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58話

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背中の辺りを触ると手が真っ赤になっていた。

「……影さん……」
わたしはさっき考えていた影さんを何故か呼びながら意識を手放した。

「痛………」








「エリーゼ様!」

いつものようにエリーゼ様を影から見守っていた。

図書室で本を一人で選んでいるのを離れて見守っていた。

数人の生徒がエリーゼ様の近くで、話し出したがそれは他愛もない会話を楽しんでいるようだった。
どこにも殺気を感じることはなかった。

目を離してはいない。
なのに突然エリーゼ様は倒れた。

「……影さん……」
と俺を呼んだ。
俺のことを知っている訳ではないだろう。

でもその声は、あの地下牢にいた時によく俺に呼びかけてきた声だった。

俺はすぐに駆けつけて上衣を脱ぎ、傷口を押さえて口笛を鳴らした。

合図で仲間が数人駆けつけた。

エリーゼ様を刺した女子生徒の顔は覚えている。

エリーゼ様を頼むとすぐに俺はエリーゼ様を刺した女子生徒を追った。

あの顔はエリーゼ様の近くに偶に居たので覚えている。

だがどこから見ても普通の女の子だった。

エリーゼ様が「よく気持ち悪い視線を感じる」と言っていたが、そんな視線は何処にもなかった。

あの女子生徒は一体誰なんだ。

俺は廊下を急ぎ、彼女のあとを追った。

俺たち影は、人の匂いにも敏感だ。

エリーゼ様を刺した時についた血の匂いで、どこを歩いたかわかる。

「いた!」
俺は女子生徒を捕まえると床に押さえつけた。

周りの生徒達は俺の行動に驚き悲鳴を上げている。

女子生徒も「何をするんですか?」と、苦しそうに言った。

「何故、エリーゼ様を刺した?お前は何者だ?」

女子生徒は一瞬顔が悦に入ったが、すぐにか弱い女子生徒の顔に戻った。

「何を言っているのかわかりません、離してください」
女子生徒は周りの人に同情を買うように悲しそうに声を震わせて俺に言った。

「どうしてこんな酷いことをするのですか?」

周りは
「やめてあげてください!」

「無抵抗なのに酷い」

などとうるさい。

俺は周りをひと睨みして無言の圧をかけた。

子ども達のうるさい声が止むと

「来い」
俺は女子生徒の両手を後ろで縛り、そのまま俺たちの控え室に連れて行った。

「ふふふふふふ、エリーゼ様はもうすぐ死ぬわ。あの毒は簡単に解毒出来ないもの」

女子生徒は狂ったように笑い出した。

「なんの毒だ!言え!」

俺は女子生徒の襟首の服を掴み、体を持ち上げた。

苦しさに悶えていても答えようとしない。

俺は床に投げ捨てて、1本ずつ指を折っていった。

「言え!」
ボキッ。

それでも返事をしない。

「言え!」
ボキッ。

「グッ……」
痛みで顔が歪んでいる。

「言え!次は3本纏めて折るぞ!」

俺たち三人は焦っていた。
毒が何かわからなければ解毒できない。何故刺されて毒まで塗られるのか?

「次は三本だ」

ボキッ、ボキッ!

「お願い、やめて、あーーー」
流石に痛みで暴れ回った。

「正直に言わなければ次は足を折る」

「……………」

女子生徒はそれでも黙っていた。

俺たちは右足首を左に思いっきり捻り
ボキッボキッ!

「ぎゃー、あーーーあの毒は蛇から取ったの。ここに残りがあるわ、だからやめて!」

俺たちはその毒を持ってエリーゼ様のところへ向かった。

エリーゼ様の出血は止まっていたが、体が震え顔色は白色になって呼吸が荒い。

俺たちが常に持っている蛇に効く解毒剤を飲ませた。

しばらく様子を見るしか今はない。

女子生徒は、そのまま公爵家の地下牢へ連れて行った。
女子生徒と一緒にいた生徒達も一旦拘束して、連行した。

エリーゼ様は少しずつ呼吸が楽になっていったが意識を取り戻すことは今のところなかった。

エリーゼ様を学園に置いていても治療のしようがないので、安定したところで王立病院へ運んだ。

解毒剤の効果は少しずつ効いてはいるらしい。

背中の傷は、深く内臓にも傷が入っていて、これからどうなるかわからない。

俺たち影と護衛が呼ばれた。

公爵の怒りは物凄く、俺たちは言い訳など出来るわけもないし、したいとも思わなかった。

刺した女子生徒は、マリーナ様の幼馴染だった。

右手の指全てと右足首の骨折で歩くこともできず、治療すらしないで地下牢に入れられている。

ユイナ・ミレーヌ男爵令嬢15歳。

どうしてエリーゼ様の命を狙ったのか。









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