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別ルート もう一つの話。クロード編。③

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それからのわたしは本当に恥ずかしいくらい、ドジで何をやってもうまくいかない。

歩いていると何故か壁にぶつかるし、階段は一段飛ばして降りて何度か転んでしまった。

いつもノア達が助けてくれたので何とか軽い怪我で済んでいるけど……

鞄は教室に忘れるし、テストは0点をとってしまった。

うわぁ………解答欄が全部ずれていた……

ユンとミリアもそんなわたしを心配してる授業が終わるたびに会いにきてくれた。

(ほんと、面倒臭い、手のかかる主人でごめんなさい)

わたしはシュンとなりながらも、自分の気持ちをコントロール出来なくて……

もう自分でもわかっている。

クロード殿下に会って、「好きです」と告白して思いっきり振られて仕舞えばいいんだと……

あれだけ拒否って今更なんだけど……それしか自分の気持ちに決着をつけられない。

でも会う機会なんてあるわけがない。

わたしは少しずつ冷静さを取り戻して何とか周りに迷惑かけないように過ごすことができるようになってきた。

そんな時、お父様がわたしに招待状を持ってきた。

「来月舞踏会があるんだが、エリーゼも16歳だ。
社交界デビューするのにちょうどいい。
たぶん君の友人達もその日にデビューする子も多いと思う、エリーゼはどうする?」

「わたしは……参加します」
貴族令嬢なのだからこれは義務と同じ。

どうせなら友人達と同じ時の方が楽しいし、安心して参加できる。

「まだエリーゼには婚約者がいない。パートナーはどうする?」

「………お兄様は駄目でしょうか?」
わたしの言葉に少し寂しそうにしたお父様。

「スコットに聞いてみよう。
ドレスはすでに頼んであるのであとは一度来て調整してもらおうと思っている……
それでもいいか?それとも急ぎ新しいのを作ってもいいのだが」

「わたしはドレスに興味はありませんので何でもいいです」

「エリーゼはそう言うと思っていた……では一度確認だけでもしておいてくれ」

「かしこまりました」

わたしはお父様に挨拶をして部屋を出た。

「舞踏会……懐かしいわ、前回の時はクロード殿下の婚約者として出席したわ…」

そしてしばらくしてクロード殿下は、マリーナ様とお付き合いを始めてわたしは冷たい目で見られるようになった。

わたしが牢屋に入れられた時、殿下とマリーナ様は嘲笑った。

そして、殿下はマリーナ様を抱き寄せて

「エリーゼ、お前など愛してもいない。愛しているのはマリーナだけだ。
お前はわたしの大事なマリーナを殺そうとした犯罪者だ」
と言って睨んで吐き捨てたのだ。

未だにあの時の辛い気持ちは忘れられない。

もうマリーナ様はいない。

それでもあの悪夢を何度も何度も繰り返し夢の中で見る。

わたしはいつも夜中に目を覚まして眠れなくなる。
それは巻き戻って10年経った今もつづく……

わたしは処刑された時のあの思いを未だに忘れられない。

お父様に見捨てられ婚約者のクロード殿下に裏切られて、それでも未だにお父様に少しでも愛情を求めてしまう、素直になれないくせに。

クロード殿下の情報を噂を探してしまう。


そして舞踏会当日。

お父様が用意してくれたドレスは、わたしの金髪の色を引き立ててくれるネイビーブルーのドレスだった。わたしの青い瞳にも近い、お父様が頑張って選んでくれたのだろう。

本人には「ありがとう」と素直に言えないけど目一杯笑顔でいようと思った。

鏡に映るドレスは、ネックラインがビスチェになっている。
プリンセスラインで後ろのレースがヒラヒラしていてとてもキュートだった。

あのお父様がよくこんな可愛いドレスを選んだなと想像しただけで面白くてつい吹き出してしまった。

重たい気分の中だが、このドレスはわたしの気分を少し盛り上げでくれた。

お兄様にエスコートされて王宮内で行われる初めての舞踏会へ社交界デビューをした。

まあ、二度目だけど。

家族で国王一家にご挨拶をして、わたしは友人達と一緒に過ごした。

カイラとエレン、ノアやセスとダニー、いつものメンバーと一緒にいると安心する。

わたし達がジュースを飲みながら談笑していると、大きなざわめきが聞こえてきた。

その声を追いかけて振り向くとそこにはクロード殿下と見知らぬ女の子が手を繋いで歩いていた。

(あー、とうとうこの日が来たのね、彼の婚約者なのだろう)

わたしは動揺を隠すように笑顔で二人の歩く姿を見た。

わたしは何も気にしていない。

貴方のことなんか何とも思っていないの。

彼らが通り過ぎるまでわたしは目を逸らさず逃げないように笑顔を貼り付けてグッと我慢した。

全ては自分が蒔いた種。
彼を否定したのはわたし自身。

「エリーゼ、涙が……」
ノアがわたしの肩をそっと抱きしめて、外のベランダへ連れ出そうとしてくれた。

そう、わたしは笑顔で二人を見送っていたはずなのに泣いていたのだ。
自分では全く気が付いていなかった。

わたしはノアと、クロード殿下から離れようと彼に背を向けた。





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