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Internally Flawless
19 変転 1
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◇秋生◇
レイの事務所の地下の駐輪場にバイクを止めて、エンジンを切って、ヘルメットを脱いで、アキはハンドルにヘルメットをかけた。レイの事務所を含めた数社の社員と事務所の来客専用のそこは管理人もいるので、そのままバイクを離れる。
スマートフォンを確認すると、時間は4時45分。なんとか遅刻はせずに済んだけれど、今朝起きるのは大変だった。と、いうよりアキがすんなり起きられるようなことは殆どない。普段起こしてくれるスイもいないし、遅番のユキに起こさせるわけにもいかないので、目覚ましを3つセットしたうえで、三度寝してようやく起きた。
「あーねみい……」
結局。前夜、ユキは11時には帰ってきた。
そして、帰ってくるなりスイに会っていたことがバレた。
スイのことばかりではないのだが、ユキのこういう時の洞察力は野生の獣並みだ。10時には家に帰りついたし、バイクは家から離れた賃貸ガレージに置いてあるし、風呂も入りなおしたけれど、顔を見るなりバレた。
そして、もちろんユキは拗ねた。
昨日はレイが荒れていてそうとう面倒くさいことになっていたようだ。買い物だ、エステだと、散々振りまわされて、ご機嫌とりのために事務所の会議室に二人きりにされて、延々自慢話を聞かされた上に、しなだれかかられて強い香水の匂いに気持ち悪くなったらしい。
それを我慢してようやく帰ってきたというのに、夕方出かけた時より明らかにご機嫌で、すっきりとした顔をしている兄にさすがに温和な弟もキレて2時間愚痴を聞かされた。
さらにスイからのLINEである。
引きとめたのは俺だから怒らないであげて?
火に油を注いだのは言うまでもない。半泣きで『俺だってスイさんといたいの我慢してんだからな!!』と、部屋に閉じこもってしまった。
ドアをノックしても、食事を用意してやっても全く反応がない。気持ちは分かるから、しばらくはそっとしておくしかないと、ため息をついて眠りについたのは2時過ぎだった。
朝起きると、用意した食事はちゃんと食べてあって、洗った食器が綺麗に片づけられていた。
そして、家を出て今に至る。
ユキと喧嘩することはあまり多くない。けれど、ユキはどちらかと言うと怒りを引きずるタイプではないので、数日すればいつも通りになるだろう。そもそも、スイに会えないことでストレスがたまっているので、彼が帰ってくればご機嫌も治るはずだ。
そう思って、気持ちを入れ替える。ここからは、アキが我慢の時間だ。
セイジに頼まれたこの仕事の裏の意味の部分は、恐らくスイがああ言っていた以上、4日以内には終わるだろう。結局、レイに振り回され過ぎて、殆ど事務所には近寄れなくて、怪しい動きなんて感知することはできなかった。
今回の『キングスクラウン』のショーに参加するモデルは、その大半がこの事務所のモデルだ。もちろん、毎回そうなわけではない。ただ、今回のショーはレイを目玉に据えるために、その周囲も殆どをこの事務所のモデルで固めていた。
これまでの行方不明になっている人物の中には、かつてこの事務所に所属していた者もいる。行方不明になったのは、事務所を辞めてからだったために、あまり問題視はされていなかった。
ショーは2部構成になっていて、このショーのためにオーディションで選ばれた者や、事務所に所属したばかりの新人モデルが出演する、ローティーン向けの第1部『Nジェネ』と、レイたちトップモデルが出演するハイティーンや20代向けの第2部『プリンシパル』に分かれる。
昨年もその構成は変わっていない。行方不明者は殆どがNジェネに出演した新人モデルか、オーディションには参加したが落選した者の中で将来性有りと事務所が連絡を取った人物だけだった。ただし、モデルが所属している事務所はその年や季節によって違う。
ここから考えると、レイの事務所の人間が犯行に係わっている可能性は高くないと思う。毎回モデルを出演させている事務所ならともかく、レイの事務所では出演しない年も多い。
しかし、そうなると、大きな問題が出てくる。
スイの係わる人身売買の事件が解決しても、アキやユキはレイから解放されないということだ。あの我儘で、気まぐれで、気位の高い女にいつまでもこき使われていては、スイとの時間をゆっくりとることすらできないかもしれない。
レイの事務所の地下の駐輪場にバイクを止めて、エンジンを切って、ヘルメットを脱いで、アキはハンドルにヘルメットをかけた。レイの事務所を含めた数社の社員と事務所の来客専用のそこは管理人もいるので、そのままバイクを離れる。
スマートフォンを確認すると、時間は4時45分。なんとか遅刻はせずに済んだけれど、今朝起きるのは大変だった。と、いうよりアキがすんなり起きられるようなことは殆どない。普段起こしてくれるスイもいないし、遅番のユキに起こさせるわけにもいかないので、目覚ましを3つセットしたうえで、三度寝してようやく起きた。
「あーねみい……」
結局。前夜、ユキは11時には帰ってきた。
そして、帰ってくるなりスイに会っていたことがバレた。
スイのことばかりではないのだが、ユキのこういう時の洞察力は野生の獣並みだ。10時には家に帰りついたし、バイクは家から離れた賃貸ガレージに置いてあるし、風呂も入りなおしたけれど、顔を見るなりバレた。
そして、もちろんユキは拗ねた。
昨日はレイが荒れていてそうとう面倒くさいことになっていたようだ。買い物だ、エステだと、散々振りまわされて、ご機嫌とりのために事務所の会議室に二人きりにされて、延々自慢話を聞かされた上に、しなだれかかられて強い香水の匂いに気持ち悪くなったらしい。
それを我慢してようやく帰ってきたというのに、夕方出かけた時より明らかにご機嫌で、すっきりとした顔をしている兄にさすがに温和な弟もキレて2時間愚痴を聞かされた。
さらにスイからのLINEである。
引きとめたのは俺だから怒らないであげて?
火に油を注いだのは言うまでもない。半泣きで『俺だってスイさんといたいの我慢してんだからな!!』と、部屋に閉じこもってしまった。
ドアをノックしても、食事を用意してやっても全く反応がない。気持ちは分かるから、しばらくはそっとしておくしかないと、ため息をついて眠りについたのは2時過ぎだった。
朝起きると、用意した食事はちゃんと食べてあって、洗った食器が綺麗に片づけられていた。
そして、家を出て今に至る。
ユキと喧嘩することはあまり多くない。けれど、ユキはどちらかと言うと怒りを引きずるタイプではないので、数日すればいつも通りになるだろう。そもそも、スイに会えないことでストレスがたまっているので、彼が帰ってくればご機嫌も治るはずだ。
そう思って、気持ちを入れ替える。ここからは、アキが我慢の時間だ。
セイジに頼まれたこの仕事の裏の意味の部分は、恐らくスイがああ言っていた以上、4日以内には終わるだろう。結局、レイに振り回され過ぎて、殆ど事務所には近寄れなくて、怪しい動きなんて感知することはできなかった。
今回の『キングスクラウン』のショーに参加するモデルは、その大半がこの事務所のモデルだ。もちろん、毎回そうなわけではない。ただ、今回のショーはレイを目玉に据えるために、その周囲も殆どをこの事務所のモデルで固めていた。
これまでの行方不明になっている人物の中には、かつてこの事務所に所属していた者もいる。行方不明になったのは、事務所を辞めてからだったために、あまり問題視はされていなかった。
ショーは2部構成になっていて、このショーのためにオーディションで選ばれた者や、事務所に所属したばかりの新人モデルが出演する、ローティーン向けの第1部『Nジェネ』と、レイたちトップモデルが出演するハイティーンや20代向けの第2部『プリンシパル』に分かれる。
昨年もその構成は変わっていない。行方不明者は殆どがNジェネに出演した新人モデルか、オーディションには参加したが落選した者の中で将来性有りと事務所が連絡を取った人物だけだった。ただし、モデルが所属している事務所はその年や季節によって違う。
ここから考えると、レイの事務所の人間が犯行に係わっている可能性は高くないと思う。毎回モデルを出演させている事務所ならともかく、レイの事務所では出演しない年も多い。
しかし、そうなると、大きな問題が出てくる。
スイの係わる人身売買の事件が解決しても、アキやユキはレイから解放されないということだ。あの我儘で、気まぐれで、気位の高い女にいつまでもこき使われていては、スイとの時間をゆっくりとることすらできないかもしれない。
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