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32.招待状

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「ゼーマン公爵から、パーティの招待状が来たのですが、どうしましょうかねぇ?」

 そう告げるのは、父様の頼りなさに未だ代替わりが出来ない祖父。 そして語り掛ける相手は母で、そうですねぇ~と母は返す。

「招待だなんて、初めてじゃないの? 一体何を考えてんだか」

 ルドリュ伯爵家は何処の派閥にも所属していない。

 森の民が、無理の無い自然との調和を大切にした魔法を使い、日々の食生活を潤している。 これだけで日常生活は十分に余裕がある訳で、余裕が出来た部分を利用し、珍しい香辛料等を育て、発酵食品をはじめとする保存食の開発を行っている。

 そして、領内では次の段階、贅沢品の準備へと入っていた。

 染料の充実、染色技術の向上。
 彫金の技術者育成。

 綿、麻、絹、毛の元となる植物、動物を育てる。
 魔石燃料の繊維化実験。

 そして!! 魔道具の開発。

 いわゆる贅沢品の開発と言う奴だ。

 まぁ、色々とやっているけど、緑の民が動いている以上、目立つと面倒な事になるから、ウッカリ屋さんで目立ちたがり屋の父は、母にシッカリと管理してもらっている。

 だから、派閥にも入っていない。

 シグルド殿下には協力が大事とか言っていたけど、うちは自己完結しているのよね。

「……」

「お嬢様、変な顔になっていますよ」

「いえ……過去の自分の危険行動を思い出したと言うか……」

 私が溜息をつけば、ランバールは頭を撫でてくれ、私はその手にすり寄った。 現実的に考えて自分を大切にしてくれる身近な人が一番良いと言う事に落ち着いた訳なんですよね。

 派閥に属さず、領内に引きこもり、貴族の付き合いは完全に理解しているとは言い難いですが、うちって伯爵だけど貴族の序列としてはかなり下だと分かれば、領地で静かに暮らしている分相応。

 年を重ね、人と関われば、皇子に夢見る乙女心を持って運命等と言う訳のわからない呪いのようなものを掲げ、理想を押し付け……うわぁ、私ってヤバイ人じゃない? と、なった訳ですよ。

 まぁ、そんな複雑な私の心を無視して、きゃっきゃと父は喜んでいるのですが、ソレが私の癇に障ってイラつく、母が父折檻用の扇子でペシペシしているから良しとする。

「うわぁ~、きっと美味しいものが沢山あるんだろうねぇ~」

「貴方は、外に出す訳にはいかないから」

「え~~、なんでだよ~~。 美味しいご飯食べたい!!」

「皇族だって、うちほど美味しいご飯食べて無いから」

「なら、それはそれで試さないと」

「とにかく!! 貴方は厄介ごとしか生み出さないからダメよ」

「でもさぁ~。 殿下の派閥に参加していない者は参加しろってあるけど? 派閥非参加者同士で力を合わせようって。 これは参加しておかないと、本当に後々困ってしまうんじゃないかな?」

 ドヤ顔で父が言う。

「貴方に行かせるぐらいなら、ヴェルに行かせます。 ラン、守ってやってくださいね」

「お任せ下さい」

「ええええ、ズルイ!!」

 なんて騒ぐ父を完全に無視して、話は勧められて行く。 私は父のように目立ちたがりではないけれど、父が他所の人に愛想をふりまき厄介ごとを持ち込むってのを想像するのは簡単で、そうすると我慢も出来ると言うものです。
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