泣き虫龍神様

一花みえる

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雨の名月【11月短編】

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    その日は数百年に一度の、極めて稀な夜だった。真ん丸な月が少しずつ欠けていき、最後には真っ暗になる日だ。世間では朝からテレビやネットで話題になり、これを逃すと次は三百年後!    と断言する番組もあった。
    そんな風に世の中が騒いでいると、いつもは世俗に疎い俺も少しは興味が湧いてくる。たまにはのんびりと夜空を眺めるのも悪くない。そう思って、毛布とココアを手に縁側へと向かってみたわけだが。
「おつきさまいなくなっちゃった」
「そう。すごいな」
「うーむむ」
    なぜか、大はしゃぎすると思っていた小さな龍神は、想像よりもずっと落ち着いていた。むしろ何かを思い出すような仕草までしている。
    これはまさか。
「おみ、これみたことある」
「えっ」
「えーと、よんひゃくねん?    くらいまえ」
「ええ……」
    そうだった。おみは見た目や中身は五歳くらいだが、生きている年月は千年近くある。その中で今日と同じような皆既月食を見たことなんかあるに決まっているだろう。
    俺ばっかりはしゃいでしまい、無性に恥ずかしくなった。
「ごめんな……平均寿命が八十程度で……」
「へーきんじゅみょー?」
「気にするな。人の儚さを思い知っただけだから」
    そうだ。どんなに俺たち人間が長生きしたところで、おみにとっては瞬きをしているようなものなんだ。歴史が大きく変わった四百年に思えるものも、おみの前では些細なこと。
    改めて格の違いを思い知らされてしまった。
「りょーた、おつきさま、まっか!」
「前に見た時も同じだったんじゃないのか?」
「んー……そうだけど、今の方が楽しい」
「そっか」
    おみが、今のように少しずつ消えていく月を見ていた時に何を考えていたのか。どこにいたのか。何をしていたのか。
    俺はよく知らない。
    でも、今のおみが「楽しい」と笑ってくれることが何よりも嬉しかった。毛布ごと小さな体で抱きついてくる。
    ココアを零さないように抱きとめて、膝の上に感じる優しい重さに目を細めた。
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