泣き虫龍神様

一花みえる

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天泣【9月長編】

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「わたしたちを置いて出ていくんですかぁ~!?」
「そ、そういう訳じゃないでしょ、泣かないで、ね?」

 織田さんの店は、ひどく荒れていた。具体的に言うと泣き喚くマイを、ウカさんが必死に宥めている。織田さんは織田さんでケラケラ笑っていて止める気は全くなさそうだ。
 イネがうちに来たのは正解だったのかもしれない。
「あの……ウカさん?」
「え?    あら、りょうちゃん?」
    声をかけるか悩んだが、話が進まないと思い名前を呼んだ。それでようやく俺の存在に気づいたのか、ウカさんはパチリと目を瞬かせた。
    イネやマイと同じように重ための前髪は真っ直ぐに切り揃えられている。最後に会った時よりも髪が伸びていて、後ろ髪は高い位置で結われていた。
    切れ長ではあるがキツい印象を感じないのは、ウカさんの優しい性格のためだろう。つんと尖った鼻先は、当然だけどイネとマイにそっくりだった。
「変わりませんね、当たり前だけど」
「そうかしら。これでも一応、髪は伸びたのよ」
「昔はもっと短かったですもんね」
    足に絡みつくマイを器用に引き剥がしながら、昔話に花を咲かせる。気づいたらウカさんの背中にイネがくっついていて、新しい妖怪かと思ってしまった。生憎と妖怪は専門外だ。
「この子が例の、おみちゃん?」
「そうです。ほら、挨拶」
「おみ、でしゅ……うにゅ」
    相変わらずの人見知りだ。真っ赤になって俺の後ろに隠れてしまう。でも尻尾ははみ出ているから完全には隠れられていない。
    安心させるために頭を撫でる。甘えるように抱きついてきたから、そのまま両手で抱き上げた。
「ま、こんなとこで立ち話もアレだ。上がっとくれ。お茶と菓子くらいは出すよ」
     織田さんのその言葉に、もっと早くそう言ってくれと思いはしたが、ようやく差し出された救いの手に俺とウカさんは縋ることにした。
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