偽りの婚姻

迷い人

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3章 オマジナイ

41.真実の愛など必要ない!

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 シヴィルからの接触。 そして許し。

 それが継続的なものなのか? それとも今だけなのか?! 何か心理的に追い込まれてしまっているがための許可なのか? 今だけならと考えれば、この幸せを手放してどうなるんだ? パーシヴァルの心は焦りと戸惑いが渦巻く。

 もし、シヴィルが望むなら。 パーシヴァルは王の呼び出しでさえ不遜な態度で拒否をしただろう。 自分に定めた『普通』を基準とするというルールすら捨てただろう。

 焦りは、パーシヴァルの飢えを露わにする。
 シヴィルの唇に触れ、舌でなぞるように舐め、甘く噛む。

 戸惑うシヴィルに甘く微笑みながら、そっと優しく触れ続ける。

 逃がす気はない。
 求めたのはシヴィルだ。

 ソレは唇だけではなく、頬に耳元にまで移動し、シヴィルを戸惑わせていた。

「ちょ、ま、まっ、待って!! パーシィ!! 仕事仕事!!」

 5mと言ったパーシヴァルの言う距離だが、その理由がわかった……騎士団に向かってライオネルが来たのだ。 角を曲がる馬車の姿が見え、バンバンとストップをかけるようにその背を叩いた。

 シヴィルの肩に隠れるように顔を埋め、大きく息を吐いた。

「パーシィ、パーシヴァル様、閣下、お仕事してきてください」

「だって……」

 このまま自分シヴィルを食べてしまうのでは? という勢いにも困ったが、お預け喰らった犬のような顔をされても困る。 それでもなだめるように大きな身体を抱きしめる。

「ねっ、戻ったらお茶でもしましょう?」

「お茶だけか?」

「……まるで、パーシィは私の事が好きで仕方がないって感じね」

 それは、試すようでズルイ言葉だなぁ……と、シヴィルは思いながら、それでも好きって言ってもらえれば、今日1日の胸のモヤモヤが全て消えるように思えてズルイ誘導をしてみた。

「ずっと好きだと伝えてきたと思うが? それとも足りなかったのか?」

 耳元に口づけ、そしてどこまでも甘く囁く。

「愛している」

 ゾワリとした感触に、身が震えるのは心も耳元もくすぐったいから。 欲しいものを与えられ、私はどうすれば……実感したばかり……それも周囲の促しによって、無理やり自覚させられた気持ちを言葉にするのは……。

「シヴィ」

「何?」

 その瞳は、シヴィは言ってくれないのか? と言っているようで。 それでも溜息交じりの苦笑で、パーシィは許し、そしてシヴィルを誘った。

「今度、ミランダ侯爵令嬢の屋敷で、少しばかり重要な社交界が行われる。 一緒に出てくれないか?」

「それは、身分が……」

「そう難しい事を考えずとも、色々誘いをかけてくる女避けぐらいの気持ちでいいよ。 というか……俺を守って?」

 お茶目な様子でパーシィに言われれば、

「仕方がありませんね。 大好きなパーシィの頼みです。 わかりました」

 ニッコリ微笑んだ。
 今は、それがシヴィルにとっての精一杯だった。

「ありがとう」





 仕事に戻ったパーシヴァルは、周囲が引くほどでご機嫌だった。

「ズイブンとご機嫌だな……」

 戻ってきたパーシヴァルに告げるライオネルは、不機嫌で不遜な態度でソファで足を組み、大きく背もたれに背を預け、見下した視線を向けていた。

「申し訳ございません殿下」

 扉の側で、ヒザをつき頭を下げるパーシヴァル。

「……逆にムカつく」

 ピリピリした状態のライオネルに反して余裕でご機嫌なパーシヴァルは、何を言われても聞き流すだろう。 いや、現状も余り物事を聞いていないという方が正しいかもしれない。

「で、なんですか? ついにシヴィを」

「そう、聞いてくれ!! シヴィの方からキスをしてくれたんだ」

 溜息と呆れのこもった声で、ライオネルは「はんっ!」と鼻で馬鹿にするような様子を見せ、言葉を続けた。

「……なんだ、押し倒して喰ったのかと思いましたよ。 その程度で喜べるなんて幸せですね」

「まぁまぁ、上司にしてみれば快挙です。 我々も後押ししたかいがあったというものです」

「ということは……」

 ニコニコとしながら、ルーカスは言う。

「少しばかり先生の心をつつかせて頂きました」

「ほぉ、やっぱりシヴィを泣かせたのはオマエか……」

「ぇ、いや、その……あ、、あああ、アイザックと2人で、少しばかり先生に自覚をしていただこうかなぁ~~~って、それもこれも上司を思えばこそ! それに、恋心が無いならないで何時までも上司を捕えていられるのも……」

「余計なお世話だ! 何があろうと俺はシヴィを譲らないし、泣かす奴は許さん」

 結局、ルーカスは強烈な拳骨を落とされ、そして臨時ボーナスを約束された。 怒っているのか喜んでいるのか……。

「ヴァル、そこまでにしておけ……侯爵令嬢の顔面が体裁を保てなくなりそうだ」

 目をぎらつかせ、前のめりになり、手には紙とペンを持ちぶつぶつと呟いている「もっともっともっと」と……。

「な、な、な、なんだ?」

 流石の将軍閣下パーシヴァルも怯え引く。

「それで、何がありましたの!!」

「ぇ、あ、いや……」

「どのような?!」

「あ、別に語るほどの……」

 そしてシバラクは、ミランダ侯爵令嬢のターンが続いた。



 それが終われば、ライオネルとミランダ侯爵令嬢の婚約発表を行う場の警備打ち合わせが行われた。

「うちの隊員の実家でも、ナイジェルに心酔する者が多くて警備業務を拒絶する者が出るでしょうね。 そうなると、どうしても人員が足りなくなりますが……」

「ライと侯爵令嬢は、俺が注意するから問題ないだろう。 派閥の問題から警備を嫌がるものには、会場の外で身を隠し警護をさせ、逆にレイランド侯爵家と共にある一族は、目につきやすい場所で、与えられた地位と権力を見せつけながら警備業務に参加させればいい」

「では、そのように手配しておきます」



 この婚約は完全なまでの政略であり契約である。

 だが、ライオネルもミランダも、放っておけば自分は結婚等することは無い事を理解していた。 2人ともがそういう訳にはいかない立場でありながらも……。

 ライオネルもミランダも、その地位の高さから結婚は国王陛下の許可が必要である。

 真の愛情を!!

 求められる結婚の条件は、地位ではない。 どこまでも愛し合う二人でなければ許可しないというもの。

 そんなもの存在するんですか?
 本当に、アナタはアレを愛しているんですか?
 本当にあの姿を見て、愛していると言えるんですか?

 母である王妃の何時までも子供のような姿を父王に見せつけ、それがいかに愚かな、知性の足りない行為なのかをみせつけ、本当に愛しているのか? そう耳元で囁き問いかけたいと何度思ったことか……。

 それでも、父王が最高権力を握っている以上ライオネルは、我慢していた。 戦争を終え、貴族達を取り込み、王位を自分の手に掴もうと段取りをしていた。

 それを!! 

 ナイジェルによって邪魔された。

 ナイジェルに対する怒りは、もしかするとパーシヴァルよりもライオネルの方が強いかもしれない。



 愛情は信用できない。



 そう思うライオネルにとって、幼い頃から侯爵令嬢としての演技に長け、知恵も回るミランダは、共犯者として丁度良かった。 奇妙な本を作り、奇妙な組織を作り、許容するには難しいが……だからこそ、共犯者となればライオネル優位で事を進める事ができるだろうと考えられた。

 そもそも高圧的にでるほど、喜び、従順に従ってくれるのだから、話は早かった。 息を荒くし頬を高揚させ、恍惚とした表情を見せられれば、引きたくなる時もあるが……。 まぁ、それぐらいは許容の範囲だ。

 そんな契約的婚約を決意した自分と、長い恋が少しばかり前進した友人。

 ライオネルは小さく囁くようにいう。

「良かったですね」

「あぁ、まだ先は長いがな」



 ライオネルは思い出す。



 学生の頃、父への鬱屈をパーシヴァルに向けたときのことを。

「恋などばかげたものに浮かれるな! 家、地位を権力を、自らの力を発揮できる最大限の環境を自分に与えろ! 恋だ、愛だ? そんなものバカげている!!」

 友人は血に飢えた獣のような表情となった。
 言葉を発することもなく、ただただ愛を否定されたと怒った。

 獣を前に、その時ライオネルは死を覚悟した。

 たかが、それくらいで?

 とも思ったが、それでも……目の前に突き付けられたのは死だった。

 愛に恋に浮かれているものが父王のようなものばかりではないことを、ライオネルは知ることとなったが……、



 ソロソロ父王を廃棄処分にしたいのだが……。
 これ婚約で、攻勢が変わってくれると良いんですけどね……。

 まだまだライオネルの苦労は終わりそうにない。
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