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わたしと王様の出会い 7歳の時。
しおりを挟むうん、わたしは王太子殿下の婚約者になる前までは木登りしたり外を駆け回るほうが好きだった。
今は仕方なく『お嬢様』をしているけど。
それに……
国王とわたしが仲良しになったのには理由がある。
まだわたしがイーサン殿下と婚約する前の7歳の時。
子供達が集まるお茶会にお母様に連れられて行った時だった。
わたしは綺麗に着飾って大人しくお茶を飲むのが嫌でこっそりと抜け出して王宮庭園を一人で散歩していた。
色とりどりのお花が綺麗で一人見て回り、ふと変わったお花があったので興味を持ってじっと見ていた。
「お嬢ちゃんはお花が好きなのかい?」
「はい、とっても綺麗です。ドレスを着て綺麗な格好をするより綺麗なお花を見た方が絶対いいのに。なんでこんな動きづらい服を着ないといけないのかしら?」
「女の子なのに綺麗なドレスは嫌なのかい?」
庭師?のおじさんは笑いながら聞いてきたので
「え?だって木登りも走り回ることもできないのよ?」
「木登り?」
「うん、わたし友達の中で一番上手に登れるの」
「友達?」
「お母様はお仕事が忙しいからわたし退屈だから孤児院の慰問に執事と侍女について行くの、そこで木登りや駆けっこを教えてもらったの」
「ほお、楽しそうだね」
「うん、遊びを教えてくれるのでお礼に字を教えてあげたり本を読んであげるの」
「そうか、それはいいことをしているな」
「ほんと?あと、あとね、わたし暇だから字のお勉強いっぱいしているのよ」
「どんな勉強?」
「えっとね、ジャワール語とオリソン語とワルシャイナ語の字を覚えているの」
「ほおお、そんな難しい字を書けるのかい?」
「うん、面白いよ。字にはちゃんと意味があるから書いていたら面白いの、計算も同じ、解き方さえわかればどんな問題も簡単だから楽しいの」
「君の名は?」
「あ!しつれいいたしました。わたしの名前はカトリーヌ・ブランゼルと申します」
わたしはちょっと苦手なカーテシーをおじさんに振舞った。
「可愛らしい挨拶だね、そうか君はブランゼル侯爵家のあの可愛いお嬢ちゃんか」
「あの?あのはお姉様のセシルだと思いますよ?とっても凄いの!お綺麗で頭も良くて。わたしは…じゃないほうの娘だもの」
「君も十分可愛いし頭もいいと思うぞ、さらに元気で話し上手だ」
「ほんと?うれしい!そんなこと言ってくれるのはおじさんがはじめてだわ」
「じゃあおじさんがそんな可愛いお嬢さんにあの花をあげよう」
「ええ?勝手にお花を摘んだら怒られない?」
「大丈夫だよ、ここのお花はおじさんが管理しているからね」
「ふふ、ありがとうございます。こんな素敵なお花をいただけてうれしいです」
「この花の名はダリア。我が国ではここにしか咲いていないんだ」
「ダリア?それは国花ですよね?でも本で見たのとは少し違う」
「わかるのかい?これは品種改良したので珍しい花なんだ」
「凄い!変わった花だと思ってたらそういうことか!」
わたしが感心して見ていると
「変わった花だと思ったんだ?」
「うん、だって本に載っていなかったから」
「本?」
「うん、暇だから本はよく読むの」
「そうか、またお話しをしにここにおいで」
「お母様は忙しいの。今日は王様がわたしくらいの子供を呼んでお茶会をするから仕方なくわたしを連れてきたの、だからあんまり来れないの」
「そうか、仕方なく連れて来られたのか」
おじさんは楽しそうに笑った。
「じゃあそろそろお母様のところへ戻るね」
わたしは走ってお母様のところへ向かった。
「あ………」
おじさんが何か言ってたみたいだけど、声が小さくて聞き取れなかった。
お母様の座っている席へとつくとわたしは嬉しくてさっきもらった変わったダリアの花を見せた。
「お母様、見て!綺麗でしょう」
「それは……どうして勝手に花をとったの?」
バシンっ!!
わたしは頬を叩かれた。
そしてさらに反対側も。
バシンっ!
勢い余ってわたしは地面に倒れた。
ーーなんで怒られるの?
わたしが呆然と倒れていると周りの大人達がわたしを見て
「まぁ、この花は国花よ、それもこの王宮の庭園で育てられた珍しい品種よ。勝手に摘んではいけないのよ」
「どんな育て方をされたのかしら?」
「見て。あのピンク色のはしたない髪の色、みっともない格好で転けて無様だわ」
聞こえてくるのはわたしを蔑む言葉と悪意だけ。
お母様は鬼のような形相でわたしを見て震えていた。
そこに「遅くなってすまなかった」と、このなんとも言えない重い空気の中声をかけてきたのは……
「カトリーヌ嬢?どうした、そんなところ……その頬は?大丈夫か?」
「……おじさん?」
おじさんはわたしを起こしてくれると汚れたドレスの土をはらいながら
「その頬は叩かれたのか?すまなかった、少し遅れてしまったな」
そう言ってわたしを優しく抱きしめた。
「この花はわたしが自ら摘んでカトリーヌ嬢へプレゼントしたものだ。あの庭園で花を摘めるのは王族のみ。誰かが摘もうとしてもすぐに騎士に止められる。それくらい皆わかっていると思っていたが。
まさかこんな小さな子にこんな腫れるまで叩くなど思わなかった」
おじさんの言葉にみんなが頭を下げた。
そうみんなが。
「陛下申し訳ございません」
一番先に謝ったのはなんと王妃様だった。
「わたくしが止めないといけなかったのに遅すぎました」
王妃様は別の席に座っていたので気づくのは遅かった。
「おじさん、ううん、国王陛下ごめんなさい。わたしがいけなかったの。勝手に庭園へ行ったから。だから誰も責めないでください、お願いします」
わたしは必死で謝った。
陛下はわたしを抱っこすると
「頬を冷やそう」
と言ってわたしを抱っこしたままどこかへ連れて行かれた。
お母様の方をチラッと見ると、わたしをキッと睨んでいた。家に帰ったらまたお説教があるんだろうなと思いながら今は抵抗できないので陛下に抱っこされて大人しくついて行った。
「おじさん、お花だけは転けてもちゃんと守ったよ」
おじさんの腕に抱かれていたけどダリアの花を見せると
「そうか、守ってくれてありがとう。おじさんの所為でケガをさせてすまなかった。この事で君のお母様に怒られないようにするからな」
「大丈夫。わたし怒られ慣れているから平気なの」
「そんなことに慣れてはだめだ」
おじさんはわたしの頭を優しく撫でてくれた。
その手はとても優しくてほんのりあったかくてわたしが一番好きな手になった。
そして陛下が治療してくれて、その後何故か陛下と王妃様とイーサン殿下とわたしでお茶会をした。
「お菓子を食べ損ねた」とボソッと呟いたのがいけなかった。
「待ってなさい」
陛下がそう言うとお茶とお菓子を用意をしてくれた。
一人で食べるのだと思ったら何故かみんながいた。
王妃様はとても綺麗で優しい。
笑顔が素敵な人だった。
イーサン殿下はわたしを見て何故かムスッとしていた。
「イーサンは恥ずかしがり屋なのよ」
と王妃様は言ったけど、照れていると言うよりただ機嫌が悪いだけに感じる。
そのあとは陛下がわたしにいろんなことを聞いた。
「計算とはどこまで出来るのだ?」
「うーん、紙とペン」
そう言っていつもやっていることを書いたら
「ほおお」
と感心してくれた。
嬉しくてついいっぱい披露してみせたら
「お前、何自慢してるの?そんなピンクの髪見たことない。恥ずかしくないの?」
「こら!やめなさいイーサン」
王妃様は慌てて止めようとしたけど
「お前みたいな奴嫌いだ!」
と言われたので、わたしもつい………
「大丈夫です、別にイーサン殿下に好かれたいなどと思っていませんから」
と淡々と言い返した。
「くくくっ」
「ふふふ」
と二人の笑い声が聞こえた。
それから二月後わたしはイーサン殿下の婚約者になった。
何故?
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