『さよならの前の、あと一言』

『さよならの前の、あと一言』

ねえ
人はどうして
いなくなってから
言葉を残すのだろう

生きているときには
照れくさくて
飲み込んでしまった
たった一言を

時間の外側で
やっと手渡すみたいに

---

ポストの奥で眠っていた声が
ある日ふいに
息をしはじめる

触れた指先に
かすかな温度が宿る

もう会えないはずの人が
紙の中で
こちらを見ている

---

「ごめんね」じゃなくて
「ありがとう」でもなくて

どうしてそれなの、と
思うような
小さな言葉ばかりが並ぶ

ちゃんと食べてね
無理しないでね
あの花に水をあげてね

愛してる、よりも
ずっと重くて
ずっとやさしい

---

届くのは
遅すぎるくらいの
さよならのあと

それでも
遅すぎることなんて
本当はなかったみたいに

言葉は胸の奥で
静かに根を張る

---

泣きながら
人はやっと知る

残された側の時間が
続いていくことを

その先に
もう一度
歩き出すしかないことを

---

だからきっと
最後の一言は

別れのためじゃない

生きていくためにある

---

ねえ
もしも今
伝えられるなら

難しい言葉じゃなくていい

ただひとつ

消えてしまう前に

ちゃんと

あなたの声で

言ってほしい

---

「またね」でもいい

それだけで
人は
もう少しだけ
生きていけるから

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