文太と真堂丸

だかずお

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~ 流動 ~

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ヒョオオーオーオー

山の上から見下ろす、そこは文太の故郷
旅立った日に通った、あの道、あの風景
見える景色は変わらない、道もあの当時と変わらず
あの時のまま…
ここから、あの日見た風景を見つめていて感じた事、それは、一番変わったもの、それは自分自身なのかも知れない。

「みなさん、行きましょう」

僕が産まれ育った村へ。

「ただいまー」

村がざわめき立つ
「ぶっ、文太 文太ちゃんなのかい?」

「帰って来ました」

「ぶっ 文太 、待ってろ、今 お前さんのおっ母を呼んでくるからね」

ああ、久しぶりの故郷。
またこの土地の土を踏みしめることが出来た。
大切な友と一緒に。

「村の雰囲気も、人も変わってねえっすね」太一が微笑んだ。

「ああ、命を救われた。あの日を思い出す」道来が青い空を見つめる。

「へーっ、ここが文太の育った故郷か」しんべえはなんとなく文太の人間性がどうして、あんなにお人好しなのか、村の人達や環境を見て、その理由を少し垣間見た気がした。

一之助も、村人達を見てすぐに分かった、この村の人間達がとても優しいことに。

「真堂丸さん、道来さん、太一さん、お久しぶりです」村人が集まってくる。

「道来さん、太一さん、あの時はこの村を救ってくれて本当にありがとうございます」
村人達はあの日、二人がこの村から金を徴収する者達を追い払い、礼を言う間も無く、村から去ったことを覚えていた。

「そんな、昔のこと 今さら礼なんて良いぜ」太一が嬉しそう照れながらに言う。

「久しぶりだね、君たち」
それは、真堂丸や道来さんを前に救った医師の作蔵さん。

「あの時は命を救われた、ありがとう」道来が言った。

「こちらこそ、村の為にしてくれたことに、ずっと礼を言いたかった、ありがとう」

その時

「文太、文太なのかい?」

「おっ母」

「生きて帰って来たんだね」

「真ちゃん あなたも」
真堂丸は驚いた、自分にもそんな風に言ってくれるとは、思わなかった。
少し照れた様に返事をする真堂丸「あっ、ああ」

その反応を見て文太の母は「何遠慮してるんだい、あなた達は私の子供、自分の母親の様に気なんかつかわないの」

真堂丸はなんとも表現し難い、暖かいぬくもりに包まれた気がした。
あの日失った己の家族、自身を家族だと言ってくれる様な者がいた。

いや、文太の母だけではない、真堂丸の視界に仲間達が映る。

己は今、自分を愛し、愛する者達に囲まれている

ヒョオオオオオオオー


ああ


俺は、なんて 幸せ者だ。

文太の母は、文太の連れて来た友を見まわし言った。
「みんなもそうよ、私の子同然なんだから、いつでも自分の家の様にここに来なさい」

村人達も声をあげる
「ああ、そうよ。文太ちゃんの友達なら、家族同然よ」

「みんなも、一緒にここで暮らそうよ」村の子供達も大喜び。

嬉しかったのは、真堂丸だけではない。

俺は生涯孤独だった。
親にも捨てられ、ずっと独りぼっち、そんな俺はお前達に出会い、こんな人達に家族と思ってもらえてる。
しんべえは、こぼれそうになる涙を飲み込んだ。
母ちゃん、父ちゃん、俺もうあんたらを恨んでねえよ。
おかげで本当に大切な者達に出会え、本当にあたたかい心の持ち主を見極められるようになったんだ。
ぐすん、涙が頬を伝った。
俺にも家族や友達が出来たんだ。

一之助の目の前には、まるで失った家族が立っている様だった。
あっしはあの日、全てを捨てた。
暗妙坊主に家族を殺されたあの日
復讐に取り憑かれていたあっしを救ってくれた、文太さんと先生、復讐と言う闇から救い出してくれただけではなく、あっしを家族と呼んでくれる人達にまで出会わせてくれた。
一之助は今は亡き家族を思い浮かべる。
心配しないでくれて、大丈夫でごんす。
あっしには、こんな沢山の家族が出来たでごんすよ。
今はあの頃と違い、楽しくやってるでごんす。
だから、もう何も心配はいらないよ。
一之助は心の中、いつまでも共に、心に生きる家族へ語りかけていた。

道来は太一を見つめる。
太一も嬉しそうだった。
太一は家族に愛されてはこなかった、産まれて初めて自身を、子と呼び、認め、愛してくれる母の様な存在に出会った、道来は嬉しかった、無邪気に喜んでいた太一の顔が見れたことを。

「お兄ちゃん達遊ぼう」村の子供達が皆の手を引っ張る。

「お兄ちゃん達は疲れてるんだから、後にしなさい」村人達が子供達に言う。

「良いでごんすよ」一之助は子供達に手を引かれて走って行く。

「よーし、今日は村をあげて歓迎と喜びの宴だー」

「腕を振るって、沢山美味しいもの作るから待っててねー」
村人達は久しぶりの文太との再会、文太の友達との出会いに大喜びだった。

「パーット行こうぜ旦那たち」

「まったく、みんなは祭り事が好きなんだから、皆さんくつろいでゆっくりしてください」文太が微笑む。

「やっぱ、ここは落ち着くぜ、よしっ乾杯だぁー」太一がさっそく声をあげる

「おーーーーっ」

日の暮れかかる夕暮れ時
飲めや歌えや、村は大盛り上がり。
久しぶりの文太の帰郷、更には新たな出会いと繋がりに人々は感謝をしていた。
その日は村人達にとって、まるで冠婚葬祭の様な特別な日、お互いの出会いと再会を心より喜びあった。
常に死が身近にあったこの時代、人との出会いや関わりを愛しく、大切にしていた。
特に、この村の人達はそうだったのかもしれない。

「文太さん、ありがとう」

「なにがです?一之助さん」

「この村に連れて来てくれて、皆さんと知り合えて良かったでごんす」

「それは良かったです、ゆっくりくつろいで行って下さい」

「そうさせてもらうでごんす」

しんべえは地面に寝そべった。
「ああ、いつまでもずっとこんな生活が続けば良いなぁ」

その言葉は皆の心に深く伝わる。

「皆さん、空見て下さい」

「おおっ」

「ここの星空は、僕が昔から大好きな景色なんです、皆さんに見せられて本当良かった」
そんな文太の言葉、無邪気な表情に皆の心が微笑んだ。

本当に綺麗で美しい星空

「宇宙は壮大だな」

真堂丸のその言葉に皆は微笑む

「おまえ程の奴の口から壮大って言われても、しっくりこないぜ」と、しんべえの言葉に皆は笑い出す。

「ねえ、お兄ちゃんたち強いの?だったら大帝国をとめて、この国を平和にしてよ」

「こら、ひさこ 変な事、言うんじゃない」

この言葉に皆は、大帝国の脅威がこんな山奥の小さな子供の心にまで及んでいた事を知る。
僕はこの言葉を聴いた時、優しい皆がどんな気持ちになったのか、なんとも言えない気持ちになる。
それぞれの決意がより色濃く表情に表れていた気がした。

同時刻それは、とある町での出来事

「ああ、女狐様」

「あなたは、何故敗北なされたのですか」

「いまだに、信じられませぬ」
能面をつけ、真っ赤な着物に身を包んだ女は嘆く
背後には、天井から吊るされる全裸の死体が十程、揺れている。

「女狐様、この町もこの城の様に、じきに我々の支配下になりそうです」

「良くやった」女は不気味な笑みを浮かべる

「女狐様、妾はあなたの名を継ぎ、この国を恐怖で埋め尽くします」

あなたは不滅

「ヒヤッヒヤッヒヤッヒヤッヒヤッヒヤッヒヤッ」

その女の居る、城の外、その男は居た。
名を氷輪(ひょうりん)と言った。

「おいっ、氷輪。あの不気味な女を倒せるか?」

「もう、この町に、お前をおいて奴に勝てる者はいないだろう」

一体何だってこんな事に。
奴は突然、嵐の如くこの町にやって来た。
「妾は女狐、今から、ここは妾の支配下に落ちた」町中に響き渡る悲鳴。

氷輪は、平和を愛する男だった。
この町で生まれ育ち、誰よりもこの町を愛し、ずっと見守って来た。
真っ白な髪色をするその男、歳23を先日迎えたばかりであった「大帝国の支配はまだ来てなく、安心していたんだがな」
ふぅー 男はため息をつく。
「女狐、奴はあの名のある剣豪真堂丸に敗北したと聞いたが、生きていたのか?」
今はそれより、この状況をなんとかしなきゃな。

「ふぅ、行くか」

ザッ 氷輪は立ち上がる。

目の前の城からは不気味な笑い声が城外まで響き渡っていた。


ヒイッ ヒイッ  ヒイッ  ヒイッ ヒイッ  ヒイッ


同時刻、大帝国の城

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴー

鬼道千閣
奴はいよいよ動きだす


これにより


全てが動きだすこととなる


そう


すべてを巻き込んで


誰にも止めることの出来ないうねりは加速し、遂に動きだした。


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