【R18】彼等の愛は狂気を纏っている

５章

64.コレクター 05

　なぜ……なぜ、他の男といる？
　私がコレほどまで尽くしているのに……。

　なぜ、微笑みかける？
　なぜ、人間のように……。

　なぜ……。
　どうして？

　君は、そうも変わった？！

　彼の知る児珠雫は、儚げで死んだように生きているような子だった。

『加奈子の絵は、もっと抽象的だけど……抽象的なものを、人体で表現するのは難しいと思うの。　命を意味する血の流れ。　まさか血管以外を排除するのが無理だって、考えた結果、身体に模様を彫ったのだと思うの』

　そう語る雫を見れば、自分を理解し賛美しているかのような様子に心が震えた。　同時に……そんな雫を受け入れる事が出来なかった。

　なぜ、変わったんだ？！

　彼にすれば神々しさが失せた。　と言う事になる。

　やがて男は目にした。
　晃にしがみつき、頼るように甘える雫の姿を。

　オマエが、オマエが妻を変えたのか？！
　私の大切な人を奪ったのか！！



　大勢の人間がソコにいるが、彼には全く見えていなかった。

　見えるのは妻である雫と。
　そして、雫を奪った男。

　あぁ、その男を殺せばいいのか、そうすれば……君は私の元へ戻って来る。

　そうだ、彼女は私の側にいなければいけない。
　だって、彼女の命は私が伸ばしているのだから！！
　私によって……生きながらえているのだから。

　その男に騙されたんだね。

　君は、私に生かされていると言う事実も知らず！！

　今、君を救い出し……そして、君に永遠を上げよう。

　私の愛を、真実の愛を伝えよう。



　彼は、その場を離れ、防空壕内に隠されていた銃を取りに走った。　そんな彼に現場を荒らすなと言う声が幾度もかけられた。

　誰も彼をオカシイとは思っていなかった。
　明かりがあるのは作業用の場所と広場にだけ。

　男が走り回っていても、忙しい捜査中の者達が気にする余裕もなかった。　何か言いつけられたのだろうぐらいで見逃していた。　彼等は警察機構に値する職務を与えられているが、実戦経験はほぼ存在しないに等しく、犯罪捜査のマニュアル等与えられても居ないのだから。



　男は銃の腕には自信があった。
　防空壕内には幾つも銃が隠されていたから、十分な量を練習にあてたと言うべきか……、気分が沈んだ日等には良い気分転換にもなったし、実践にも使った。

　身体に目を埋めようとしたのは、銃で空いた穴をどう埋めようかと考えた結果だった。

　その銃が明らかに大戦時代のものでない事にも彼は気づいていないし、考えた事もない。　ただ、自分の都合の良いものが防空壕内で見つかりだした時。　彼は神に認められたのだと余り多くを考える事は無かった。

　彼は、余り細かな事を記憶していない。
　余計な事は考えない。
　悩む事は嫌いだから。



　そう、悩む事は嫌いだ。



　早く解決しなければ。



　広場に3度の銃声が響いた。

「へっ？　あれ？　どうして？」

　男の戸惑い。
　晃の叫び声。

　誰かが男を捕らえろと叫んでいた。



　男は、晃の心臓を狙ったはずだった。
　だが、銃弾は晃を庇った雫が全て受け止めていた。

　晃の心臓部分の高さが、丁度雫の頭の位置にあった。

　頭部が撃ち抜かれた。
　顔面に2発の玉を受けた。
　はじけ飛ぶ頭と顏。

　それが、雫の物だと知った男は、絶叫を上げた。

「あっぁっぁぁっぁぁぁあ、ダメだ、ダメだ、ダメだ。　生贄を、今すぐ生贄を」

　そして震える手で、側に居る人間に銃が向けた時。

　走り寄ってきた晃が男を羽交い絞めにすた。

　男は、何かを悩み考える瞬間を与えられる事は無かった。

「ダメだ！！　晃！！」

　新見の叫び。

　晃は、男の首をコキッと折った。



　呆気なく男は死んだ。