
 小さな事に拘って素直になれないのは大人の悪いところよね。
 ニッキーが紫愛さんに謝っているのを見て思い知らされたわ。」
「いえ、不快な気持ちにさせてしまったことには変わりありませんから。」

 ヴェラと呼ばれたお母様もあっくんも、このままでは終わらない謝罪合戦になりそうだ。
 仲裁に入ろう。

「では、私が言うのも何なんですが喧嘩両成敗ってことでどうでしょうか?」
「そうしてくれるとこちらは助かるわ。」
「皆さんがそれで構わないなら俺から言うことは何もありません。」
「じゃあもうごめんなさいは終わりですね!」

 やっと緊迫した空気が緩まりほっとできた。

 バツが悪そうにしているのは主に男性陣。
 プライドが邪魔してずっとあっくんのことを許せなかったんだろう。
 しかしスベンさんがみんなにど正論で喝を入れてくれたとは驚きだ。
 ヴェラさんがそれをこの場で暴露したことにより、許さないとは口が裂けても言えない空気になってしまった。
 女性陣から感じる空気は穏やかなもので、既に怒ってなどいなかったのが窺える。
 女の人って切り替えが早いって言うもんね。
 ヴェラさんは夫に
「あなた、後で話がありますからね?」
 先程のようににっこり圧強めで脅しをかけていて、後でこってり絞ると明確な意思表示をしている。
 ご愁傷様です…

 ニッキー君が
「お兄ちゃんもいっしょにあそばない?」
 と、素敵な提案してくれたけれど
「ごめんな、今からお姉ちゃんと大切な話があるんだ。」
 あっくんはそう微笑みながら言って断りを入れた。
 勿論、ニッキー君と視線を合わせるように蹲み込んで。

 話とはシモーネさんと話して得た情報の擦り合わせだろう。
 一旦部屋へ戻ろうとあっくんに声を掛けようとしたら、塀の上から

 カンカンカンカン

 と金属を打ち鳴らす音が響いた。














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