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十章

17、わたくしから降りてください

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 ああ、南国の姫ごっこはわたくしには難易度が高すぎました。
 いいえ、違います。一人きりの時にすべきでした。

 眠る前に布団の中で、素敵な妄想……いえ、想像に遊んでいたとしても。きっと隣の旦那さまに見つかって、弄ばれてしまうでしょう。

 わたくしは、苦手な物を食べたというご褒美に魔王に差し出されてしまいました。

「翠子さんが好きなようにしてくれていいよ。俺は、あなたの下僕だからね」

 もう姫だの下僕だのの設定は、どうでもいいじゃありませんか。
 
「今日は、もう……しました」
「うん。何を?」

 下僕改め魔王は、わたくしの耳元で囁きます。しかも背後からのしかかられて、わたくしはうつ伏せになった状態です。
 旦那さまの重みを背中に感じて、わたくしは畳の上でもがきました。

「俺が何をしたのか、教えてくれないと分からないよ」
「で、ですから。もう抱かれたのです」
「ああ、あれは済まなかった。夕立のせいとはいえ、俺が悪かった。二度とあんなことがないように気をつけるよ」
「気をつけるって……?」

 嫌な予感がしました。
 背後から、わたくしの耳を旦那さまが噛みます。ひりつく痛みに、畳に置いた手がぴくりと反応しました。

「それは、ちゃんと時間をかけて、翠子さんを愛してあげることに決まっているだろ? まったく俺も若くはないのにな、ああいう性急な抱き方はいけないと思う」
「だったら、もうわたくしから降りてください」
「なんで?」

 何を言ってるんだ、このお姫さまは? とでも言いたげに、旦那さまが首をかしげます。
 もう、知ってるんですからね。わたくしの真意をちゃんと汲み取っていることくらい。

「翠子さん、裁縫の課題はだいぶん進んだだろう? なぜか分かるか」
「わたくしが、頑張ったからです」
「うん。翠子さんは頑張った。俺はあなたの邪魔をしないように、昼以外は裁縫室に行かなかった。ほら、俺がいて気が散ってはいけないだろう?」

 それは、そうですけど。
 
「仕事中に、職員室ではなく廊下に出て煙草を喫う先生もいるんだ。皆月先生みたいにな。俺は煙草は喫わないから、真面目に仕事をしたんだ。それに帰ってからも苦手な物を食った」

 言い分は通っていますけど。

「ほら、翠子さんはご褒美をあげたくなっただろ?」
「で、でも。もうこれ以上は、わたくしにも負担が大きいです」

 わたくしは頬を赤らめながら、訴えました。
 旦那さまを受け入れるのは、快感と苦痛の両方に襲われて。しかも下腹部はまだ重苦しいんです。
 これ以上は、無理なんです。

「大丈夫。愛でるだけだから」
「愛でるだけって……何なんですか?」
「言葉通りだよ」

 ワンピースの胸元のボタンが、一つずつ外されていきます。腹部を旦那さまの手で持ち上げられ、わたくしの胸が畳から離れました。
 それまで布地でおおわれていた胸が、旦那さまのてのひらに収まってしまいます。
 
「や……あぁ」

 やわやわと揉まれたかと思うと、うなじに接吻されます。

「好きな所に触れてあげるから」
「そんなの……、ぁあ……離して……くだ、さ……」

 必死に逃れようとすると、背後から回された手が、わたくしの胸の尖りをきつく抓みます。
 わたくしは思わず悲鳴を上げました。

「やめて……痛い、です」
「痛いの好きだろう? 素直になりなさい」

 意地悪を仰らないで。
 なのに胸には痛みを、下腹部に伸ばされた手は、花芯を撫でるので……痛みは甘美な悦楽へとすり替わっていきます。

「あぁ……ぁ、だめ……で、す」
「でも、こんなにも俺を誘っているよ。翠子さんは清楚なのに、淫らに育って本当に困っているんだ」

 耳元で、旦那さまがふっと小さく笑いました。ええ、もう嫌な予感が何倍にも膨らみます。

 いつの間にかワンピースはほとんどが脱がされ、わたくしの肘の辺りで留まっています。
 旦那さまの膝に座らされたわたくしは、背後からなおも愛撫を受け続けています。

「や……ぁ、あぁ、んんっ」
「姫さま、足を開いてください」
「む……りを、おっしゃら、ないで。それにもう……下僕ごっこは」
「姫さまはご自分でできると思いますよ。それともこの下僕に、傲慢に命じてほしいですか?」

 いつの間にか、南国の姫ごっこが再開されています。
 普段とは違う旦那さまの言葉遣い。でも、普段と同じ強引さで、わたくしは甘美がたゆたう底へと引きずり込まれていきます。

 わたくしが乱れる姿を見ることが、旦那さまが望むご褒美なのですから。毅然として、凛々しく……この、甘い拷問に、耐え……なくては。

「そうやって意地を張る姿も、美しいですよ。姫さま」

 旦那さまの腕に爪を立て、わたくしは首を左右に振りました。
 だめです……耐えられません。

「旦那さまは、サ……ディストです」
「褒め言葉をどうも。では、ご期待に添うように、もっといたぶりましょうか?」
「や、いや……です。やめて……ぇ」

 快楽の芯を責められて、視界が白くなります。

「あぁ……旦那さまぁ……んんっ……ぅ」

 旦那さま自身も、指すらもわたくしの中へは入ってきませんのに。
 わたくしは、何度も旦那さまの指で極めさせられました。
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