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小夜時雨【8月長編】
8
しおりを挟む急に決まった温泉旅行、もとい、課外授業は無事に終了した。おみにとっては初めての遠出であり、他の龍神様と出会ったこともあって、きっと疲れたことだろう。
でもそれ以上に楽しかったようでもあり、帰る準備をする時は名残惜しそうに部屋を眺めていた。
「坂口さんにお土産買って帰ろうな」
「ん」
「帰りたくない?」
「んー……かえる……」
「また来よう。しらたきの里帰りってことで」
「ん!」
ようやくいつもの表情に戻った。ぐずったり、駄々をこねるのはいくらでもしていいと思っている。その結果、雨が降ったとしても悪いことではない。
必要な我慢はあるけれど、別れを惜しむことや寂しさは、決して無駄なものではないのだ。
「帰ったら、しらたきにお家の案内する!」
「じゃあ、明日は庭の案内だな」
「うん! しらたきといろんなところに行くの」
「楽しみだな、おみ」
こうして旅に出て、おみが「龍神様」として周りからどう見られているか目の当たりにすると、分かっていても気後れしてしまう。どうしようもないのだ。俺は、多少変わっているとはいえただの人間であり。
おみは小さくて泣き虫だけど、龍神様であり。
俺たちは、最初から何もかも違っている。
でも。
「帰ろう、おみ」
俺の手を握る小さな手は、間違いなく、紛れもなく、俺にとって大切なものであることに変わりないのだと。
そんな、当たり前のことに気付かされる旅行だった。
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