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26.第二王子の入れ替わり 01
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そして……ランディがジルによって岩石をくり貫き作られた石牢へと入れられた。
「嫌だ、あんな思いは二度としたくない!! ごめん、ごめんなさい。 ごめんなさい!!」
ランディは泣いた。
自分が何をして呆れられ、侮られ、絶望されているかもわからず。
ランディは泣く。
「今度は自分の力で、ちゃんと獣の性と向かい合い……オマエが望む通り、自由になるんだ」
ジルがランディに語り掛ける。
「嫌だ、怖い……何も見えなくなる。 何も考えられなくなる。 あんなのに耐えられない……俺はもう知ってしまったから。 広がる空も大地も」
セグが無邪気にランディに向かって微笑んだ。
「ランディ兄さんは、元々何も見えてないし、考えても居なかったではありませんか? 対して変わりませんよ」
「オマエに!! 何が分かる!! あの恐怖が!! 終わる事のない絶望が!!」
「兄さんは、獣の頃も、今も何も違ってないよ」
優しい微笑みをセグは向ける。
「セグ!!」
「は~い、ごめんなさい。 父上」
嫌だ……頭の中がボンヤリとして、人の言葉が理解できない世界。
ある日、初めて理解した人の言葉。
少女の言葉だけが、全てだった。
『いい子ね。 アナタは特別な子よ。 だってとても賢いんだもの』
そう言ってやってきた世話役の子は、何時もの子と少しだけ匂いも声も姿も違っているだけの全くの別人だった。
『私が、絵本を読んであげるわ。 ドーラにできない事を私がやり遂げれば、きっと大人達は私を見直してくれるはずよ。 私が君を人間にしてあげる。 だから、君は私を唯一無二のご主人様にするのよ!!』
ドロテア……ドロテア……、どうして俺を助けてはくれないの? 君はよく俺のような不完全なものは要らないと言って突き放し、ゴメンって泣いたら嘘よと言っていた。 だけど……本当はいらなかったのかなあ……。
「お願いだ!! ちゃんと人らしくするから!! ちゃんと言う事を聞くから」
「ランディ、獣の姿であっても。 人である事は出来るのですよ。 ラースがそれを示してくれた。 頑張りなさい」
励ましの言葉にどんな意味があるかもわからない。
「なんで、なんで、俺の言う事を聞いてくれないんだ!! 俺はずっとずっと言う事を聞いていたのに。 何時だって……良い子にいたでしょ!! 沢山、言われた通りに人を殺してきたのに!!」
大抵の願いは聞いて来た。
周囲が俺に願うのは、殺す事だったから簡単だった。
ただ1人だけ、難しい願いを言ってきた。
人に嫌われたら殺される……だからいい子でいなければいけないのに……どうすればいいのか分からなくて、彼女をどう扱えばいいのか分からないまま、彼女自身の願いをかなえてしまった。
俺は、どうすればいいの?
とても弱そうで、柔らかそうで……白くて……美味しそうな生物は良く笑って、鈴のような声で話しかけてくる。 だから、俺は何時だって困っていたんだ。
『彼女に触れてはいけないの。 彼女は壊れやすいから。 だから、彼女に嫌われなさい。 そうすれば困らせられる事もなくなるから』
ソレは少し寂しい気がする。
そう言ったら叱られた。
『彼女は王様の大切な人よ。 アナタがウッカリ殺していい人じゃないの。 だから、嫌われるのよ?』
そう命じたドロテアは、嫌われるための言葉を教えてくれた。
その時少し胸が……痛かったような気がしたんだ。
「シ(ア)」
何かを叫ぼうとした瞬間、ジルがその口に布地を突っ込んだ。 静かに受け入れてくれたなら楽だったのに……と、王もジルも考える。
「天使殿」
殆ど知らないままに終わった人だけれど、悲痛な叫びはやっぱりつらい。 だからと言ってラースだけが犠牲になれば良いとは思わない。
「コレは、私の願いです」
王様が優しく囁いた。
「うん、魔力を注げばいいのね?」
「はい」
「うん……」
人を殺すのは嫌。
人が殺されるのを見るのも怖い。
コレは?
ランディの叫びに混ざり、パタパタとラースが尻尾で石の台座を叩く音が聞こえた。 視線を向ければ、森の木々と同じ色をした瞳に気づいた。 それはずっと昔、私に世界は怖くないよと教えてくれた瞳の色。 笑う瞳は王様と良く似ている緑の瞳。
「ヴィズ、人の姿に戻っては天使殿の触りになる。 準備した布をかけてやってくれ」
王様の言葉にラースがふんッとソッポを向いた。
「天使殿。 さぁ」
私は宝珠に魔力を注ぐ。
宝珠に触れた手が……移動する獣に触れた気がした。 1匹の成獣と1匹の子供の獣がラースの中で仲良く眠っている。 そんな感じがした。
安寧とした眠りから起こされ、引き離される子供の獣は嫌だ寂しいと暴れていた。 宝珠はソレを引きはがし、ラースからランディへと送り出す。
想像していたような恐怖は無かった。
荒ぶる思いも。
切なさも。
嘆きも。
知らない思いが自分に流れて来たから。
好きになった少女との再会。
歓喜。
コレは全てラースの思い出。
ラースのもの。
薄まる意識の中、ランディは思った。
主人と選んだのが、もう一人の少女だったら……俺の運命は変わったのだろうか?
ランディは、幸福の中……その意識を失った。
そして……ラースにかけられた布地の下の形が変わる。
もう一匹の獣が溶けだそうとしたとき。
シアが、かつて聞いた声よりも、低く、甘い声がかけられる。
「もういい、もういいから。 俺の獣性を全て奪われても困る」
そう、布地から顔を出した緑の瞳が笑う。
「嫌だ、あんな思いは二度としたくない!! ごめん、ごめんなさい。 ごめんなさい!!」
ランディは泣いた。
自分が何をして呆れられ、侮られ、絶望されているかもわからず。
ランディは泣く。
「今度は自分の力で、ちゃんと獣の性と向かい合い……オマエが望む通り、自由になるんだ」
ジルがランディに語り掛ける。
「嫌だ、怖い……何も見えなくなる。 何も考えられなくなる。 あんなのに耐えられない……俺はもう知ってしまったから。 広がる空も大地も」
セグが無邪気にランディに向かって微笑んだ。
「ランディ兄さんは、元々何も見えてないし、考えても居なかったではありませんか? 対して変わりませんよ」
「オマエに!! 何が分かる!! あの恐怖が!! 終わる事のない絶望が!!」
「兄さんは、獣の頃も、今も何も違ってないよ」
優しい微笑みをセグは向ける。
「セグ!!」
「は~い、ごめんなさい。 父上」
嫌だ……頭の中がボンヤリとして、人の言葉が理解できない世界。
ある日、初めて理解した人の言葉。
少女の言葉だけが、全てだった。
『いい子ね。 アナタは特別な子よ。 だってとても賢いんだもの』
そう言ってやってきた世話役の子は、何時もの子と少しだけ匂いも声も姿も違っているだけの全くの別人だった。
『私が、絵本を読んであげるわ。 ドーラにできない事を私がやり遂げれば、きっと大人達は私を見直してくれるはずよ。 私が君を人間にしてあげる。 だから、君は私を唯一無二のご主人様にするのよ!!』
ドロテア……ドロテア……、どうして俺を助けてはくれないの? 君はよく俺のような不完全なものは要らないと言って突き放し、ゴメンって泣いたら嘘よと言っていた。 だけど……本当はいらなかったのかなあ……。
「お願いだ!! ちゃんと人らしくするから!! ちゃんと言う事を聞くから」
「ランディ、獣の姿であっても。 人である事は出来るのですよ。 ラースがそれを示してくれた。 頑張りなさい」
励ましの言葉にどんな意味があるかもわからない。
「なんで、なんで、俺の言う事を聞いてくれないんだ!! 俺はずっとずっと言う事を聞いていたのに。 何時だって……良い子にいたでしょ!! 沢山、言われた通りに人を殺してきたのに!!」
大抵の願いは聞いて来た。
周囲が俺に願うのは、殺す事だったから簡単だった。
ただ1人だけ、難しい願いを言ってきた。
人に嫌われたら殺される……だからいい子でいなければいけないのに……どうすればいいのか分からなくて、彼女をどう扱えばいいのか分からないまま、彼女自身の願いをかなえてしまった。
俺は、どうすればいいの?
とても弱そうで、柔らかそうで……白くて……美味しそうな生物は良く笑って、鈴のような声で話しかけてくる。 だから、俺は何時だって困っていたんだ。
『彼女に触れてはいけないの。 彼女は壊れやすいから。 だから、彼女に嫌われなさい。 そうすれば困らせられる事もなくなるから』
ソレは少し寂しい気がする。
そう言ったら叱られた。
『彼女は王様の大切な人よ。 アナタがウッカリ殺していい人じゃないの。 だから、嫌われるのよ?』
そう命じたドロテアは、嫌われるための言葉を教えてくれた。
その時少し胸が……痛かったような気がしたんだ。
「シ(ア)」
何かを叫ぼうとした瞬間、ジルがその口に布地を突っ込んだ。 静かに受け入れてくれたなら楽だったのに……と、王もジルも考える。
「天使殿」
殆ど知らないままに終わった人だけれど、悲痛な叫びはやっぱりつらい。 だからと言ってラースだけが犠牲になれば良いとは思わない。
「コレは、私の願いです」
王様が優しく囁いた。
「うん、魔力を注げばいいのね?」
「はい」
「うん……」
人を殺すのは嫌。
人が殺されるのを見るのも怖い。
コレは?
ランディの叫びに混ざり、パタパタとラースが尻尾で石の台座を叩く音が聞こえた。 視線を向ければ、森の木々と同じ色をした瞳に気づいた。 それはずっと昔、私に世界は怖くないよと教えてくれた瞳の色。 笑う瞳は王様と良く似ている緑の瞳。
「ヴィズ、人の姿に戻っては天使殿の触りになる。 準備した布をかけてやってくれ」
王様の言葉にラースがふんッとソッポを向いた。
「天使殿。 さぁ」
私は宝珠に魔力を注ぐ。
宝珠に触れた手が……移動する獣に触れた気がした。 1匹の成獣と1匹の子供の獣がラースの中で仲良く眠っている。 そんな感じがした。
安寧とした眠りから起こされ、引き離される子供の獣は嫌だ寂しいと暴れていた。 宝珠はソレを引きはがし、ラースからランディへと送り出す。
想像していたような恐怖は無かった。
荒ぶる思いも。
切なさも。
嘆きも。
知らない思いが自分に流れて来たから。
好きになった少女との再会。
歓喜。
コレは全てラースの思い出。
ラースのもの。
薄まる意識の中、ランディは思った。
主人と選んだのが、もう一人の少女だったら……俺の運命は変わったのだろうか?
ランディは、幸福の中……その意識を失った。
そして……ラースにかけられた布地の下の形が変わる。
もう一匹の獣が溶けだそうとしたとき。
シアが、かつて聞いた声よりも、低く、甘い声がかけられる。
「もういい、もういいから。 俺の獣性を全て奪われても困る」
そう、布地から顔を出した緑の瞳が笑う。
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