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「納得、できません。」

「まだ言うかっ!」

「お前のせいで、ファリーダは夜も眠れぬほど辛い想いをして来たのだぞ!?」

「何のことですか?」

「惚けるな!」

「身に覚えが全くありません。」

彼の顔は茹でダコみたいに真っ赤だった。
彼は深呼吸をして心を落ち着かせてから、私の『罪』とやらを一つずつ、挙げ始めた。

「まず、お前は、『ラルスに近づくな。』『お前のような薄汚い小娘が近付いて良いものではない。』などと、ファリーダを蔑めるような悪口を言ったそうだな?」

「婚約者がいる第一王子に近づき、ボディータッチまでして、ベタベタするのは、婚約者に失礼なのでは?不躾だと思いましたので、婚約者として、当たり前の行動を取ったまでですわ。」
「それに、『薄汚い小娘』などと、汚らしい言葉は用いていません。」

そうだ。
普通、もし、そんな風にベタベタされても、ラルス様から断るべきなのだ。

それなのに、お互いに受け入れて、ベタベタ度は順調に上がっていく。

ラルス様の不貞疑惑や、私の特殊な性癖疑惑が沸き起こったりもしたので、注意をしたまで。

何も、やましいことなんてない。

「……っ!」

ラルス様が、言葉に詰まる。

「ならば、これはどうなのだっ!」
「お前は舞踏会のとき、俺がファリーダと踊った後。ファリーダを呼び出して嫉妬のあまり暴行を加えたそうだな!」

確かに呼び出した。が。

「暴行など加えておりませんわ。」
「証拠がないではないか!」
「暴行を加えたという証拠こそありません。」
「彼女の涙と、その訴えこそ証拠だ!」

なんてバカな話だ。

ならば、私がここで涙を流し、やっていないと主張すれば信じてもらえるのか。

そんなことはない。

「婚約者のいる方は、最初のダンスは婚約者と踊るというしきたりがあります。」
「それなのに最初、ファリーダ様と踊り、婚約者がいる私は一人だったのですよ?その意味をお分かりで?」

言葉を探すように、ラルス様は口をパクパクさせている。

追いうちをかけるように、私は言い放った。

「それに、ファリーダ様は、ラルス様と二回目のダンスを申し込んでらっしゃいましたよね?その意味も分かったうえで踊ったのでしょうか?」

二回目のダンスは、正式な婚約を表す。

最初のダンスは婚約者と。
二回目を踊るのも婚約者と。
三回目を踊るのは、結婚した後だ。

壁の花となって、婚約者と他の女性が楽しげに踊るようすを見ていた私はいったい何なのか。

涙が出そうになった。

なんなら、ここで泣崩れたかった。

誰かに、隣で一緒に戦って欲しかった。
味方でいて欲しかった。

私は、舞踏会のホールの真ん中で、一人だった。





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