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「なぁに?」
「愛人を認めてもいいと思っているくらいには、わたくしはあなたのことを愛しておりますよ?」

 にっこりと、綺麗な笑顔で言った。

「あなたの方がわたくしより女性らしい言葉遣いでも、あなたの方が女性らしい仕種をしても、あなたのことをお慕いしています」
「っ……」
「あら? どうされましたか? お顔がいきなり真っ赤になりましたよ? 殿下」
「なにっ、この不意打ちはっ……ズルいじゃない」

 顔が熱くなって行くのがわかる。

「ふふっ、ズルいどころか、とても酷い提案をわたくしにして来たのは殿下の方じゃありませんか?」

 やんわりと責めるイジワルな言葉。

「ええ。そうね、ごめんなさい。それについては、謝るわ。けど……わかっているのかしら? あなたはこれから、辛い道へ進もうとしているのよ? わたしを切り捨てて、他の誰かと結婚すれば、女としての幸せを諦めることはないんだから」
「あなたって方は……」

 呆れた視線を向けられる。

 わたしだって、嬉しいのよ? 喜びたいのよ?

 でも、ね……

「一応、言っておくわ。恋情があるのかはかく、わたしから見て、父は母を愛していると思う。けれど母は、わたしを生んだ後に流産を繰り返して……子供を生めない身体になってしまったの。だから父は、側妃達を娶った。わたしの他にも、王族男児が必要だったから。でも、見ての通りよ。結局は、王女いもうと達しか生まれていない。母達はきっと、辛い思いをたくさんして来たわ。だから、ね……?」

 溜め息を吐いて、言葉を続ける。

 真剣な顔の婚約者は、凛々しくて綺麗だ。

「愛だけでは、どうにもならない問題があるの。お願いだから、わかってちょうだい」
「……全く。わかっていないのは、殿下の方ではありませんか? そんな酷い条件で嫁いでくれるような女性の宛は、ありますか?」
「それ、は……今から見付けるわ」

 少し、言葉に詰まって返す。

「これでもわたしは王太子だもの。一応、嫁になりたい女の子は沢山いる……筈、よ?」
「そうですか。それじゃあ、そういう都合のよい方が見付かる・・・・までは・・・、わたくしと婚約続行ですね」

 都合のいい人。その言葉に、ツキンと小さく胸が痛む。酷いことを言っているのは、自分のクセして。

 わたしには、傷付くような資格は無いのに。

「婚約を解消するなら、早い方がいいわ。その方が、あなたも早く次の相手を見付け易いもの」
「そうかもしれませんね。お互い、次のお相手が見付かる・・・・のなら・・・、ですけど」

 にっこりと、綺麗に微笑む婚約者。
 けれど、その顔は先程の笑顔とは違い、なにやら腹黒い気配を孕んでいて……?

「見付かると宜しいですね。頑張ってください」
「あなた……」
「でも、そうですね。殿下はご存知ないかもしれませんけど……愛だけではどうにもならない問題があるように、愛がなければどうにもならない問題もあるんですよ? 知っています?」
「っ……」
「わたくしに、あなたを支えさせてください」

 彼女に負けた、と思った。

 なんだか、ものすごく敗北感があるのに……

 問題も山積みで、なに一つとして解決していることなど無いというのに……

 ――――どこか清々しいような気分になるのは、一体どうしてなのかしら?
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