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父親が横領の罪で捕まらなかったIFバージョン
第11話 新人対抗御前試合
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そんなこんなで、入団してから3か月が過ぎた。
新人たちは、とりあえずの区切りとして、この3か月を乗り切る事を目標としている。
それは新人が入団してから3か月の時点で、団対抗の新人御前試合が開催されるからだ。
この試合では、各団から新人を5人ずつ出し、その実力を競わせる。
国中の貴族や裕福な商人などが見に来て、お祭り騒ぎになる。
騎士のお披露目といったところだ。
このお披露目会が終わった後、各団長に一人前と認められた者から、徐々に新兵が任務に駆り出されていくようになる。
この御前試合、当然騎士学校の卒業生が優勝するかと思えば、そうでもないらしい。
騎士学校では、学科や貴族のマナーまで学ぶのに対し、従騎士や募集試験を通過してきた騎士達は、実戦経験がある。
毎年、どちらが勝つのか、誰が勝つのかで、社交界の話題は持ちきりになる。
今年の注目はもちろん、騎士学校卒業の『白薔薇の騎士』ユージーン(誰が呼び始めるのか、人気の騎士にはなぜか二つ名がつく)。そして、ユージーンを抑えて騎士学校首席を獲得したという『赤薔薇の君』、イルゼだ。
騎士学校の卒業生は大抵メンバーに選ばれるので、試合会場には、見知った顔がいくつもあった。
訓練場は王都や郊外に散らばっており、王宮内の訓練場で訓練をするのは第1、第2騎士団のみなので、久しぶりに見る顔が多い。
「おい見ろ、今年は国王夫妻がおいでになっているぞ。」
イルゼ達が逸る心を落ち着かせて待機していると、開始直前になって、会場内が静かに騒めき始めた。
王族が観戦にくるのも珍しくはないが、国王夫妻が揃って見に来るのはとても珍しい。
ロイヤル席を見上げると、国民から密かに怖そう、偉そうだと敬遠されている王様と、その隣でホワホワニコニコと微笑んでいるタンポポの花のような可愛らしい王妃が、ちょうど席に座ったところだった。
王妃は国1番の地魔法使いなので、自分たちの席には自分でシールドを張っているようだ。
防犯の意味もあるだろうが、試合が見えやすいように、会場から比較的近い位置に席があるので、弾かれた剣がとんでこないとも限らない。それの対策だろう。
王妃ほどのシールドを張れる者はこの国にいない。
剣がとんでくるのが怖い者は、大人しく後ろの方の席に座って見るか、自分の腕に自信のある者か金で護衛を雇っている者だけが、前の方の席に陣取っている。
「それでは試合開始。」
最初は、5試合一気に行われる。
5人ずつのグループに分かれて、総当たり試合をするためだ。
お目当ての騎士の試合場所を確認した観客席が、にわかに慌ただしく移動している。
平民出身の騎士も多い。親戚一同、友人、中には村単位で応援が来ている者もいる。
剣は国から機能性に優れた同じ物を全員に支給されるが、それを使っているのは半分程度。
自分で選んだ自分の剣を使用する者、誰かから受け継いだ剣を使う者、騎士になったお祝いに贈られた真新しい剣を使う者、それぞれだ。
イルゼは当然、ローガンがイルゼのことを考えて用意してくれた特注の剣で、この日に臨んでいた。
最初の総当たり試合では、同じ団の者同士は当たらないように組まれている。
第1騎士団の先輩方相手に無双しているイルゼにとって、他の団の新人の中に敵はいない。
――――甘い。訓練が足りない。
――――どこが弱い以前に全部弱い。
――――これから特訓、だな。
イルゼの試合は、どれも一瞬で決着がついた。
「あの方どなた?」
「赤薔薇の君よ。」
「あの方が!?ステキ。おめでとうございますーーー!」
1試合1試合終わる度に増えていく黄色い声。
掛けられた言葉に、顔を上げ、ニコリと笑って、手を上げて応える。
「キャー私よ、私に微笑んでくださったのよ。」
「ああカッコいい。」
「イルゼ様・・・・・。うううっ。ぐすっ。」
「泣かないで!エミリー。」
あ、観客席にフェルクス侯爵夫妻と、長兄夫妻もいらしている。
ユージーンが試合をしているのは反対側なのに、なぜここに?
そうは思いつつも、イルゼは侯爵一家のいる方向に、一部の隙も無い騎士礼をして見せた。
「キャー―――――!!素敵!!」
どっと湧き上がる歓声。
一番声が大きいのは・・・・侯爵夫人??
イルゼの出番の4試合はあっという間に終わってしまった。
当然全勝だ。
まだグループの他の者の試合も残っているので、イルゼは端に移動して、邪魔にならないように待機した。
同じグループの者達の実力は大体把握した。
まだまだだが、あまり変な癖がある者がいない。
そして誠実に努力している。
一歩ずつでも、きっとどんどん少しずつ強くなっていくことだろう。
しかし、ふと視界の端に映ったものに、いやな予感を感じるイルゼ。
横目で見ると、そこには隣のグループの一人の新兵がいた。
新兵の中では弱い方ではないが・・・・。
――――力みすぎている。あれでは体を壊す。いや、御前試合で緊張しているのか。
あの力みが今日だけであれば、問題ないだろう。
誰かに良いところを見せたいのか、がむしゃらに剣を振っている。
――――問題なのは、あの剣。
騎士が使うような剣は、どれだけ最低ランクでも、どれだけ掘り出しものを探しても、10万はする。
平民出身の、まだ給料の出ていない騎士には手が届かないだろう。
でも、親や親戚が、入団のお祝いに頑張って贈ることのできる値段ではある。
王都一の武器屋で買った最低ランクの剣であれば、問題はない。
あそこは問題ある剣を売りつけるような店ではない。
しかし、初めて王都に出てきた新人がよく引っかかるのが、一本裏道に入ったような、田舎者相手にしているような、そんな武器屋の、8万5千とか、9万とか。
そんな価格帯の剣だった。
1、2万なら、どんな田舎者でもおかしいと気が付くだろう。
でも王都一の店で10万円の剣を見た後で、裏路地の店で見つける、少しだけ安い、9万の剣。
それを掘り出し物を見つけたと思うのだろうが、あれは剣の形をした、ただの飾りのお土産物だ。
イルゼは、その張りぼての剣を振るう騎士の位置を確認し、万が一のために・・・いいや、必ずくるだろうその時に備えて、位置を移した。
「イルゼ様!」
「格好良かったです!!」
しまった。観客が、大勢前の方に集まってしまっている。
「危ないです!!後ろへ下がってください!!!」
イルゼが観客のお嬢さんたちに声を掛けるが。
「キャー優しい!」
「分かりました!」
お嬢さんたちは動かない。全然分かっていない。
それにこの方向の先には、フェルクス侯爵ご一家がいる。
当然、複数の護衛が常に目を光らせているようだが。
ガン!ガン!ガキ!!ガン!!
力任せの対戦。大分気持ちの悪い音が混ざってきている。
お嬢さんたちを離れさせることを諦めたイルゼは、全神経を、その飾り物の剣に集中させた。
ガキ!ガン!!
―――――――――くる。
カキッ―――――――――――!!!!
シュルシュルシュル
ッキン!!
間一髪。
何とか回転しながら飛んできた折れた刃を、イルゼは自分の剣で、観客席に届く直前に叩き落とすことに、成功した。
それは、クルクル巻き毛の可愛いらしい、小動物みたいなユージーンの義姉の、目の前だった。
折れた剣が、自分の方へ向かってきて驚いたのだろう。
ユージーンの義姉は、硬直していた。無理もない。
「あの、大丈夫ですか?」
名前・・・・名前は何だっけ。ユージーンの兄のカーティスの夫人の・・・えーっと。
うん、知らない。
「・・・・おねえさま?」
「は・・・・はい!!」
硬直が解かれたユージーンの義姉は、頬をピンクに紅潮させ、なぜかポワポワしていた。
「ありがとうございます。・・・・イルゼ様・・・。」
・・・・・様?良く分からないが、助けたことで、好感度が多少上がったらしい。悪い事ではないので、良しとする。
新人たちは、とりあえずの区切りとして、この3か月を乗り切る事を目標としている。
それは新人が入団してから3か月の時点で、団対抗の新人御前試合が開催されるからだ。
この試合では、各団から新人を5人ずつ出し、その実力を競わせる。
国中の貴族や裕福な商人などが見に来て、お祭り騒ぎになる。
騎士のお披露目といったところだ。
このお披露目会が終わった後、各団長に一人前と認められた者から、徐々に新兵が任務に駆り出されていくようになる。
この御前試合、当然騎士学校の卒業生が優勝するかと思えば、そうでもないらしい。
騎士学校では、学科や貴族のマナーまで学ぶのに対し、従騎士や募集試験を通過してきた騎士達は、実戦経験がある。
毎年、どちらが勝つのか、誰が勝つのかで、社交界の話題は持ちきりになる。
今年の注目はもちろん、騎士学校卒業の『白薔薇の騎士』ユージーン(誰が呼び始めるのか、人気の騎士にはなぜか二つ名がつく)。そして、ユージーンを抑えて騎士学校首席を獲得したという『赤薔薇の君』、イルゼだ。
騎士学校の卒業生は大抵メンバーに選ばれるので、試合会場には、見知った顔がいくつもあった。
訓練場は王都や郊外に散らばっており、王宮内の訓練場で訓練をするのは第1、第2騎士団のみなので、久しぶりに見る顔が多い。
「おい見ろ、今年は国王夫妻がおいでになっているぞ。」
イルゼ達が逸る心を落ち着かせて待機していると、開始直前になって、会場内が静かに騒めき始めた。
王族が観戦にくるのも珍しくはないが、国王夫妻が揃って見に来るのはとても珍しい。
ロイヤル席を見上げると、国民から密かに怖そう、偉そうだと敬遠されている王様と、その隣でホワホワニコニコと微笑んでいるタンポポの花のような可愛らしい王妃が、ちょうど席に座ったところだった。
王妃は国1番の地魔法使いなので、自分たちの席には自分でシールドを張っているようだ。
防犯の意味もあるだろうが、試合が見えやすいように、会場から比較的近い位置に席があるので、弾かれた剣がとんでこないとも限らない。それの対策だろう。
王妃ほどのシールドを張れる者はこの国にいない。
剣がとんでくるのが怖い者は、大人しく後ろの方の席に座って見るか、自分の腕に自信のある者か金で護衛を雇っている者だけが、前の方の席に陣取っている。
「それでは試合開始。」
最初は、5試合一気に行われる。
5人ずつのグループに分かれて、総当たり試合をするためだ。
お目当ての騎士の試合場所を確認した観客席が、にわかに慌ただしく移動している。
平民出身の騎士も多い。親戚一同、友人、中には村単位で応援が来ている者もいる。
剣は国から機能性に優れた同じ物を全員に支給されるが、それを使っているのは半分程度。
自分で選んだ自分の剣を使用する者、誰かから受け継いだ剣を使う者、騎士になったお祝いに贈られた真新しい剣を使う者、それぞれだ。
イルゼは当然、ローガンがイルゼのことを考えて用意してくれた特注の剣で、この日に臨んでいた。
最初の総当たり試合では、同じ団の者同士は当たらないように組まれている。
第1騎士団の先輩方相手に無双しているイルゼにとって、他の団の新人の中に敵はいない。
――――甘い。訓練が足りない。
――――どこが弱い以前に全部弱い。
――――これから特訓、だな。
イルゼの試合は、どれも一瞬で決着がついた。
「あの方どなた?」
「赤薔薇の君よ。」
「あの方が!?ステキ。おめでとうございますーーー!」
1試合1試合終わる度に増えていく黄色い声。
掛けられた言葉に、顔を上げ、ニコリと笑って、手を上げて応える。
「キャー私よ、私に微笑んでくださったのよ。」
「ああカッコいい。」
「イルゼ様・・・・・。うううっ。ぐすっ。」
「泣かないで!エミリー。」
あ、観客席にフェルクス侯爵夫妻と、長兄夫妻もいらしている。
ユージーンが試合をしているのは反対側なのに、なぜここに?
そうは思いつつも、イルゼは侯爵一家のいる方向に、一部の隙も無い騎士礼をして見せた。
「キャー―――――!!素敵!!」
どっと湧き上がる歓声。
一番声が大きいのは・・・・侯爵夫人??
イルゼの出番の4試合はあっという間に終わってしまった。
当然全勝だ。
まだグループの他の者の試合も残っているので、イルゼは端に移動して、邪魔にならないように待機した。
同じグループの者達の実力は大体把握した。
まだまだだが、あまり変な癖がある者がいない。
そして誠実に努力している。
一歩ずつでも、きっとどんどん少しずつ強くなっていくことだろう。
しかし、ふと視界の端に映ったものに、いやな予感を感じるイルゼ。
横目で見ると、そこには隣のグループの一人の新兵がいた。
新兵の中では弱い方ではないが・・・・。
――――力みすぎている。あれでは体を壊す。いや、御前試合で緊張しているのか。
あの力みが今日だけであれば、問題ないだろう。
誰かに良いところを見せたいのか、がむしゃらに剣を振っている。
――――問題なのは、あの剣。
騎士が使うような剣は、どれだけ最低ランクでも、どれだけ掘り出しものを探しても、10万はする。
平民出身の、まだ給料の出ていない騎士には手が届かないだろう。
でも、親や親戚が、入団のお祝いに頑張って贈ることのできる値段ではある。
王都一の武器屋で買った最低ランクの剣であれば、問題はない。
あそこは問題ある剣を売りつけるような店ではない。
しかし、初めて王都に出てきた新人がよく引っかかるのが、一本裏道に入ったような、田舎者相手にしているような、そんな武器屋の、8万5千とか、9万とか。
そんな価格帯の剣だった。
1、2万なら、どんな田舎者でもおかしいと気が付くだろう。
でも王都一の店で10万円の剣を見た後で、裏路地の店で見つける、少しだけ安い、9万の剣。
それを掘り出し物を見つけたと思うのだろうが、あれは剣の形をした、ただの飾りのお土産物だ。
イルゼは、その張りぼての剣を振るう騎士の位置を確認し、万が一のために・・・いいや、必ずくるだろうその時に備えて、位置を移した。
「イルゼ様!」
「格好良かったです!!」
しまった。観客が、大勢前の方に集まってしまっている。
「危ないです!!後ろへ下がってください!!!」
イルゼが観客のお嬢さんたちに声を掛けるが。
「キャー優しい!」
「分かりました!」
お嬢さんたちは動かない。全然分かっていない。
それにこの方向の先には、フェルクス侯爵ご一家がいる。
当然、複数の護衛が常に目を光らせているようだが。
ガン!ガン!ガキ!!ガン!!
力任せの対戦。大分気持ちの悪い音が混ざってきている。
お嬢さんたちを離れさせることを諦めたイルゼは、全神経を、その飾り物の剣に集中させた。
ガキ!ガン!!
―――――――――くる。
カキッ―――――――――――!!!!
シュルシュルシュル
ッキン!!
間一髪。
何とか回転しながら飛んできた折れた刃を、イルゼは自分の剣で、観客席に届く直前に叩き落とすことに、成功した。
それは、クルクル巻き毛の可愛いらしい、小動物みたいなユージーンの義姉の、目の前だった。
折れた剣が、自分の方へ向かってきて驚いたのだろう。
ユージーンの義姉は、硬直していた。無理もない。
「あの、大丈夫ですか?」
名前・・・・名前は何だっけ。ユージーンの兄のカーティスの夫人の・・・えーっと。
うん、知らない。
「・・・・おねえさま?」
「は・・・・はい!!」
硬直が解かれたユージーンの義姉は、頬をピンクに紅潮させ、なぜかポワポワしていた。
「ありがとうございます。・・・・イルゼ様・・・。」
・・・・・様?良く分からないが、助けたことで、好感度が多少上がったらしい。悪い事ではないので、良しとする。
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