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後日談
14 俺はこのソファーで寝ます
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紅茶を飲みかけていたアーネストが、ぶはっと吹き出した。
「なん、だと?」
「ほら、傷も治ったし数日前から医務室を出て、お二人の居室で生活していらっしゃるじゃないですか。その時に……」
***クリスかく語りき***
「俺はこのソファーで寝ます」
「グリフィス。一緒に寝ましょう? そのほうが記憶もきっと、早く戻るわ」
「だけど……」
「大丈夫よ? 襲ったりしないから」
「それは当然です! クリスこそ用心しないと!…お、俺も…男ですから……」
クリスは思わず吹き出しそうになる。
(もう、何て可愛いのかしら……!)
キュンキュンしながら、グリフィスに再度ベッドをすすめた。
「さぁ、明日も早いのだから、もう寝ましょう?」
赤くなってこくこくと頷き、ベッドに入るグリフィス。
「グリフィス、そんな端に寝たら落ちてしまうわよ?」
「………これでいいんです」
「だめよ」
クリスがグリフィスを引き寄せようと、白魚のような指を伸ばして、彼の肩に触れた。
「わっ、!」
ズザッと後ずさり、見事にベッドから落ちるグリフィス。
「大丈夫!?」
「大丈夫です!」
「って、ベッドに這いあがってきたグリフィス様が鼻血を出していたっていう」
「何だそれ? ウケる」
「その鼻血は顔面を打ったからか? それとも…、いやいい。もう、皆上がろう」
時が流れるのは早いもので、グリフィスが記憶を失ってから6か月が経過した。残念ながら記憶はまだ戻っていないし、敬語もそのままである。しかし為政者としてのポジションに慣れ、周囲の人達とも打ち解けて、グリフィスは今の環境に随分と適応した。
「グリフィス様、脚立を持って参りますから」
「いや、いいです。俺が、手を伸ばせば届く位置です」
「はいそうですね――ではなくて、書類や書物が乱雑に突っ込んでありますから、あっ!」
アーネストが注意するよりも早く、グリフィスが書棚上部の戸を開けた。途端に詰め込んであった書類や書物が埃と共に、グリフィスの上にバサバサと落ちてくる。ゴンっと鈍い音がした。
「痛ぅ!」
「大丈夫ですか!?」
頭を抱えたグリフィスがその場にしゃがみこんだ。アーネストがすぐに跪き、グリフィスの顔を覗き込む。
「グリフィス様?」
「………」
頭を抱えたまま反応のないグリフィスに、不安を覚えたアーネストが、レオナルドに振り向きざま指示を出した。
「至急ドクターを呼んでくるんだ!」
「はい!」
「いや、待ってくれ……大丈夫だ……」
「大丈夫には見えませんが…」
グリフィスが被った埃を手で払いながら立ち上がったところで、コンコン、とノックの音がした。
「クリス様ですね、どうぞ」
アーネストの返事の後に、扉を開けて入ってきたクリスが、グリフィスに笑顔を向けた。
「グリフィス」
「ちょうどいい。帰りに医務室に寄られてはいかがですか?」
「何かあったの?」
顔色を変えて歩み寄ってきたクリスに、グリフィスが微笑む。
「大丈夫。落ちてきた本が頭に当たっただけ……です」
「ハードカバーでしたからな」
「心配だわ、医務室に寄りましょう?」
「いいえ、大丈夫です」
「でも、…」
「本当に大した事ないんです。クリス」
グリフィスは安心させるように、クリスの両肩に手を置いて頬に優しくキスをする。
「じゃあ、部屋に戻ってゆっくり休みましょう……でも何かあったらすぐに言ってね? ドクターを呼ぶから」
”大した事ない”と言われても、クリスはまだ心配そうだ。
「はい、分かりました」
クリスの肩に手を回し、ぽんぽんと軽くたたいてから扉へとエスコートする。
「……ディナーは貴方の好きな雉のパイ包み焼きよ」
「それは、嬉しいですね」
寄り添って出て行く二人の後姿を、アーネストがじいっと見つめている。デイヴィッドが不思議そうな顔をした。
「どうした? アーネスト」
「あ、……いえ、何でもありません。多分気のせいでしょう……」
「なん、だと?」
「ほら、傷も治ったし数日前から医務室を出て、お二人の居室で生活していらっしゃるじゃないですか。その時に……」
***クリスかく語りき***
「俺はこのソファーで寝ます」
「グリフィス。一緒に寝ましょう? そのほうが記憶もきっと、早く戻るわ」
「だけど……」
「大丈夫よ? 襲ったりしないから」
「それは当然です! クリスこそ用心しないと!…お、俺も…男ですから……」
クリスは思わず吹き出しそうになる。
(もう、何て可愛いのかしら……!)
キュンキュンしながら、グリフィスに再度ベッドをすすめた。
「さぁ、明日も早いのだから、もう寝ましょう?」
赤くなってこくこくと頷き、ベッドに入るグリフィス。
「グリフィス、そんな端に寝たら落ちてしまうわよ?」
「………これでいいんです」
「だめよ」
クリスがグリフィスを引き寄せようと、白魚のような指を伸ばして、彼の肩に触れた。
「わっ、!」
ズザッと後ずさり、見事にベッドから落ちるグリフィス。
「大丈夫!?」
「大丈夫です!」
「って、ベッドに這いあがってきたグリフィス様が鼻血を出していたっていう」
「何だそれ? ウケる」
「その鼻血は顔面を打ったからか? それとも…、いやいい。もう、皆上がろう」
時が流れるのは早いもので、グリフィスが記憶を失ってから6か月が経過した。残念ながら記憶はまだ戻っていないし、敬語もそのままである。しかし為政者としてのポジションに慣れ、周囲の人達とも打ち解けて、グリフィスは今の環境に随分と適応した。
「グリフィス様、脚立を持って参りますから」
「いや、いいです。俺が、手を伸ばせば届く位置です」
「はいそうですね――ではなくて、書類や書物が乱雑に突っ込んでありますから、あっ!」
アーネストが注意するよりも早く、グリフィスが書棚上部の戸を開けた。途端に詰め込んであった書類や書物が埃と共に、グリフィスの上にバサバサと落ちてくる。ゴンっと鈍い音がした。
「痛ぅ!」
「大丈夫ですか!?」
頭を抱えたグリフィスがその場にしゃがみこんだ。アーネストがすぐに跪き、グリフィスの顔を覗き込む。
「グリフィス様?」
「………」
頭を抱えたまま反応のないグリフィスに、不安を覚えたアーネストが、レオナルドに振り向きざま指示を出した。
「至急ドクターを呼んでくるんだ!」
「はい!」
「いや、待ってくれ……大丈夫だ……」
「大丈夫には見えませんが…」
グリフィスが被った埃を手で払いながら立ち上がったところで、コンコン、とノックの音がした。
「クリス様ですね、どうぞ」
アーネストの返事の後に、扉を開けて入ってきたクリスが、グリフィスに笑顔を向けた。
「グリフィス」
「ちょうどいい。帰りに医務室に寄られてはいかがですか?」
「何かあったの?」
顔色を変えて歩み寄ってきたクリスに、グリフィスが微笑む。
「大丈夫。落ちてきた本が頭に当たっただけ……です」
「ハードカバーでしたからな」
「心配だわ、医務室に寄りましょう?」
「いいえ、大丈夫です」
「でも、…」
「本当に大した事ないんです。クリス」
グリフィスは安心させるように、クリスの両肩に手を置いて頬に優しくキスをする。
「じゃあ、部屋に戻ってゆっくり休みましょう……でも何かあったらすぐに言ってね? ドクターを呼ぶから」
”大した事ない”と言われても、クリスはまだ心配そうだ。
「はい、分かりました」
クリスの肩に手を回し、ぽんぽんと軽くたたいてから扉へとエスコートする。
「……ディナーは貴方の好きな雉のパイ包み焼きよ」
「それは、嬉しいですね」
寄り添って出て行く二人の後姿を、アーネストがじいっと見つめている。デイヴィッドが不思議そうな顔をした。
「どうした? アーネスト」
「あ、……いえ、何でもありません。多分気のせいでしょう……」
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