普通の夫だと思ってた 〜無自覚な俺が、5年間の「記録」に殺されるまで〜

『普通の夫だと思ってた』

~無自覚な俺が、5年間の「記録」に殺されるまで~


普通だと思っていた
朝、起きて
飯が出てきて
少し文句を言って

それでも回る生活を
当たり前だと思っていた

「母さんの方がうまいな」

軽い冗談のつもりだった
笑ってくれると思っていた

黙っていた理由を
考えたことはなかった

---

普通だと思っていた
働いて
稼いで
家に帰る

それだけで
十分だと信じていた

「俺は何もしてない」

本気でそう思っていた

---

気づかなかった

皿の置き方が
言葉の棘が
視線の冷たさが

少しずつ
削っていたこと

---

残っていたのは
音だった

「無能」
「役立たず」
「母さんならできる」

知らない声が
部屋に響く

いや

全部
俺だった

---

普通だと思っていた

怒鳴らなければ暴力じゃないと
殴らなければ優しいと

そう思っていた

---

でも違った

何もしていないと思っていた時間が
一番、壊していた

---

五年分の沈黙が
机の上に並んだとき

初めて知った

あれは
記録じゃない

傷跡だった

---

「1000万円」

数字は軽いのに
息ができなくなる

払えないからじゃない

理解したからだ

---

あの日の朝

止まった手
伏せられた目

全部、見ていたはずなのに

何も見ていなかった

---

普通の夫だと思ってた

そう思っていたのは
俺だけだった

---

声が、残る

笑っていたはずの部屋に
もう誰もいない

---

遅すぎる

そう思った時には
もう

全部終わっていた

---

それでも

頭のどこかで
まだ思っている

「俺は、何もしてないのに」

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