氷の花は美しく綻ぶ

綴舞

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第1章

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 ユリアの話しに、アナスタシアは驚きに目を瞬かせた。はたから見れば表情一つ動かしていないが、少なくとも彼女は困惑していた。
彼女の戸惑いを尻目に、ユリアは続ける。


「本来であれば有無を言わさず放り出しても良かったのだろうけど、万が一でもアッシェン家の子を孕んでいたら軽率に判断するわけにはいかない。だから陛下は、側妃様の御子が生まれるまでの間、彼女を厳重な監視下に置いたの」


 ヴィルヘルムの懸念は的中し、側妃から生まれた赤子——ハインリヒ第二王子はアッシェン家が代々有するを備えていた。たとえ、どのような母親から産まれようとも、逆にどのような者が父親であっても、がある限りアッシェンの一族であると認められる。

 自身の血脈に伝わる古くからの掟に陛下は悩み抜いたらしい。その結果、目の届くところに置いて監視した方が問題が少ないと判断したようだ。

 本来であれば既に子がいる側妃を娶るなど、争いの火種を自ら招き入れるようなもの。それでも前王の妾を側妃として置いたのは、生まれてきた子供を守るためだった。


 ——ただ生まれただけの子供に何の罪があろうか。


 ヴィルヘルムは、ハインリヒの上に立つ者としての資質を見極めるとして、ルートヴィヒと同じように教育し、同じように扱った。そうして後継者問題へとつながったのだ。


「叔母様は、どなたからその話を……?」


 叔父様も知っていらっしゃるの、と言う問いにグスタフは笑みで答えた。


「私にも、私だけの情報網があるのよナーシャ」


 悪戯に成功したような弾んだ声音に、アナスタシアの唇も笑みの形をとる。家族の前でしか見せない、年相応の柔らかな笑みだった。


 しかし、問題は山積みだ。もし、ユリアの情報が正確であれば、彼は第二王子では無く腹違いの王弟となる。それが周知となれば、民からの王家への信頼がどう揺らぐのか想像に難くない。何よりハインリヒの存在はあまりにも危険だ。



 ヴィルヘルムは良き王だ。実の父による暴政を正し、民のことを考え政治を行う。だが、その改革はあまりにも急進的だった。

 前王の下で甘い汁を啜り、自身の領民達を苦しめていた領主達。民が飢えても、疫病が流行しても、何の対策もしない為政者達。

 ヴィルヘルム王は厳正な裁判の元、前王派の貴族達を粛清した。しかし、証拠不十分で粛清を逃れた貴族たちもいる。彼らからの国王に対する怨嗟は計り知れない。

 その通りであれば、これを好機として必ず行動を起こすだろう。


 ——違う。


「もう既に、始まっているのですね」


 アナスタシアは自身の手をグッと握りしめる。


「だから私が——シュトルツ家の存在が……陛下には必要なのですね」


 ——この国の、本来の王族の血脈が。
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