泣き虫龍神様

一花みえる

文字の大きさ
上 下
230 / 290
木の芽雨【5月長編】

3

しおりを挟む
「おだしゃー!    おみだよー!」
    今まで仕事のなかったおみが、ここぞとばかりに扉を開け放った。頼むから「お邪魔します」くらい言って欲しい。まあ、我が家もだいたい適当な名乗りだけで来客されるから何も言えないが。
    ここに居るとどうにも平和ボケしてしまう。
「あら、おみちゃん!    ウカのお手伝いありがとう」
「えへ、えへへ」
   織田さんに褒められてふにゃふにゃしているが、実際は何もしてないだろう、おみよ。
    そんな無粋なことは言わないけど。
「ウカさんおかえりなさーい!」
「おかえりウカさーん!」
「イネ、マイ。ただいま」
    店の奥からイネとマイも出迎えにやってきた。今日はいつもより早く店じまいをするようだ。こんな様子じゃ仕事も手につかなかったんだろう。
    織田さんはいつも以上にテキパキとウカさんの荷物を片付けている。その間、ウカさんは宇海をイネ、マイ、おみに任せて少しのんびりしていた。そうか、お母さんっていつ、どんな時でも「母」なんだ。常に赤ちゃんのために何かをしている。
    きっと世界で一番大変な仕事なんだろうな。
「店長、お久しぶりですね」
「ウカも元気そうで安心したわァ」
    二人並んで、楽しそうに話をしている。まるで母と娘のようだ。いや、織田さんは確か男性だと聞いていたから父と娘?    でも、神様だから見た目も性別も結構好きに変えられるらしい。
    うーん。あんまり難しく考えるのはやめておこう。なんにしても、織田さんとウカさんの間には二人にだけの関係性があるのだ。
「しばらくゆっくりしていきなさいね、イネたちも喜ぶし」
「お言葉に甘えます。旦那さんものんびりして来いと言っていました」
「優しいじゃないの」
    そんなことを話している二人を眺めつつ、部屋の隅ではしゃいでいる子供たちに目をやる。なるほど、織田さんの言葉通り宇海にみんな付きっきりだ。
「うみちゃーおみだよー」
「あぶ」
「まー!    へんじした!」
「イネも!」
「マイもー!」
    笑顔を返されるだけでも嬉しいらしい。ふにゃふにゃの頬っぺをつつきながら、小さな手を握りながら、代わる代わる宇海に話しかけている。
    楽しそうだなぁ。宇海がいると、おみもちょっとお兄ちゃんになれるかな。
「みえぇぇぇ!    うみちゃ、おみのしっぽたべちゃだめー!」
「あぶぶぶ」
「みえええ!」
    うーん、おみの成長はまだまだ先のようだ。それとも、赤ちゃんは龍神様よりも強いのだろうか。どちらにしても賑やかに過ぎていく時間は心地よいものだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王子に転生したので悪役令嬢と正統派ヒロインと共に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:610pt お気に入り:276

桜の季節

恋愛 / 完結 24h.ポイント:440pt お気に入り:7

【完結】契約妻の小さな復讐

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,707pt お気に入り:5,879

令嬢は大公に溺愛され過ぎている。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,329pt お気に入り:16,080

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:8,706pt お気に入り:5,595

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:207,401pt お気に入り:12,431

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:31,893pt お気に入り:35,206

処理中です...