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山茶花時雨 【12月短編】
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たっぷりの蜂蜜に漬けた大根からは、一晩経つとじゅわりと水分が滲み出てくる。浸透圧だかなんだかの影響らしいけれど、詳しくはよく知らない。
じっくり冷蔵庫で寝かせておいた蜂蜜大根を取り出して蓋を開ける。甘い香りがふわりと広がった。
「ほあー、はちみつ」
「このままだと大根が悪くなるから取り出して、今夜の煮物に使うんだ」
「ほほー!」
瓶に入れた時は大きかった大根が、今はしゅんと小さくなっている。しかもトロトロの蜂蜜は大根エキスで柔らかく溶けており、おみにとっては不思議なこと尽くしのようだ。
別の容器に大根を入れていく。今夜はこの大根と鶏肉の煮物にしよう。蜂蜜が混ざっているから味付けも楽だ。
「おみ、このシロップをよく混ぜてくれるか?」
「うぃ!」
大きなスプーンを突っ込んでぐるぐるかき混ぜ始める。その間に俺は薬缶に水を入れ、コンロにかけた。ついでにおみ専用のマグカップを取り出す。
寝る前にホットミルクを飲む時に使っているものだが、今日は蜂蜜大根ジュースを作るのだ。
「りょーた、まざったよー」
「よし。ありがとな」
「ふふん」
褒めてと言わんばかりに頭を押し付けてくる。わしゃわしゃ撫でてやると、気持ちよさそうに喉を鳴らした。
そんなことをしている間に薬缶の中身が沸騰し、湯気を立て始めた。よし、もういいかな。
「このシロップをお湯に溶かして飲むと、咳が治まるんだ」
「だいこんすごい!」
「蜂蜜も喉にいいから、痛みもなくなるぞ」
「ふんふん」
シロップをスプーンでひとすくい。
カップにとろとろ流し入れる。
「このままたべたら、からい?」
「蜂蜜だから甘いよ」
「……じゅる」
「食べるなよ?」
「むん……」
おみの手が届かないところに置いておこう。うっかりすると盗み食いされてしまいそうだ。いくら喉にいいとはいえ、蜂蜜なことには変わらない。食べすぎると良くないだろう。
そして、腹ぺこ大魔神のおみにかかればこんなシロップなんか一瞬だ。
「ほら、まだ熱いから気をつけて飲むんだぞ」
「わーい! ありがと!」
出来たての蜂蜜大根ジュースが入ったマグカップを、両手で大切そうに持っている。はふはふしながら少し飲んでは「うまま」と呟いている。
幸せそうで何よりだ。
「じゃ、俺は晩ご飯作ってるから。居間でテレビでも」
「やだ! おみ、ここにいる!」
「ええ? でも寒いぞ?」
台所に暖房器具は置いていない。俺が住むことになっておおよそのものはリノベーションしたが、台所まで気が回らなかったのだ。代わりに居間は火鉢もあるし、ヒーターもある。
そこに居た方が暖かいだろうに。
「おみ、あったかいからへーき」
「でも」
「りょーたのそばにいるの!」
ううん。そこまで言い張るのなら断る理由もないか。代わりに体が冷えないよう半纏を着せて、おみのために用意した小さな椅子に座らせた。
ふんふん、おみの下手くそな鼻歌が響くなか、甘い大根とぷりぷりの鶏肉をコトコト煮込み始める。なぜだか普段よりも台所が明るく感じた。
じっくり冷蔵庫で寝かせておいた蜂蜜大根を取り出して蓋を開ける。甘い香りがふわりと広がった。
「ほあー、はちみつ」
「このままだと大根が悪くなるから取り出して、今夜の煮物に使うんだ」
「ほほー!」
瓶に入れた時は大きかった大根が、今はしゅんと小さくなっている。しかもトロトロの蜂蜜は大根エキスで柔らかく溶けており、おみにとっては不思議なこと尽くしのようだ。
別の容器に大根を入れていく。今夜はこの大根と鶏肉の煮物にしよう。蜂蜜が混ざっているから味付けも楽だ。
「おみ、このシロップをよく混ぜてくれるか?」
「うぃ!」
大きなスプーンを突っ込んでぐるぐるかき混ぜ始める。その間に俺は薬缶に水を入れ、コンロにかけた。ついでにおみ専用のマグカップを取り出す。
寝る前にホットミルクを飲む時に使っているものだが、今日は蜂蜜大根ジュースを作るのだ。
「りょーた、まざったよー」
「よし。ありがとな」
「ふふん」
褒めてと言わんばかりに頭を押し付けてくる。わしゃわしゃ撫でてやると、気持ちよさそうに喉を鳴らした。
そんなことをしている間に薬缶の中身が沸騰し、湯気を立て始めた。よし、もういいかな。
「このシロップをお湯に溶かして飲むと、咳が治まるんだ」
「だいこんすごい!」
「蜂蜜も喉にいいから、痛みもなくなるぞ」
「ふんふん」
シロップをスプーンでひとすくい。
カップにとろとろ流し入れる。
「このままたべたら、からい?」
「蜂蜜だから甘いよ」
「……じゅる」
「食べるなよ?」
「むん……」
おみの手が届かないところに置いておこう。うっかりすると盗み食いされてしまいそうだ。いくら喉にいいとはいえ、蜂蜜なことには変わらない。食べすぎると良くないだろう。
そして、腹ぺこ大魔神のおみにかかればこんなシロップなんか一瞬だ。
「ほら、まだ熱いから気をつけて飲むんだぞ」
「わーい! ありがと!」
出来たての蜂蜜大根ジュースが入ったマグカップを、両手で大切そうに持っている。はふはふしながら少し飲んでは「うまま」と呟いている。
幸せそうで何よりだ。
「じゃ、俺は晩ご飯作ってるから。居間でテレビでも」
「やだ! おみ、ここにいる!」
「ええ? でも寒いぞ?」
台所に暖房器具は置いていない。俺が住むことになっておおよそのものはリノベーションしたが、台所まで気が回らなかったのだ。代わりに居間は火鉢もあるし、ヒーターもある。
そこに居た方が暖かいだろうに。
「おみ、あったかいからへーき」
「でも」
「りょーたのそばにいるの!」
ううん。そこまで言い張るのなら断る理由もないか。代わりに体が冷えないよう半纏を着せて、おみのために用意した小さな椅子に座らせた。
ふんふん、おみの下手くそな鼻歌が響くなか、甘い大根とぷりぷりの鶏肉をコトコト煮込み始める。なぜだか普段よりも台所が明るく感じた。
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