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もう一度向き合う勇気。

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 夕焼けがきれいだった。

 雨上がりの空はとため空気が澄んでいて重たくなっていた気持ちもスーッと軽くなった。

 子供の頃から意地を張っていた気持ちが少し軽くなった。

 ライオネル様の優しさがグッと中に入ってきてなんとも温かい気持ちになった。

「一緒に食事でもしませんか?」
 ライオネル様の誘いに笑顔で

「またの機会に」とお断りをした。

 二人で食事をするということは誘いを受けて了承したと勘違いされては困るもの。



 寮に戻り食堂で夕食を食べて部屋に帰るとすぐにスティーブ様に手紙を書いた。

 なんて書いたらいいのかしら?

 よく考えたらお互いまともに手紙のやり取りもしていなかった。いつもお互いツンツンしていたもの。離縁して今更何を話したらいいのかわからないけど、話さないと前に進めない。

 彼も多分わたしと同じ。同じところで立ち止まっているから周りが心配してわたしに一度会って欲しいと頼んできたのだと思う。
 頼まれたわたしだって前に進めないでいるんだからどうしようもないわよね。

 スティーブ様にお手紙を出して返事が来たのは……直接だった。
 仕事中ひょっこりと顔を出して

「……セレン、話があると手紙が来た……」

 なんとも無愛想な話し方にわたしは何故か緊張が解けて笑ってしまった。

「はい、スティーブ様と話したいと思っています」

「……そうか……休みを合わせられそうなら…」

「そうですね、では……」






 離縁して三年が過ぎて初めてきちんと話をすることになった。

 場所は、街の外れにある公園。

 ベンチに座り……

「今までの態度本当にすまなかった。セレンは何も悪くない。俺はずっと謝らないといけないのに素直に慣れなかった」

「ほんと、そうですよ。貴方のおかげでわたし素直になること忘れてしまいました。ずっと意地はって生きてきましたもの。だけど……今はよかったかな。おかげで癒しの魔法も習得出来たし、一人でも生きていけるようになりました」

「イザベラのことで辛い思いをさせてしまった。俺の所為で屋敷も火事にあったし、結婚の間もずっと嫌な思いをさせてしまった」

「思い出すことは全て嫌なことばかりでした。なんでこんな結婚をしたのだろうと何度思ったことか……」

「すまない……俺は何も言い訳なんてできない。君を苦しめることしか出来なかった。ずっと後悔していた。だけど謝ることで許してもらおうとは思っていない」

「あの……もしかして謝罪のつもりで公爵の跡取りを辞退したのですか?」

「それもある。だがエディは優秀だ。あいつに任せるのが一番いいと思ったのも確かだ。俺はもう二度と結婚するつもりはないし、元々剣術が好きで騎士になりたいとずっと思っていた。それに俺には上に立つだけの素質もない」

 昼間の公園には子供を連れた家族が楽しそうに遊んでいた。
 手を繋ぎ母親の顔に下から必死で話しかける可愛い男の子。
 今にも駆け出しそうにしている小さな男の子を抱き抱えて「ダメだよ」と言いながらあやす父親。

 シートを敷いてお弁当を食べている家族や仲睦まじく歩いている恋人同士の二人。

 わたしとスティーブ様は周りから見ればどんな風に思われているのだろう。

 お互い謝りながら腹を割ってそれぞれの想いを話している。

 そしてそこにはお互い愛情があったのだと。

「俺は初めて会った時、君に一目惚れしていた。だけど会った瞬間喧嘩してしまってそれから素直に好きだと言えなくて……だけど婚約出来て嬉しかった。君が領地の学校入ってしまった時はショックだった。戻ってきたら優しくしよう、仲良くしよう、そう思っていたのに……イザベラに君と仲良くするなら君を殺してしまうと脅されて何も出来なくなった。あの時きちんと親に伝えて対処すればよかったのに……愚かな俺は君に今までと同じ態度で居れば守れるんだと勝手に納得したんだ。
 多分もう素直な態度を取ることが出来なくなっていたんだ」


「イザベラ様が好きならさっさとスティーブ様の妻の座を渡してしまおうとずっと思っていました。愛されていないのなら逃げてしまおうと思っていました。貴方に愛されようと努力すらしたことはなかったわ」

「君に命を助けられて一年以上寝込みやっと元に戻って今生きている。だけどその所為で君の命を危険に晒してしまった。こんな俺の命を救ってくれてありがとう」

「わたしあの火傷の人が貴方だって知らなかったわ。だから感謝も謝罪も要らないわ。もちろん貴方だとわかっても助けていたわよ?」

「そうか知らずに助けてくれたんだね。俺はこれから助けてもらったこの命を大切にするつもりだ……君と話せて良かった……俺は王都を出て辺境地の騎士として働くことになった」

「どうしてそんな危ないところに?」

「王都は今の所治安も落ち着いている。辺境地は今も隣国の悪い輩がこちらの国に逃げ込んだり悪さをするつもりで入り込もうとしている。俺はのんびりと護衛をするより体を張ってでも人々を守りたい」

「………やっと話せる友人になれると思ったのに……」

 お互い幼馴染で仲は悪くても彼の良いところは知っていた。
 真面目だし優秀だし、冷たく見えるけど困っている人には優しい。

 元々冷たいのはわたしに対してだけだった。わたしがもっとスティーブ様と上手に関係を維持できていれば彼は今頃公爵当主になっていたかもしれない。

 彼の人生を狂わせたのはわたしだったのかも……

「セレン、絶対自分を責めてるだろう?違うからね?俺は騎士になりたかった。夢を叶えられて幸せなんだ。そしてやっと君と話せて俺の憂いは全てなくなった。
 君と話せる時間をくれてありがとう」

 ベンチから立つと彼はわたしに手を差し出した。彼の綺麗だった手は騎士らしくゴツゴツした手になっていた。

 その手をわたしは握り彼の体に癒しの魔法をかけた。

「えっ?」驚いた顔をしたので

「貴方が辺境地に行っても大きな怪我をしないように体に保護魔法をかけました。たまには王都に戻ってきて下さい。その度にかけるから」

わたしは静かに微笑んだ。

「どうか新しい幸せを見つけてください。わたしもやっと前に進めます」

ーー貴方が好きでした。

この言葉はわたしの心の中にしまっておこう。

こうして彼と本当のさよならをした。






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