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第1話 姉妹格差
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「妹に譲ってあげればいいでしょう! 姉なんだから我慢しなさい!」
メディア王国有数の名家、ファヴォリティス侯爵家の双子姉妹、メルとエメ。
エメのわがままを受け入れなかったメルに対して、両親が言うことはいつもこれだ。
双子なので顔立ちや体形はほぼ同じだが、髪と瞳の色の違いから二人の印象は正反対。ハニーブロンドに碧眼のエメは華やかで愛嬌があり、薄茶の髪に深緑の瞳のメルはまじめで硬い印象がある。
そのせいかいつも大人がかまいたがるのはエメの方。
物心ついた時から、自分の見た目が姉のメルより他人をひきつけるとエメは気付いていた
だから、メルよりワンランク上質の物を使い、周囲に気を使ってもらわなければ気が済まない性格となった。
メルはすっかりあきらめて高価なものを欲しがらない性格となったが、それでもエメはメルの大事なものを取り上げようとする。
例えば誕生日プレゼント。
エメが最新流行の宝石がセッティングされたブローチを欲しがったのに対し、メルは色ガラスの細工のペンダントを欲しがった。
両親はそれぞれ二人にプレゼントをする。
エメに高価な贈り物をして、自分には安い物しかくれない親の態度に心のざわつきは止められないが、それでもそのペンダントを気に入っていたので大事に使っていると、それをエメが欲しがった。
そして、あのセリフである。
手に入れた後、大事に使うわけでもないのに、奪い取るまで両親に泣きついて止まらなかった。
十代半ばになり、貴族の催しに家族そろって出かけるようになると、エメとメルの身に着けている物の格差が衆目にも明らかになり、それについてこそこそと言われるようになった。
体裁が悪いと感じた母親は、
「この娘は飾りの少ない地味な服装が好きでしてね。私たちももっと華やかに着飾ったらと言ってはいるのですけど……」
そういってごまかした。
両親の態度に思うところのあったメルはある日、人々の間でぶちまけた。
「安っぽくて地味なものが好きだなんて嘘です。両親はエメにだけお金を使って私には我慢させるんです。私だって宝石を見ればきれいだと思うし、フリルやレースの付いた衣装を素敵だと思っています!」
顔をつぶされた両親は、家に帰るとメルを罵倒し頬をひっぱたいた
そしてその後はメルにも周囲の人々にも、こう言うようになった。
「エメの方が良い家のご子息と結婚できそうな見た目なのだから、お金をかけるのは当たり前でしょう!」
つまり開き直ったのである。
貴族にとって婚姻は家の命運をかけるものだから、それを姉妹差別正当化の理由にしたのである。
やがて、姉妹とも十八歳、貴族令息の釣書が寄せられる中、突然父親がメルに言った。
「メル、お前の嫁ぎ先が決まった」
姉のメルより先に結婚できるだろうと思っていたエメは愕然とし、メルをにらみつけた。
「まあ、安く売れる方を先に出すってやり方もあるわよね」
母親はつぶやき、エメをそれとなく慰めた。
「嫁ぎ先は王族だ。お前は王太子妃になるのだ」
「「「ええっ!」」」
当の本人のメルも、母親やエメも驚いた。
「あり得ない! 王太子って言ったら国王の次に身分の高い殿方じゃないの! どうしてそんな方のところにメルが?」
「あなた、それならエメの方がいいのではありませんか?」
エメと母が不満の意を漏らした。
「まあ、いずれわかる。三日後に一家で王族と顔合わせをするからそのつもりでな」
含みを持った父親の言葉にメルもエメも、そして母親も首をかしげるだけだった。
メディア王国有数の名家、ファヴォリティス侯爵家の双子姉妹、メルとエメ。
エメのわがままを受け入れなかったメルに対して、両親が言うことはいつもこれだ。
双子なので顔立ちや体形はほぼ同じだが、髪と瞳の色の違いから二人の印象は正反対。ハニーブロンドに碧眼のエメは華やかで愛嬌があり、薄茶の髪に深緑の瞳のメルはまじめで硬い印象がある。
そのせいかいつも大人がかまいたがるのはエメの方。
物心ついた時から、自分の見た目が姉のメルより他人をひきつけるとエメは気付いていた
だから、メルよりワンランク上質の物を使い、周囲に気を使ってもらわなければ気が済まない性格となった。
メルはすっかりあきらめて高価なものを欲しがらない性格となったが、それでもエメはメルの大事なものを取り上げようとする。
例えば誕生日プレゼント。
エメが最新流行の宝石がセッティングされたブローチを欲しがったのに対し、メルは色ガラスの細工のペンダントを欲しがった。
両親はそれぞれ二人にプレゼントをする。
エメに高価な贈り物をして、自分には安い物しかくれない親の態度に心のざわつきは止められないが、それでもそのペンダントを気に入っていたので大事に使っていると、それをエメが欲しがった。
そして、あのセリフである。
手に入れた後、大事に使うわけでもないのに、奪い取るまで両親に泣きついて止まらなかった。
十代半ばになり、貴族の催しに家族そろって出かけるようになると、エメとメルの身に着けている物の格差が衆目にも明らかになり、それについてこそこそと言われるようになった。
体裁が悪いと感じた母親は、
「この娘は飾りの少ない地味な服装が好きでしてね。私たちももっと華やかに着飾ったらと言ってはいるのですけど……」
そういってごまかした。
両親の態度に思うところのあったメルはある日、人々の間でぶちまけた。
「安っぽくて地味なものが好きだなんて嘘です。両親はエメにだけお金を使って私には我慢させるんです。私だって宝石を見ればきれいだと思うし、フリルやレースの付いた衣装を素敵だと思っています!」
顔をつぶされた両親は、家に帰るとメルを罵倒し頬をひっぱたいた
そしてその後はメルにも周囲の人々にも、こう言うようになった。
「エメの方が良い家のご子息と結婚できそうな見た目なのだから、お金をかけるのは当たり前でしょう!」
つまり開き直ったのである。
貴族にとって婚姻は家の命運をかけるものだから、それを姉妹差別正当化の理由にしたのである。
やがて、姉妹とも十八歳、貴族令息の釣書が寄せられる中、突然父親がメルに言った。
「メル、お前の嫁ぎ先が決まった」
姉のメルより先に結婚できるだろうと思っていたエメは愕然とし、メルをにらみつけた。
「まあ、安く売れる方を先に出すってやり方もあるわよね」
母親はつぶやき、エメをそれとなく慰めた。
「嫁ぎ先は王族だ。お前は王太子妃になるのだ」
「「「ええっ!」」」
当の本人のメルも、母親やエメも驚いた。
「あり得ない! 王太子って言ったら国王の次に身分の高い殿方じゃないの! どうしてそんな方のところにメルが?」
「あなた、それならエメの方がいいのではありませんか?」
エメと母が不満の意を漏らした。
「まあ、いずれわかる。三日後に一家で王族と顔合わせをするからそのつもりでな」
含みを持った父親の言葉にメルもエメも、そして母親も首をかしげるだけだった。
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