『砂漠の薔薇と下町の湯』 ― 12人のプリンセス、はじめての自由 ―

『砂漠の薔薇と下町の湯』

― 12人のプリンセス、はじめての自由 ―


黄金は、重かった
あまりにも静かで
あまりにも完璧で

触れればすべてが与えられる世界で
彼女たちは
一度も「選んだ」ことがなかった

---

空の上で迷い
名前も通じない街に降り立ち

その夜
彼女たちは初めて
自分の足で、迷った

---

暖簾をくぐると
湯気が、すべてを曖昧にした

宝石も
肩書きも
沈んでいく

ただの身体が
そこに残った

---

熱い湯に触れたとき
誰かが笑い
誰かが水をはね

世界は
こんなにも近くで
こんなにも無関心に
優しかった

---

床を拭く手は
震えていたけれど

その震えは
命令ではなく
意思だった

---

歪なかたちの甘さを
指先で生み出したとき

彼女たちは知る

美しさとは
与えられるものではなく
生まれるものだと

---

一つのコロッケを
分け合う夜

足りないはずなのに
なぜか満ちていく

それはきっと
空腹ではなく
孤独が、満たされていたから

---

言葉は届かなくても
涙は同じ速さで落ちた

どこにいても
誰であっても

同じ場所に
痛みはあるのだと知る

---

踊りの輪の中で
彼女たちは消えた

特別ではない
ただの一人として

それが
こんなにも軽いなんて

---

最後の食卓
不格好な卵の中に

初めての「ありがとう」が
包まれていた

---

再び空へ戻るとき
彼女たちは何も持たない

けれど
すべてを持っていた

---

砂漠に帰り
風の中で思い出す

あの湯気
あの笑い
あの温度

---

そして
彼女たちはつくる

誰もが服を脱ぎ
名前を脱ぎ
役割を脱ぐ場所を

---

そこに響くのは
命令ではなく

ただ一つの声

---

「おかえり」

---

それが
世界でいちばん
自由な言葉だった

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