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未練と先へ
混じる
しおりを挟む主人公の一人称や口調がブレていますが仕様です。
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じっと視線を合わせていたことでいたたまれなくなったのか、シェケルが視線だけ私から逸らした。
先ほどよりも挙動や表情が怪しいので、マイナス面の感情によるものというよりは、単純に恥ずかしさからのものなのかもしれない。
「私はさ。この教会の中にいる人の中でお前が一番だったんだよ。小さいころから世話してくれた婆さまよりお前の方が大事だった」
「あの」
俺が発した言葉にシェケルが戸惑ったように小さく声を発した。
「聖女はね。シェケルが下手に首を突っ込んであれらのターゲットになるのを防ぎたかったんだ」
意図せずに口調が変わっていることに気付く。何となく、聖女の思いが混じり始めている気がした。
「あなたはここの司祭であり責任者。あいつらは私にすら手を出してきたんだ。下手に敵対すれば何をしてきたのかはわからない。最悪私と同じようにしたかもしれない。いや、それ以上のことをしてきたかもしれない。それだけは絶対避けたかった」
「…でも」
愛おしいと思う。
この、出会った時から全然見た目が変わらなかった男はいつも自信なさげな態度を取っていたけど、その一部は他人に対するやさしさの結果だと気づいたのはそう時間はかからなかった。
優しすぎたんだ。この男性は。
この世界の住民は自分を見るだけで精一杯で人のことを気にかけている人はそうそういない。
私の親だって聖女としての才能があるとわかったらすぐに私を売り渡した。村の人たちは私が売られていくのを見て見ぬふりをした。
でも、仕方がないことなんだ。あの時は恨みはしたけれど、皆生活するのがやっとだし、権力者に逆らえばどうなるかわからない。
そんな世界で自分のことを助けようとしてくれたこの男性はどれだけ無謀なのだろう。
でも、それがとてもうれしかった。
「私のために無茶しようとしてくれてありがとう。好きだったシェケル」
「…聖女様」
聖女の言葉を受け瞳の奥が揺れるシェケルを見て、感情が溢れ視界がぼやけだした。
ああ、駄目だ。これではシェケルの顔が見えなくなる。最後まで見ていたいのに。
「聖女様。僕もあなたのことむぐ」
欲しい言葉を紡ごうとしたシェケルの唇に指を押し当ててそれ以上零れないようにする。
「それ以上は駄目。私が居なくなれない。まだいたいって思っちゃうから」
「それは……ずるくないですか」
「ふふ」
納得のいっていないシェケルの表情に小さな笑いが漏れる。年上のはずなのに少し子供っぽい表情がおかしくて愛おしい。
「じゃあね。シェケル」
そう言葉を発した途端、意識が暗転し体から力が抜けたのを感じた。
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後はエピローグになります。残り2話、最後まで読んでいただけたら幸いです。
※後半セリフ内の「いたい」は変換ミスではないです。
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