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49話
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お父様の体調が落ち着いてきたら帰ることを両親に伝えた。
「そう…帰るのね、オリエの家はここでもあるのよ。いつでも帰ってきてね」
お母様はわたしを引き止めようとはしなかった。
お父様も「そうか」としか言わなかった。
この国にいる間は、騎士団のみんなと共に鍛錬に励み体力作りだけは欠かさなかった。
あれから陛下たちから何か言ってくることはなくなった。
わたしにこの国に留まって欲しいみたいだが、貴族としての生活を捨てたわたしにはこの国はとても窮屈だった。
「お兄様、次帰ってくるのはお兄様の結婚式になると思います」
わたしが笑顔で言うとお兄様も「あと半年後だ。楽しみに待っているよ」と言ってくれた。
カイさんが結局迎えにきてくれたのは、陛下に謁見してから20日後だった。
「遅くなって悪かった。こっちで色々してたら時間が経ってしまった。さあ、帰ろうか」
久しぶりに会うカイさんにホッとした。
彼はわたしの新しい家族。
メルーさんとマーラちゃんの待つ、オリソン国へやっと帰れる。
「またきます!」
みんなと笑顔で別れてわたしの家に帰る。
◇ ◇ ◇
父上達と話したが、俺はもうこれ以上この国で暮らすことは無理だと結論付けた。
オリエの件だけではない。
不正をここまで蔓延らせたのは父上が国王になってからだった。
高位貴族達は王族に対して脅威すら感じていない。
好き放題にさせて貴族の力はますます強くなってきている。
それにより国民の生活は困窮している。
他の国よりも大きな国土を持つ。全てに目を光らせるのは大変なことではあるが、それにしてもかなり酷いことになっている。
完全に貴族達を粛清して、新しい国を作るのに数年はかかる。
俺はある程度まで基礎を作り上げてきた。
二年間他所で文官をしていたが、ブライスとは連絡を取り合っていたし、従兄弟たちとも話し合いはしていた。みんな下準備だけはしっかりしていた。
俺がいない間、俺が帰るのを待ってくれていた。
そして俺がいない間、貴族達はさらに悪どいことをしていた。それを見逃すのは悔しいが、その分証拠が増えて彼らを徹底的に粛清できる。
俺の側近達は証拠固めに動いてくれていたのだ。
国に帰り一度はこの国に骨を埋めるつもりでいたが、俺は王位継承権を放棄するつもりだ。そして父上にも国王の地位を退位してもらうつもりでいる。
反乱とまではいかないが、新しい国作りに何もできない古い王の血は要らない。これからは国民が選んだ者がこの国を統治していくべきだ。
その形づくりに奮闘した。
さすがに半年、一年では終わらない。それでも俺は二年間と決めて動いた。
そして、父上達を退位させることに成功したのは俺が継承権を放棄すると決めてから一年後だった。
のらりくらりと逃げて王位にしがみつく父上に、新しい閣僚達と貴族院が退位を促した。
「陛下、自ら退位することを求めます、辞めさせられて惨めに余生を過ごすよりも勇退を選ばれる方がよろしいのでは?」
貴族院の者達からの言葉に父上は唇を噛み悔しそうにしていたが、自分が行ってきた治世があまりにも乱れ混乱を招いたことを認め「わかった退位しよう」と、やっと言った。
ーー長かった。
父上は、母上と二人で古くから持っている領地に移り住むことになる。贅沢さえしなければゆっくりとのんびり暮らしていける。
緑に囲まれた自然豊かな場所だ。
俺は父上の退位の後、国の文官や貴族達を集め投票で国の代表を決めた。
もちろん俺は立候補しなかった。
「俺は王位継承権を放棄します。ただすぐに辞めるわけにはいかないので次のこの国の代表者に引き継ぐまでは残りたいと思います」
そしてその言葉通り、俺は次の代表者として選ばれた俺の従兄弟のバーナードに引き継いでからアルク国へと戻った。
予定より半年ほど早くに国を出た。
また文官として働かせてもらうことになった。
「イアン、久しぶりだな」
アルク国の国王は俺をみてニヤッと笑った。
何も聞いてこない、全て耳に入っているのだろう。
「この国では平民でしかないイアンとしてまた一から始めたいと思います」
「まあ、それもいいかもしれないが、お前の実力をそのままヒラの文官として使うにはもったいない。せめて男爵の地位だけでも受け取ってくれ。そして俺の側近として這い上がってきてくれないか?」
この時俺はもうすぐ27歳。
オリエと別れてから約5年が過ぎていた。
再婚もせず気がつけば無我夢中で走り続けてきた。
アルク国で、まだまだやり残したことは多かった。俺はこの王の元でこれからを過ごして行きたいと思った。
そして平民から男爵となった。
ただ、領地すら持たない名前だけの男爵に。
しっかりこき使われる側近として。
「そう…帰るのね、オリエの家はここでもあるのよ。いつでも帰ってきてね」
お母様はわたしを引き止めようとはしなかった。
お父様も「そうか」としか言わなかった。
この国にいる間は、騎士団のみんなと共に鍛錬に励み体力作りだけは欠かさなかった。
あれから陛下たちから何か言ってくることはなくなった。
わたしにこの国に留まって欲しいみたいだが、貴族としての生活を捨てたわたしにはこの国はとても窮屈だった。
「お兄様、次帰ってくるのはお兄様の結婚式になると思います」
わたしが笑顔で言うとお兄様も「あと半年後だ。楽しみに待っているよ」と言ってくれた。
カイさんが結局迎えにきてくれたのは、陛下に謁見してから20日後だった。
「遅くなって悪かった。こっちで色々してたら時間が経ってしまった。さあ、帰ろうか」
久しぶりに会うカイさんにホッとした。
彼はわたしの新しい家族。
メルーさんとマーラちゃんの待つ、オリソン国へやっと帰れる。
「またきます!」
みんなと笑顔で別れてわたしの家に帰る。
◇ ◇ ◇
父上達と話したが、俺はもうこれ以上この国で暮らすことは無理だと結論付けた。
オリエの件だけではない。
不正をここまで蔓延らせたのは父上が国王になってからだった。
高位貴族達は王族に対して脅威すら感じていない。
好き放題にさせて貴族の力はますます強くなってきている。
それにより国民の生活は困窮している。
他の国よりも大きな国土を持つ。全てに目を光らせるのは大変なことではあるが、それにしてもかなり酷いことになっている。
完全に貴族達を粛清して、新しい国を作るのに数年はかかる。
俺はある程度まで基礎を作り上げてきた。
二年間他所で文官をしていたが、ブライスとは連絡を取り合っていたし、従兄弟たちとも話し合いはしていた。みんな下準備だけはしっかりしていた。
俺がいない間、俺が帰るのを待ってくれていた。
そして俺がいない間、貴族達はさらに悪どいことをしていた。それを見逃すのは悔しいが、その分証拠が増えて彼らを徹底的に粛清できる。
俺の側近達は証拠固めに動いてくれていたのだ。
国に帰り一度はこの国に骨を埋めるつもりでいたが、俺は王位継承権を放棄するつもりだ。そして父上にも国王の地位を退位してもらうつもりでいる。
反乱とまではいかないが、新しい国作りに何もできない古い王の血は要らない。これからは国民が選んだ者がこの国を統治していくべきだ。
その形づくりに奮闘した。
さすがに半年、一年では終わらない。それでも俺は二年間と決めて動いた。
そして、父上達を退位させることに成功したのは俺が継承権を放棄すると決めてから一年後だった。
のらりくらりと逃げて王位にしがみつく父上に、新しい閣僚達と貴族院が退位を促した。
「陛下、自ら退位することを求めます、辞めさせられて惨めに余生を過ごすよりも勇退を選ばれる方がよろしいのでは?」
貴族院の者達からの言葉に父上は唇を噛み悔しそうにしていたが、自分が行ってきた治世があまりにも乱れ混乱を招いたことを認め「わかった退位しよう」と、やっと言った。
ーー長かった。
父上は、母上と二人で古くから持っている領地に移り住むことになる。贅沢さえしなければゆっくりとのんびり暮らしていける。
緑に囲まれた自然豊かな場所だ。
俺は父上の退位の後、国の文官や貴族達を集め投票で国の代表を決めた。
もちろん俺は立候補しなかった。
「俺は王位継承権を放棄します。ただすぐに辞めるわけにはいかないので次のこの国の代表者に引き継ぐまでは残りたいと思います」
そしてその言葉通り、俺は次の代表者として選ばれた俺の従兄弟のバーナードに引き継いでからアルク国へと戻った。
予定より半年ほど早くに国を出た。
また文官として働かせてもらうことになった。
「イアン、久しぶりだな」
アルク国の国王は俺をみてニヤッと笑った。
何も聞いてこない、全て耳に入っているのだろう。
「この国では平民でしかないイアンとしてまた一から始めたいと思います」
「まあ、それもいいかもしれないが、お前の実力をそのままヒラの文官として使うにはもったいない。せめて男爵の地位だけでも受け取ってくれ。そして俺の側近として這い上がってきてくれないか?」
この時俺はもうすぐ27歳。
オリエと別れてから約5年が過ぎていた。
再婚もせず気がつけば無我夢中で走り続けてきた。
アルク国で、まだまだやり残したことは多かった。俺はこの王の元でこれからを過ごして行きたいと思った。
そして平民から男爵となった。
ただ、領地すら持たない名前だけの男爵に。
しっかりこき使われる側近として。
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