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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

67 魔王様は小学6年の最後の夏休みを遊び倒したい⑪

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校舎の屋根にのぼったことは、言うまでもなく――コッテリと担任が保護者達に叱られた。
夏休み明けはきっと先生の修羅場だろうとは思うが、我たち六年生にとっては、最高の思い出となったのは言うまでもない。

校舎の屋根から見える景色に、不覚にも胸が弾んだ。
異世界に来て、この校舎から巣立って、また大人になって……そう言う未来を思い描くのは、人間だからだろうか?
魔王だった時代では到底考えられぬ充実感。
人間とは――こんな生き物だったのだなと改めて理解出来た。

さて、陽も落ちる頃になると、農家の家からスイカの差し入れが沢山あった。
やりたい人は存分にスイカ割りをして良いという事で、名乗りを上げたのはアキラだった。


「アキラ、この前寺でスイカ割りをしたじゃありませんか」
「いいや祐一郎。あれはスイカ割りじゃなく、スイカを木刀で斬ったんだ。本当のスイカ割りを俺はしたい」
「失礼ですね、あれから暇を見てコンクリートが切れないタイプの木刀を作っているというのに」
「お前は無駄に精密な木刀を作ろうとするなぁ……」


とは言え、スイカ割りをしたいというアキラを止めることは野暮と言うもの。
皆で集まって、右だ左だ真っ直ぐだ、と囃し立て、何とか割れたスイカにアキラは満足げに微笑んだ。


「潰れているじゃないですか。やはり木刀の方が綺麗で美味しいのでは?」
「お前の基準は良く解らないが、スイカ割りってのはこういうモノを言うんだぞ」
「祐一郎に新しい常識を教えていくのはちょっと至難の業だよね。ぶっ飛んでるから」
「ぶっ飛んでるとは失礼な」


そう言いつつもスイカを食べると夏の味がする。
幼少期から食べているスイカの思い出が色々と思い出され、クワガタの餌にしただの、種を庭に飛ばしまくっただの、平和な会話が続いている。
スイカを食べ終われば、もう夏休みのイベントは終わりだろうか。
陽も暮れてきて解散するには丁度いい時間ではあるのだが――。
そう思っていると、暗がりからシュッと光が見えたかと思えば、ロケット花火が空で破裂する音が聞こえた。


「お前たち――! 最期のイベントは花火だ! 一人一本ずつ好きな花火を取れ!」
「先生――! 花火がショボイでーす!」
「打ち上げ花火がありませーん!」
「線香花火も花火は花火だ! 予算の都合だ文句を言うな!」


どうやら自前で花火を用意したらしく、クラスメイト一人一本の花火を手渡された。
種類は様々、ロケット花火に煙玉、ねずみ花火に爆竹、そして――線香花火。
普通の花火は早々に男子が奪っていき、女子は線香花火が主になったようだ。
遠くでネズミ花火に火をつけて放り投げたのだろう。男子の悲鳴と雄叫びが聞こえてくるし、空ではロケット花火の破裂音が鳴り響いている。
煙玉を用いた男子の遊びと、女子による線香花火を使った乙女の話。
色々な思いが詰まった、小学校最後の夏休みの思い出作りだ。


「俺も線香花火しか取れなかったや」
「僕もだよ」
「私も線香花火です。適当にパチパチしますか」


そう言って蝋燭から線香花火に火をつけると、少し移動してから座り込み、パチパチと光る線香花火を見つめた。
短くも、長くも感じられる時間……我たちは無言で花火を見つめ、ポトリ、また一つポトリと地面に落ちる炎を見つめ、大きく息を吸っては吐いた。
思い起こせば、学生時代と言うのは花火に似ているのかも知れない。
一生懸命燃えて、終わりは直ぐにやってくる。


「祐一郎がドライフラワーみたいな考えしてる気がする」
「奇遇だね、僕も思ってたよ」
「失礼ですね、枯れてもいませんしドライフラワーにもなってませんよ」
「じゃあ何を考えてたんだ?」
「内緒です」


そう言って立ち上がると、線香花火を花火専用バケツに入れて処理し、各々家路へと帰ることになった。
無論、担任には帰る旨を伝えなくてはならないが、それは楽しんだ者の義務として必要な事だろう。
こうして、アキラとも別れて寺に帰り、金突き堂で魔法使いと会話する機会が出来た。
今日の出来事を少し聞くことが出来たが――。


「不毛な片思いをしてたことに漸く気が付いたよ」


そう言って笑っていた。


「あーあ、僕も素直じゃないなー」
「元から素直ではありませんがどうしたんです」
「嫉妬だよ、嫉妬。魔王は寺の跡継ぎだから仕方ないとしてさ。アキラが将来の夢を持って頑張ってることなんて知らなかった」
「まぁ、言葉にして言う事ではありませんからね」
「だから嫉妬した。僕も将来の夢をシッカリと練りたい」
「そうですか、良い事では?」
「それに、魔王やアキラに堂々と言える職業に就きたい」
「住職に警察官と遜色ない職業ですか、大変ですね」
「でも、良い目標が出来た。やっぱ目標あると違うよ」


そう言って真っ直ぐ背伸びをして前を見据える魔法使いに、我はフッと笑みを零し、世闇に響くセミの声を聴いていた。
魔法使いが将来どんな夢を持つのか、どんな職業に就くのかは分からない。
だが、未来に進みたいと言う気持ちは――誰にも馬鹿に出来る事ではない筈だ。


「期待してますよ? 魔法使いさん」
「魔王は魔王らしく住職頑張れよ。 頭剃る時は笑ってあげる」
「気が重いですねぇ」


そう言って笑い合い家に入ると、その日は早々に眠りについた。
そして翌朝――。

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