303 / 368
異世界<日本>視察編
日本の夏 1
しおりを挟む
「夏といえばさ、花火らしいんだけど」
「……なんですか急に」
メルヒオールが突拍子もないことを言い出す。
「いや、日本の夏には花火が欠かせないらしいよ?」
「そうなんですか」
マリナは夏にはセレスタに帰っていたので花火という物は知らない。
頻繁に通っているだけあってメルヒオールは異世界、というより日本に詳しくなっている。
通っているから、それだけではないようだけど。
メルヒオールは向こうに行くたびに美咲さんに案内をしてもらっている。
詳しくなるのも当然か。
「夏ですか……。 海水浴とかアイスとか楽しみがいっぱいある季節ですね」
テレビCMは季節を先取りしているのでマリナも少しだけ知識は得たけど、体験したことはない。海の水はしょっぱいっていうのは本当なんだろうか。
「でも日本の夏の暑さは尋常じゃないので気を付けてくださいね。
一度昼間に街を歩いたことがありますけれどすごかったですから」
指輪を買いに行ったときのことだけど、本当に異常な暑さだった。
同じ日本でも場所を変われば気温も違うらしいけれど、マリナが行った街は酷く熱かった。
「ああ、なんていうか控えめに言って死にそう、って感じらしいね」
「そんな感じでした」
外と中の温度の差も高くてぐったりしてしまう。
セレスタの夏と同じ感覚で訪ねたらあっという間に干からびて動けなくなりそうだ。
「まあそんなわけで花火なんだけど」
強引に話を戻してくる。
「はぁ」
面倒で適当に相槌を打つ。
「見に行きたいんだけど花火って祭の中で披露されるらしいんだよね。
師長の許可が下りなそうでさ」
「祭、ですか……」
ジグ様の心配もわかるので賛同もしづらい。
祭は多くの民の楽しみだけど、酔客同士の揉め事や浮かれた人々を狙う犯罪者も集まってくる。
それは日本も変わらないんじゃないかな。
「魔術に関係なさそうなら許可は出ないんじゃないですか」
別の方向からメルヒオールを説得してみる。
するとすごい勢いで反論が返ってきた。
「何を言ってるんだ、あれは見るべき技術だ。
魔術で再現できれば……!」
「そんなに固執するほどすごい物なんですか?」
メルヒオールがここまで拘るなら一見以上の価値があるんだろうけれど、内容がわからないとジグ様は説得できない。
「空に花が咲いたように火花が散る様は絶対に感動する」
あまりの絶賛に思ったことを聞いてみる。
「メルヒオールは見たことがあるんですか?」
「あるわけないじゃん。 まだ夏になったばかりなのに。
……ああ、動画を見せてもらったんだ」
なんで存在を知っていてそこまで進めてくるのかと思ったら映像で見て是非その目で見てみたいと思ったらしい。
納得はしたけど……。
「私も見てみたいですけれど、無理そうですね」
マリナは王子について離宮に行くので予定が合わない。
「説得は手伝いますので感想を聞かせてください」
そう言って話を終わらせようとするとメルヒオールが首を振った。
「師長からはアンタが同行しないなら許可は出せないって言われてる。
花火を見に行くにはアンタの協力が不可欠なんだ」
「そう言われても……」
優先順位がある以上メルヒオールについて行くことは出来ない。
断りを口にしようとしたらメルヒオールの方が先に口を開いた。
「花火はあちこちでやってるから日程は調整できるから!
それに、王子の結婚式の演出の参考になるかもしれないだろ?」
必死に言葉を重ねるメルヒオールを意外な面持ちで見つめる。
メルヒオールが説得をしようとしているところなんてあんまり見ない。
大抵は勝手にやるかすっぱり諦めて他のことを始めるのに。
「なんでもいいから良いって言えよ」
感心してたら呆れる言葉が飛んできた。
それが人に物を頼む人の態度なんだろうか。
一瞬だけ思ったそう思ったけど、メルヒオールにそれを言っても仕方ないと思ってしまう。長い付き合い故の諦めだ。
「良いですよ。 開催される日がいくつもあるなら全部書いて見せてください。
都合のいい日をこちらで選びますので」
マリナの都合に合わせろという意味だ。
自分の部屋に籠って研究をしているメルヒオールと、王子について護衛や補佐をしているマリナでは自由になる時間が圧倒的に違う。
メルヒオールの方が合わせるのは当然のことだった。
「わかってる。
師長にはアンタが了承したって伝えとく。 開催日は調べてまた伝えに来るから」
「ええ、できるだけ早めにお願いしますね」
わかってると思うけれど早ければ早い方がいい。
わかってる!と返事を残してメルヒオールは戻って行った。
メルヒオールが去って行った後でふうっと息を吐く。
また忙しくなる。
前倒しで出来ることは片付けていかないと。
日本に行けるのは離宮より戻ってからになるだろう。
予定を調整したり執務を割り振って片付けるのは面倒なことだけど……。
それ以上に楽しみだった。
「……なんですか急に」
メルヒオールが突拍子もないことを言い出す。
「いや、日本の夏には花火が欠かせないらしいよ?」
「そうなんですか」
マリナは夏にはセレスタに帰っていたので花火という物は知らない。
頻繁に通っているだけあってメルヒオールは異世界、というより日本に詳しくなっている。
通っているから、それだけではないようだけど。
メルヒオールは向こうに行くたびに美咲さんに案内をしてもらっている。
詳しくなるのも当然か。
「夏ですか……。 海水浴とかアイスとか楽しみがいっぱいある季節ですね」
テレビCMは季節を先取りしているのでマリナも少しだけ知識は得たけど、体験したことはない。海の水はしょっぱいっていうのは本当なんだろうか。
「でも日本の夏の暑さは尋常じゃないので気を付けてくださいね。
一度昼間に街を歩いたことがありますけれどすごかったですから」
指輪を買いに行ったときのことだけど、本当に異常な暑さだった。
同じ日本でも場所を変われば気温も違うらしいけれど、マリナが行った街は酷く熱かった。
「ああ、なんていうか控えめに言って死にそう、って感じらしいね」
「そんな感じでした」
外と中の温度の差も高くてぐったりしてしまう。
セレスタの夏と同じ感覚で訪ねたらあっという間に干からびて動けなくなりそうだ。
「まあそんなわけで花火なんだけど」
強引に話を戻してくる。
「はぁ」
面倒で適当に相槌を打つ。
「見に行きたいんだけど花火って祭の中で披露されるらしいんだよね。
師長の許可が下りなそうでさ」
「祭、ですか……」
ジグ様の心配もわかるので賛同もしづらい。
祭は多くの民の楽しみだけど、酔客同士の揉め事や浮かれた人々を狙う犯罪者も集まってくる。
それは日本も変わらないんじゃないかな。
「魔術に関係なさそうなら許可は出ないんじゃないですか」
別の方向からメルヒオールを説得してみる。
するとすごい勢いで反論が返ってきた。
「何を言ってるんだ、あれは見るべき技術だ。
魔術で再現できれば……!」
「そんなに固執するほどすごい物なんですか?」
メルヒオールがここまで拘るなら一見以上の価値があるんだろうけれど、内容がわからないとジグ様は説得できない。
「空に花が咲いたように火花が散る様は絶対に感動する」
あまりの絶賛に思ったことを聞いてみる。
「メルヒオールは見たことがあるんですか?」
「あるわけないじゃん。 まだ夏になったばかりなのに。
……ああ、動画を見せてもらったんだ」
なんで存在を知っていてそこまで進めてくるのかと思ったら映像で見て是非その目で見てみたいと思ったらしい。
納得はしたけど……。
「私も見てみたいですけれど、無理そうですね」
マリナは王子について離宮に行くので予定が合わない。
「説得は手伝いますので感想を聞かせてください」
そう言って話を終わらせようとするとメルヒオールが首を振った。
「師長からはアンタが同行しないなら許可は出せないって言われてる。
花火を見に行くにはアンタの協力が不可欠なんだ」
「そう言われても……」
優先順位がある以上メルヒオールについて行くことは出来ない。
断りを口にしようとしたらメルヒオールの方が先に口を開いた。
「花火はあちこちでやってるから日程は調整できるから!
それに、王子の結婚式の演出の参考になるかもしれないだろ?」
必死に言葉を重ねるメルヒオールを意外な面持ちで見つめる。
メルヒオールが説得をしようとしているところなんてあんまり見ない。
大抵は勝手にやるかすっぱり諦めて他のことを始めるのに。
「なんでもいいから良いって言えよ」
感心してたら呆れる言葉が飛んできた。
それが人に物を頼む人の態度なんだろうか。
一瞬だけ思ったそう思ったけど、メルヒオールにそれを言っても仕方ないと思ってしまう。長い付き合い故の諦めだ。
「良いですよ。 開催される日がいくつもあるなら全部書いて見せてください。
都合のいい日をこちらで選びますので」
マリナの都合に合わせろという意味だ。
自分の部屋に籠って研究をしているメルヒオールと、王子について護衛や補佐をしているマリナでは自由になる時間が圧倒的に違う。
メルヒオールの方が合わせるのは当然のことだった。
「わかってる。
師長にはアンタが了承したって伝えとく。 開催日は調べてまた伝えに来るから」
「ええ、できるだけ早めにお願いしますね」
わかってると思うけれど早ければ早い方がいい。
わかってる!と返事を残してメルヒオールは戻って行った。
メルヒオールが去って行った後でふうっと息を吐く。
また忙しくなる。
前倒しで出来ることは片付けていかないと。
日本に行けるのは離宮より戻ってからになるだろう。
予定を調整したり執務を割り振って片付けるのは面倒なことだけど……。
それ以上に楽しみだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
247
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる