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11 風雪
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その時、珍しくアナウンスが入った。
「本日もルーチェにお越しいただきありがとうございます、ホームページでもご案内いたしました通り、ドルフィン・ファイブのショーは本日休憩時間を合わせて50分で上演いたします」
周りを見ると、客席は3分の2ほどまで埋まっていた。皆事情を理解して来ているのだろう、疑問を差し挟む声も上がらない。
「また誠に勝手ながら本日23時がラストオーダー、23時30分が閉店時間となります」
美智生は肩を竦めた。
「あまり飲むなってことだ、雪が降って来たら足許も危ないからな」
「明日土曜日で良かったですよね」
ほんとに、と美智生が言うと、ビールがやって来た。ウィンナーに触発された感じがあった。
定刻にテーブル側の照明が落ち、小さな舞台が眩しくなった。オルゴールとピアノで音楽が始まり、上手と下手の両方から、黒いシンプルな衣装の男たちが、静かに登場する。
雪の降りそうな夜に相応しい、良く知られた恋のバラードに乗せて、彼らは初々しい愛を踊りで表現していく。
曲も客席も落ち着いているからか、あるいは初めての位置から観るせいか、晴也は5人のダンサーの個性を改めてじっくり味わうことができた。下手側が定位置のタケルとマキの姿も、この席ならよく見えた。ユウヤのように力のある踊り方をするタケルだが、音楽に動きがぴったりで、決めのポーズが美しく渋い。マキはサトルよりもやんちゃな若々しさに溢れていて、しっとりしたバラードの中の戸惑いや喜びをわかりやすく見せてくれる。
しかしこういう曲でこそ、少なくとも晴也にとっては、ショウの表現力が遺憾無く発揮され、目を奪われるように思えた。指先まで神経の行き届いた長い腕が語る。人が近づき愛し合うのは、楽しいことばかりではない。切なく、不安や苦さも沢山ある。それでも雪の降る夜に、愛する人を想い、その人と共にいること自体が、しあわせで愛おしい――。
晴也は涙を堪えた。こんな風に感じてしまう自分が煩わしく、愛おしい。こんな気持ちを自分に教えた晶が腹立たしく、……愛おしい。
店内を暖かく大きな拍手が包んだ。メンバーが揃って頭を下げると、ユウヤはマイクを手にした。1曲目が今夜によく合って良かったと話してから、いつもより手早くメンバーを紹介した。
「本日このような天候の中お越しくださった皆様に心より感謝申し上げます、上演時間は短くなりますが、皆様が温かくなって帰っていただけますよう、一同今夜も頑張ります!」
再度拍手が起き、ユウヤが下手に引っ込むなり音楽が始まる。上手カウンター席の2人は、興奮したように言葉を交わし合っていた。それを見た晴也は、何にせよショウたちが評価されるのは素晴らしいことだと思った。
「本日もルーチェにお越しいただきありがとうございます、ホームページでもご案内いたしました通り、ドルフィン・ファイブのショーは本日休憩時間を合わせて50分で上演いたします」
周りを見ると、客席は3分の2ほどまで埋まっていた。皆事情を理解して来ているのだろう、疑問を差し挟む声も上がらない。
「また誠に勝手ながら本日23時がラストオーダー、23時30分が閉店時間となります」
美智生は肩を竦めた。
「あまり飲むなってことだ、雪が降って来たら足許も危ないからな」
「明日土曜日で良かったですよね」
ほんとに、と美智生が言うと、ビールがやって来た。ウィンナーに触発された感じがあった。
定刻にテーブル側の照明が落ち、小さな舞台が眩しくなった。オルゴールとピアノで音楽が始まり、上手と下手の両方から、黒いシンプルな衣装の男たちが、静かに登場する。
雪の降りそうな夜に相応しい、良く知られた恋のバラードに乗せて、彼らは初々しい愛を踊りで表現していく。
曲も客席も落ち着いているからか、あるいは初めての位置から観るせいか、晴也は5人のダンサーの個性を改めてじっくり味わうことができた。下手側が定位置のタケルとマキの姿も、この席ならよく見えた。ユウヤのように力のある踊り方をするタケルだが、音楽に動きがぴったりで、決めのポーズが美しく渋い。マキはサトルよりもやんちゃな若々しさに溢れていて、しっとりしたバラードの中の戸惑いや喜びをわかりやすく見せてくれる。
しかしこういう曲でこそ、少なくとも晴也にとっては、ショウの表現力が遺憾無く発揮され、目を奪われるように思えた。指先まで神経の行き届いた長い腕が語る。人が近づき愛し合うのは、楽しいことばかりではない。切なく、不安や苦さも沢山ある。それでも雪の降る夜に、愛する人を想い、その人と共にいること自体が、しあわせで愛おしい――。
晴也は涙を堪えた。こんな風に感じてしまう自分が煩わしく、愛おしい。こんな気持ちを自分に教えた晶が腹立たしく、……愛おしい。
店内を暖かく大きな拍手が包んだ。メンバーが揃って頭を下げると、ユウヤはマイクを手にした。1曲目が今夜によく合って良かったと話してから、いつもより手早くメンバーを紹介した。
「本日このような天候の中お越しくださった皆様に心より感謝申し上げます、上演時間は短くなりますが、皆様が温かくなって帰っていただけますよう、一同今夜も頑張ります!」
再度拍手が起き、ユウヤが下手に引っ込むなり音楽が始まる。上手カウンター席の2人は、興奮したように言葉を交わし合っていた。それを見た晴也は、何にせよショウたちが評価されるのは素晴らしいことだと思った。
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