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「ネイサン様!」

 聞こえた高い声に、思わず溜め息を飲み込む。

 また、来ましたか。こんなタイミングで来るとは・・・本当に、困った人ですね。

「どなたでしょうか?」
「いやですわ、ネイサン様。わたくしですわ。ネイサン様にお話があって」

 いや、わたくしですとか言われても知らないし。名前で呼ぶことも許してないし。いい加減、名乗ってくれませんかね? まぁ、名乗られたところで、この人と仲良くする気はさらさら無いんだけど。

「そうですか。わたしは特にありませんので」
「え?」

 きょとんとした表情の女子生徒は、例の……貴族子息に声を掛けて回っているという彼女。

「そ、そんな冷たいこと仰らないでください。実はわたくし、困っていて・・・」

 如何にも困ったという表情なのは、百歩譲っていいとして。わざわざ上目使いで、わたしを見詰めなくてもいいんじゃないですかね?

「そうですか。大変ですね。頑張ってください。では、わたしは先を急ぐので失礼します」

 止めていた足を動かすと、

「っ!? ま、待ってくださいっ!! その、わたくしの迎えの馬車が来ていなくて! 家に帰れなくて困っているんです! ネイサン様さえご迷惑でないのでしたら、わたくしを家の近くまで送ってくださいませんかっ!?」

 驚愕っ!! という表情をした後、必死な顔でなんか訴えて来ましたが・・・

 なんというか、わたしも驚きました。凄いことを要求して来ましたよ?

 幾ら同じ学園の生徒であるとはいえ、一度しか話したことのない、大して知らぬ仲の後輩。それも男子に、家の近くまで送ってほしいとは・・・さすが、淑女ではない方ですねぇ。

「はあ、それは災難ですね。もしかしたら、もっと後ろの方にご実家の馬車があるのかもしれませんし、探してみては如何でしょう?」

 確か、この方は裕福な平民の家の方だとセルビア嬢が言っていましたね。平民だったら、馬車はもっと後ろの方に停まっているんじゃないですかね?

 知りませんし、興味もありませんが。

「一緒に探してくれませんか? その、心細くて……」
「待ち合わせの日時は確認しましたか? 間違えてはいませんか? 今日ではなくて、明日だったりしませんか? 夕方ではありませんか?」
「待ち合わせは今日ですっ! 時間だって、もう過ぎているんです!」
「そうですか。では、わたしではなく、仲の良い同級生やあなたの親族に頼っては如何ですか?」
「え?」

 いやだな、なんでぽかんとした顔をするのか……

「その方があなたも安心できるのでは? 一度しか話したことのない後輩男子なんかを頼るより、その方が親御さんも安心されるのでは?」
「ね、ネイサン様しか頼れる方がいなくて・・・」

 なにやら、少々引きったような顔で辺りをきょろきょろと見回す彼女。

 確かに。今このとき、この辺りを歩いているのは、わたしと彼女だけですね。御者や警護の方々を除いては、ですけど。

「成る程、わかりました」
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