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第八話 悪女はどちらかしら
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「お兄様はどちらからそのお話を聞いてきたんですか?」
「マルスに訊かれたんだよ! 俺も初耳だったんだけれど」
「……お父様、本当に私が婚約破棄されてたことを、誰にも黙っててくれていたのですね」
のんびりと私が言うと、え?そうなの?と兄が慌てている。
「父様には話してて、なんで俺に教えてくれなかったんだよ。母様は知ってるのか?! しかも、セリス殿下が男爵令嬢と恋仲で、彼女が王太子妃になるってのは……」
「そちらも本当ですよ。あとお母様は多分ご存知ないでしょう」
マルスというのはお兄様とお友達の、ティモシー侯爵の長男のお名前だったような。兄の友人で何度か家にまでお越しいただいたような気もするが家名と名前くらいしかわからず、人となりはさっぱり覚えていない
まず市井の方から噂が流れるように操作をしたのだけれど、もう貴族の方にも話しが伝わったのか。
我が家のメイドに命じて下流貴族の家のメイドに話すようには仕向けていたけれど、ティモシー侯爵の家に繋がりのあるメイドはいないはずだから、あっという間に伝播したと思った方がよさそうだ。
噂が流れるのが思ったより順調のようだ。
元々貴族社会は噂が流れるのが早いし、いい意味でも悪い意味でも有名人である私とエレーナ嬢が話の中心なのだから、話題性はばっちりだったのだろう。
セリス様とエレーナ様のことが、遅かれ早かれ噂になるだろうことは、セリス様から二人の出会いを伺ったあの日から見えていた。
二人の最初の出会いだったという森での狩猟。
狩猟は危険なので一人では行われない。二人の出会いには目撃者がいたはずなのだ。
セリス様とエレーナ嬢の関係が流れ始めた頃、ダリオ男爵に経済的な制裁を与えると同時に、こちらからも用意をしていた噂を流し始めた。
セリス殿下は心変わりをされて、あんなに仲がよろしかったラナ公爵令嬢を捨てて王太子妃にエレーナ男爵令嬢を迎えるようだ。
エレーナ男爵令嬢は王太子妃の座を狙っていて、ラナ公爵令嬢を追い落とそうとしている悪女である。
ダリオ男爵家はエレーナ男爵令嬢のセリス殿下からの寵愛を受けていることを嵩に、ガリータ公爵にも失礼なことをしている。
心労がたたりラナ公爵令嬢は今、家に引きこもって病に伏せっているようだ……などなど。
徹底してラナ公爵令嬢可哀想、セリス様がひどい、というところをとにかくアピールしている。
一度流れた噂を押さえることはできないし、それなら逆に利用して世論をこちらに味方をつければいい。
エレーナ様の評判よりむしろ、セリス様の評判を徹底的に落とすのが目的だ。
ヒントはクロード様が既に与えてくれていたから、大物を釣り上げるために餌を撒く。
この餌に食いつかせるターゲットはただ一人だけ。
それを待つために、罠を仕掛けていくのだ。
まったく……。
エレーナ嬢を悪女としているけれど、悪女はいったいどちらなのだろうと我ながら思ってしまう。
しかし、権力だけでなく言葉の力も含めて、力は使うべき時に使わないと意味がないのだ。
「マルスに訊かれたんだよ! 俺も初耳だったんだけれど」
「……お父様、本当に私が婚約破棄されてたことを、誰にも黙っててくれていたのですね」
のんびりと私が言うと、え?そうなの?と兄が慌てている。
「父様には話してて、なんで俺に教えてくれなかったんだよ。母様は知ってるのか?! しかも、セリス殿下が男爵令嬢と恋仲で、彼女が王太子妃になるってのは……」
「そちらも本当ですよ。あとお母様は多分ご存知ないでしょう」
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我が家のメイドに命じて下流貴族の家のメイドに話すようには仕向けていたけれど、ティモシー侯爵の家に繋がりのあるメイドはいないはずだから、あっという間に伝播したと思った方がよさそうだ。
噂が流れるのが思ったより順調のようだ。
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セリス様とエレーナ様のことが、遅かれ早かれ噂になるだろうことは、セリス様から二人の出会いを伺ったあの日から見えていた。
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セリス様とエレーナ嬢の関係が流れ始めた頃、ダリオ男爵に経済的な制裁を与えると同時に、こちらからも用意をしていた噂を流し始めた。
セリス殿下は心変わりをされて、あんなに仲がよろしかったラナ公爵令嬢を捨てて王太子妃にエレーナ男爵令嬢を迎えるようだ。
エレーナ男爵令嬢は王太子妃の座を狙っていて、ラナ公爵令嬢を追い落とそうとしている悪女である。
ダリオ男爵家はエレーナ男爵令嬢のセリス殿下からの寵愛を受けていることを嵩に、ガリータ公爵にも失礼なことをしている。
心労がたたりラナ公爵令嬢は今、家に引きこもって病に伏せっているようだ……などなど。
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それを待つために、罠を仕掛けていくのだ。
まったく……。
エレーナ嬢を悪女としているけれど、悪女はいったいどちらなのだろうと我ながら思ってしまう。
しかし、権力だけでなく言葉の力も含めて、力は使うべき時に使わないと意味がないのだ。
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