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木の芽雨【5月長編】
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「おだしゃー! おみだよー!」
今まで仕事のなかったおみが、ここぞとばかりに扉を開け放った。頼むから「お邪魔します」くらい言って欲しい。まあ、我が家もだいたい適当な名乗りだけで来客されるから何も言えないが。
ここに居るとどうにも平和ボケしてしまう。
「あら、おみちゃん! ウカのお手伝いありがとう」
「えへ、えへへ」
織田さんに褒められてふにゃふにゃしているが、実際は何もしてないだろう、おみよ。
そんな無粋なことは言わないけど。
「ウカさんおかえりなさーい!」
「おかえりウカさーん!」
「イネ、マイ。ただいま」
店の奥からイネとマイも出迎えにやってきた。今日はいつもより早く店じまいをするようだ。こんな様子じゃ仕事も手につかなかったんだろう。
織田さんはいつも以上にテキパキとウカさんの荷物を片付けている。その間、ウカさんは宇海をイネ、マイ、おみに任せて少しのんびりしていた。そうか、お母さんっていつ、どんな時でも「母」なんだ。常に赤ちゃんのために何かをしている。
きっと世界で一番大変な仕事なんだろうな。
「店長、お久しぶりですね」
「ウカも元気そうで安心したわァ」
二人並んで、楽しそうに話をしている。まるで母と娘のようだ。いや、織田さんは確か男性だと聞いていたから父と娘? でも、神様だから見た目も性別も結構好きに変えられるらしい。
うーん。あんまり難しく考えるのはやめておこう。なんにしても、織田さんとウカさんの間には二人にだけの関係性があるのだ。
「しばらくゆっくりしていきなさいね、イネたちも喜ぶし」
「お言葉に甘えます。旦那さんものんびりして来いと言っていました」
「優しいじゃないの」
そんなことを話している二人を眺めつつ、部屋の隅ではしゃいでいる子供たちに目をやる。なるほど、織田さんの言葉通り宇海にみんな付きっきりだ。
「うみちゃーおみだよー」
「あぶ」
「まー! へんじした!」
「イネも!」
「マイもー!」
笑顔を返されるだけでも嬉しいらしい。ふにゃふにゃの頬っぺをつつきながら、小さな手を握りながら、代わる代わる宇海に話しかけている。
楽しそうだなぁ。宇海がいると、おみもちょっとお兄ちゃんになれるかな。
「みえぇぇぇ! うみちゃ、おみのしっぽたべちゃだめー!」
「あぶぶぶ」
「みえええ!」
うーん、おみの成長はまだまだ先のようだ。それとも、赤ちゃんは龍神様よりも強いのだろうか。どちらにしても賑やかに過ぎていく時間は心地よいものだった。
今まで仕事のなかったおみが、ここぞとばかりに扉を開け放った。頼むから「お邪魔します」くらい言って欲しい。まあ、我が家もだいたい適当な名乗りだけで来客されるから何も言えないが。
ここに居るとどうにも平和ボケしてしまう。
「あら、おみちゃん! ウカのお手伝いありがとう」
「えへ、えへへ」
織田さんに褒められてふにゃふにゃしているが、実際は何もしてないだろう、おみよ。
そんな無粋なことは言わないけど。
「ウカさんおかえりなさーい!」
「おかえりウカさーん!」
「イネ、マイ。ただいま」
店の奥からイネとマイも出迎えにやってきた。今日はいつもより早く店じまいをするようだ。こんな様子じゃ仕事も手につかなかったんだろう。
織田さんはいつも以上にテキパキとウカさんの荷物を片付けている。その間、ウカさんは宇海をイネ、マイ、おみに任せて少しのんびりしていた。そうか、お母さんっていつ、どんな時でも「母」なんだ。常に赤ちゃんのために何かをしている。
きっと世界で一番大変な仕事なんだろうな。
「店長、お久しぶりですね」
「ウカも元気そうで安心したわァ」
二人並んで、楽しそうに話をしている。まるで母と娘のようだ。いや、織田さんは確か男性だと聞いていたから父と娘? でも、神様だから見た目も性別も結構好きに変えられるらしい。
うーん。あんまり難しく考えるのはやめておこう。なんにしても、織田さんとウカさんの間には二人にだけの関係性があるのだ。
「しばらくゆっくりしていきなさいね、イネたちも喜ぶし」
「お言葉に甘えます。旦那さんものんびりして来いと言っていました」
「優しいじゃないの」
そんなことを話している二人を眺めつつ、部屋の隅ではしゃいでいる子供たちに目をやる。なるほど、織田さんの言葉通り宇海にみんな付きっきりだ。
「うみちゃーおみだよー」
「あぶ」
「まー! へんじした!」
「イネも!」
「マイもー!」
笑顔を返されるだけでも嬉しいらしい。ふにゃふにゃの頬っぺをつつきながら、小さな手を握りながら、代わる代わる宇海に話しかけている。
楽しそうだなぁ。宇海がいると、おみもちょっとお兄ちゃんになれるかな。
「みえぇぇぇ! うみちゃ、おみのしっぽたべちゃだめー!」
「あぶぶぶ」
「みえええ!」
うーん、おみの成長はまだまだ先のようだ。それとも、赤ちゃんは龍神様よりも強いのだろうか。どちらにしても賑やかに過ぎていく時間は心地よいものだった。
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