雪の砦 ~風が運んだ祈りの記録

――語られなかった声は、風の中で生き続けていた。

17世紀の蝦夷地。アイヌの少年・カパチェと、和人の通詞・庄八は、異なる言葉と文化のはざまで、祈りと記憶を紡いでいく。
火に焼かれた祠、掘り返された土、消された地名――
時代の波がすべてを呑み込もうとする中、彼らは「名を記さずに声を残す」という、静かな抵抗を選ぶ。

それから幾世代を経た明治末期。若き新聞記者・中原洸一は、古道具の中から一冊の無名の帳面『ソイの帳』を見つける。
“誰のためでもなく、ただ在るため”に書かれたその言葉は、封じられた祈りの記憶を静かに解き放ってゆく。

語らなかった者たちの声を、誰が聞き取るのか。
そして、語られなかったままの言葉は、どこへ還るのか――。

名を持たぬ地で語られ、名を記さずに綴られた物語が、
いま、風とともに読み手の胸にそっと届く。

記録されなかった声のために。
語ることを選ばなかった人々のために。
そして、語られずにいたあなたの中の声のために――。
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