勇者の料理番

うりぼう

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うなぎもどき

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相変わらずのペースで森の中を進んでいると。

『王子、魔獣に市民が襲われています!』
「何!?」

通信機から聞こえてきた報告にウェイン王子が驚く。
ちなみにこの通信機、魔法を使ったもので遠くの人と話せる電話のようなものだ。
大きな石のついたネックレスの形をしている。

ってそんな事はどうでも良い。
市民が襲われてるってどういう事!?

「おい、襲われてるって……!?」
「避難してたんじゃないんですか!?」

森の中にある集落の人達は全員避難していると聞いていた。
だが話を聞く限り、まだ残っていた人達がいたのだろう。
それとも魔獣の侵攻が思った以上に早かったのだろうか。

「侵攻も早いし、避難も追い付いていなかったのかもしれない。とにかく急ごう」
「……奴らは泉の近くにいるな」
「え!?」
「たま、俺達をそこに送れるか?」
「ああ」

泉と泉は繋がっており、泉の近くならたまは楽に人を飛ばす事が出来る。
たまが太陽とウェイン王子に手を翳す。

「後ですぐに追いかける。頼んだぞ」
「ああ」
「お任せ下さい」

たまのセリフに二人が同時に頷く。
そしてそのすぐ後に二人の身体が光り、その場から消えた。

「たま!俺達も急がないと!」
「わかっている」

誰かが襲われていると聞き焦ってしまう。
俺がどうこう出来る問題じゃないんだけど、どういう状況なのかはやっぱり気になる。

太陽の事だから魔獣はすぐに倒せるだろうけど、他の市民の人はそうもいかないもんね。
鍛え抜かれた騎士団の人達ですら魔獣にてこずるのだ。
普通の市民が手に負えるはずがない。
俺達も太陽達の後を追いかけ急いで現場へと向かった。











「よー早かったな」
「え、嘘でしょもう終わったの?」
「ん、頭みっつあったからちょっとてこずったけどな」

到着すると太陽が魔獣を背にあっけらかんと手を挙げた。

今回の魔獣はみっつの頭がある蛇のような魔獣。
頭は蛇だけど身体は黒くてぬめぬめしてて完全にでっかいうなぎだ。
川付近に生息している魔獣の一種のようで、うなぎ部分は川に浸かったまま、三つ首の頭だけが地面に横たわっている。

「襲われてた人は?」
「大丈夫だったぜ。あっちで手当て受けてる」
「良かった、無事だったんだ」
「ちょうど泉の近くで助かったぜ。送られたのも魔獣の真上でさー」

あははっ、と笑いながらどうやって倒したのかを説明していく太陽。
真上に落ちた太陽はまず真ん中の頭に一発、その後左右に飛んで一発ずつお見舞いしたが倒れず、ヤマタノオロチの要領でぶん殴りながら頭を結んだらしい。
かなり複雑な結び方になってるような……あんな風に結べるんだな頭って。
そして結んだあとに再びそれぞれに拳骨をお見舞いしたようだ。
通りで蛇の頭に大量のたんこぶがある訳だ。

「ところで太陽、これってアレに見えない?」
「わかる、アレだろ」
「アレですよ」

キランと目が輝く。

「……太陽、朝日、まさかとは思うんだけど……」

俺達の会話にウェイン王子がおずおずと尋ねてくる。

はいそのまさかです。
だってこんなにうなぎにそっくりなんだもん、食べなきゃ損!
絶対損!

「食べれますよね?」
「ええ、これ本当に食べるの?ぬめぬめしてるよ?」
「ぬめぬめは取れるから問題ないです。絶対美味しいですから!」
「……じゃあ一応毒がないかだけ調べてもらうね」
「ありがとうございます!」

嫌だなあという表情を浮かべつつも調べてくれるウェイン王子。
良い人だなあ。

「毒は加熱すれば消えるみたいだよ。でも、さすがにこれは……」
「食べれます食べれます!待っててください!」

加熱すれば消えるなんてますますうなぎだな。
頭の部分は使わないから身体の部分だけ貰おう。

「さーて、やりますかー!」

大きすぎるからとりあえずある程度の大きさにぶつ切りにして、今度は横半分に切る。
お肉は捌くの無理だけど魚系を捌くのは余裕だ。
重いからちょっと騎士さん達にも手伝ってもらった。

さて、切った魔獣の皮の方に熱湯をかけて氷水に浸し、ぬめりを取ったらまた水で洗い流す。
これでぬめり取りはオッケー。
うんうん、ちゃんと取れてる。

串打ちなんて高度な事は出来ないから、このままちょうど良いサイズに切りそろえて大きな網に身を下にして並べる。
おお、大量のウナギもどきが並ぶ姿って圧巻。
もちろん火は炭火で!
身の方から焼くのは皮がすぐに固くなっちゃうからだ。
うなぎの話だからもどきが固くなるかどうかはわからないけど。

じっくりじんわり火をかけながらタレを作る。
蒲焼きのタレは何度も家で作ってるから簡単だ。
うなぎは高すぎて買えないから、サンマとか茄子を蒲焼き風にしてタレ絡めて食べてたんだけどアレも美味しいよね。

まずはみりんと酒を火にかけてアルコールを飛ばす。
そこに砂糖を加えて溶かして、最後に醤油を投入。
大き目の鍋にお玉ちゃんをぐるぐる回すだけで欲しい分量の調味料が出るから本当に便利。
全部を混ぜて一回沸騰させて、あとは弱火でじっくり。

おっとうなきもどきひっくり返そうかな。
魔法で網の上に乗っていたもどき達を一斉にひっくり返す。
うーわー楽ちん。
魔法最高。

良い感じに白く色が付いている。
皮は程々にしてまたひっくり返す。

「うわ、めっちゃ良い匂い!」
「でしょでしょ、このタレがご飯に絡むの想像したら、あ、ダメだ涎が……!」
「わかる、めっちゃわかる」

ニヤニヤしているのは俺と太陽のみ。
他のみんなはタレの匂いに惹かれながらもあの魔獣を……といつかの鳥魔獣の時以上に微妙な顔だ。
うん、まあ初めて食べる時はそうなるよね。
俺もうなぎ食べた事なかったらこんなん食べれるかー!ってなりそうだし。

お、タレが良い感じに煮詰まってきた。
あくを取ったりろ過したりした方が良いのかもしれないけど省略。
そして出来たタレを一気に冷ます。
これも魔法様様です!

何度かひっくり返したうなぎもどきをじゅっとタレに浸してまた焼く。
これも串打ちしてないと面倒な作業なんだけど魔法で浮かせられるから簡単だ。

あああタレが絡まって焼かれる時の匂いがまた堪らん!
良い匂い!
お腹空いてきたー!
タレをつけててからは決まった完成はない。
これというタイミングを自分で決めてご飯に乗っけるだけ。

うーんもうちょっとかな。
もうちょっと、もうちょっと……

今だー!

良い感じに焼かれたうなぎもどき。
ご飯を乗せた丼を持って並ぶ太陽やウェイン王子、そして騎士さん達にそれぞれうなぎもどきを乗っけてタレをたっぷりとかけた。
あとはその上に山椒を散らすだけ。
山椒もお玉ちゃんから出したものだ。

そしてうなぎといえばお吸い物。
肝はさすがにないからお麩とネギにした。
薄味だけどタレが濃いからちょうど良い。

あとは白菜を塩と出汁、鷹の爪とゆずで漬けておいたものを添える。
簡単な浅漬けでシンプルだけど美味いんだよなこれが。

「これ、本当に食えるんだよな?」
「でもアレだろ?」
「アレ、なんだよな」
「でもめちゃくちゃ良い匂い」

戸惑う騎士さん達を横目に真っ先に食べ始めたのはもちろん太陽。

「いっただっきまーす!うっは!ほっくほく!マジでウナギ!」
「美味しいの?」
「美味い!ウェインも早く食べろって」
「う、うん」

太陽に促されおずおずと箸を口に運ぶウェイン王子。

「ん、美味しい!」

一口食べて感想を漏らすウェイン王子に、唐揚げの時と同様周りが一斉に食べ始める。

「うおおお本当に美味い!」
「何だこれ、こんなに柔らかい身だったのか!?」
「タレが、タレの味が最高!」
「この上にかかってるピリッとしたのもタレに合うなあ」
「ほっかほかのご飯とこのタレがまた合う!」

はい、唐揚げ同様大好評のようです。
当然だよね、なんてったってうなぎもどきだもん。
ごちそうだよごちそう。

「……美味い」

騒がしくガツガツとご飯を頬張る面々の片隅でぼそりと呟く男の人。

恐らく魔獣に襲われていた市民だろう。
かなり体格が良い。
傍らには小さな男の子がちょこんと座っている。
青年は元々この少し先にある集落に住んでいたらしい。
避難指示が出て一旦避難したものの、この小さな少年が忘れものをしたと一人で集落に戻ってしまった。
それに気付いた青年が少年を連れ戻す為に駆け付けたところで群れからはぐれた魔獣が現れて襲われたという事だ。

少年は思い切り騎士団の面々に叱られ青年に拳骨を喰らいしょぼんとしていたが、うなぎもどきを食べすっかり笑顔になっている。

「にいちゃん、これめちゃくちゃうまいね!」
「ああ、美味いな」

にこにこと笑い合う姿にほっこりする。
美味しそうに食べてる姿を見ていると嬉しくて思わず同じくにこにこと見守っていると、ばちりと青年と目が合った。

「アンタ……」

こちらに向かってくる青年。
勢いが凄い。
背も高いからあっという間に距離が詰まってがっしりと両手を掴まれた。

「え、え?」
「アンタがアレ作ったんだよな!?俺は感動した!めちゃくちゃ美味い!」
「あ、ありがとうございます」

ぶんぶんと握られた手を上下に振られ一緒になって身体も動いてしまう。
おおお力持ち。

「米のふっくら具合も良いんだがあのタレは何だ?あんな味食べた事ないぞ、甘くて辛くてしょっぱくて、あの魔獣の肉の焼き具合もちょうど良いしあとタレが絡んだところの米がまた美味くて……!」
「お、おおおおお」

ガンガン言われながら振り回され頭ががっくんがっくん揺らされる。
後ろからたまが引き寄せてくれて助かった。
喜んでくれて何よりだけどあの勢いは危ないって。
ちょっと頭くらくらしてる。

「実は俺も料理人目指してるんだ!今まで色んな飯食べたけどこんなに美味い飯は初めてだ!」

そんなバカな。
もっと美味しいご飯はたくさんあるだろう。
味付けが珍しいだけなんじゃないだろうか。
いや嬉しいけどね!

「……騒がしい男だな」
「ははっ、賑やかだよね」

青年の興奮した様子にたまがぼそりと呟く。
青年が握っていた部分をまるで汚れ物を払うかのように拭うたま。
こらこら何て失礼な事を。
苦笑いを浮かべていると、次の瞬間。

「俺、グエンってんだ!俺をアンタの弟子にしてくれ!」
「……はい?」

青年、グエンが突拍子もない事を言い出した。


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